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シンクロ率0%の没落令嬢、中身は伝説のエース(65歳) 〜「最近のロボットは軟弱じゃのう」とお茶を啜りながらマニュアル操作で無双する〜  作者: ぱすた屋さん
鋼と翼の聖女:鋼鉄の翼と銀の偶像(アイドル)

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第十四話:偶像の拡散、あるいはハッキング配信

 空中要塞『アイアン・パレス・アルファ』の最深部。第3部隊(電脳・通信戦)の作戦室は、青白い物理パルスのノイズと、巨大な冷却ファンが空気を切り裂く唸り声に満たされていた。中央コンソールで指揮を執るのは、三十三歳の電脳戦責任者、クラウスである。


「……。クラウス。準備は。いいか。……。物理通信の。波形で。教皇庁の。メッキを。剥ぎ取って。くれるわい」


 特設スタジオのモニター越しに、セリナ・アルスタインが重々しく告げた。

 だが、その威厳に満ちた声とは裏腹に、セリナの姿は壮絶なことになっていた。広報担当のミリーが「視覚的インパクトと情報の可視化」を求めて用意した、物理の光を象った青と黒の超多重フリルドレス。中身が六十八歳の老兵である彼女にとって、この姿は魔導機甲師団の包囲網を単機で突破するよりも精神を削る苦行であった。


「セリナ様、全回線の掌握、完了しました。魔法という名の不透明な霧を、物理の光で焼き払いましょう」


 クラウスが敬意を込めて呼び、冷徹にコンソールを叩く。その傍らでは、ジャンが軍の廃棄場から「拾い集めてきた」高周波増幅器を無理やり繋ぎ合わせ、教皇庁の魔法障壁を物理的に貫通する巨大な増幅アンテナを微調整していた。


「師匠、最高ですよ! この拾い物の回路が、世界を書き換える『槍』になります。さあ、最高のステージを叩き込んでやりましょう!」


「……。ジャン。……。お主。後で。自由落下。させて。やるからな。……。わしを。人形に。するな」


 セリナは震える声でそう告げたが、ジャンは不敵に笑うだけだった。一方、スタジオの袖でタブレット端末を手にテキパキと指示を出していたフェイが、モニター越しにセリナへ視線を送った。


「師匠、カメラ入ります。大丈夫、いつも通りやればことわりは伝わります。師匠のその姿が、何よりも説得力を持つんですから」


 フェイの瞳には、一番弟子としての揺るぎない信頼が宿っていた。彼女にとって、師匠のライブはすでに完成された啓蒙戦術の一つだ。セリナの美しさと物理学の正確さが融合した時、教会の嘘が崩壊することを彼女は誰よりも確信していた。


「全回線、ジャック開始。ポロ、位相変調を最大に。……。物理パルス、射出!」


 クラウスの鋭い号令と共に、ポロがキーを叩いた。

 その瞬間、王国中の巨大魔導モニターが一斉に切り替わった。映し出されたのは、高度三万メートルから見た、漆黒の宇宙と湾曲した青い大地。そして、その虚空を背に舞い降りる、白銀のギアドライブ『エグゾスフィア』の威容。


「……。……。見苦しい。奇跡は。もう。十分じゃ」


 セリナの声が全世界に響く。物理の法則を振り付けに込めた『物理ダンス』の重低音が鳴り響き始めた。

 セリナは、死ぬほどの羞恥心をエドワードの鉄の意志でねじ伏せ、踊り始めた。手の動きで正弦波を描き、ステップで慣性の法則を表現する。その一挙手一投足に合わせ、エレーナが算出した物理公式が画面に刻まれる。


$$d \approx \sqrt{2Rh}$$


 高度三万メートルから見える水平線までの距離。セリナは踊りながら、残酷なまでの真理を突きつける。


「……。空は。神の。領域ではない。……。ただの。真空じゃ。……。この。丸い。大地を見よ。……。お主らが。拝んでいる。エリュシオンは。ただの。石の。塊じゃ」


 王都の広場では、民衆が腰を抜かしていた。第一小隊長の二十一歳のレンが、エースとしての鋭い眼光でモニターを見上げ、誇らしげに笑った。


「はっ、相変わらず無茶をやる。……。セリナ様、これこそが俺たちの選んだ『理』ですね。数式で測れぬ奇跡など、もう必要ない」


 ハンスが拠点のモニター前で大粒の涙を流し、巨体を震わせて拳を突き上げる。

「セリナ様……! なんて気高いお姿なんだ! あの丸い大地を見せるために、あんな屈辱的な踊りまで……! 俺は一生、あなたを仰ぎます!」


 ダンスの最終盤、セリナはカメラのレンズ越しに、全世界の民衆を射抜くような鋭い視線を向けた。

 

「……。物理は。平等じゃ。……。計算せよ。……。お主らの。手にある。重力こそが。唯一の。真理じゃ」


 配信が終了した瞬間。セリナはスタジオの床に膝をつき、顔を覆った。

「…………。わしを。撃て。……。フェイ。……。わしを。今すぐ。この。フリルと共に。物理的に。消去せよ……」


 スタジオの扉が、静かに開かれた。フェイは床に蹲るセリナに駆け寄り、持ってきた厚手のショールでその体を包み込むように抱きしめた。


「師匠、お疲れ様でした。完璧な広報活動でしたよ。……。ほら、そんなに落ち込まないで。お茶の用意はできていますから」


「……。……。フェイ。……。お主。……。わしが。この格好で。どれほど。消耗。したか。分かって。おるのか」


「分かってますよ。だからこそ、一番弟子のわたしが最高のお茶を淹れるんです。……。さあ、行きましょう。世界は今、ひっくり返っていますよ」


 セリナの震えが、フェイの腕の中でゆっくりと収まっていく。ハッキング配信という「偶像の拡散」は、世界を覚醒させた。物理航空団の絆は、もはや教皇庁のいかなる奇跡でも引き裂けないほどに、強固なものとなっていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回「偽聖女の烙印、あるいは断絶の壁」。

ついに教皇庁がセリナを「世界を狂わせる魔女」として指名手配。

そして、物理拠点に対する過酷な経済封鎖が始まります。お楽しみに。


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