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シンクロ率0%の没落令嬢、中身は伝説のエース(65歳) 〜「最近のロボットは軟弱じゃのう」とお茶を啜りながらマニュアル操作で無双する〜  作者: ぱすた屋さん
鋼と翼の聖女:鋼鉄の翼と銀の偶像(アイドル)

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第三話:アイドル・メンテナンス、あるいはフェイの執念

日間と週間にランクインしていました!

ありがとうございます!!


記念で早めに3話投稿させていただきます。


 空中要塞『アイアン・パレス・アルファ』の最深部、医療ブロックと精密機械整備班の区画が交差する場所に、その「診療室ドック」は存在する。

 ライブという名の全世界宣戦布告を終えたセリナ・アルスタインは、今、冷たい医療用ベッドの上で、フェイの執拗なまでの「点検メンテナンス」を受けていた。


「師匠、右の広背筋にわずかな強張りが。……第三コーラスの『物理の旋律メロディ』の際、慣性移動を強引にキャンセルしましたね。……あそこの機動は、あと〇・二秒ほど溜めを作らないと、心肺補助機能(LSS)の排熱が追いつきません」


 フェイは白衣のような薄いパイロットスーツを纏い、丸眼鏡の奥に狂気的な数値を躍らせながら、セリナの肌に直接センサーを当てていく。十六歳になった彼女の手先は、かつての少女のそれではなく、機械の悲鳴を聞き分ける熟練整備士の如き鋭さを持っていた。


「……フェイ。……くすぐったいから、その吸盤を離せ。……。……そもそも、あのダンスの振り付けを決めたのはお主だろうが。……空戦機動を三次元的に再現しろと言われたから、わしは忠実に重力と格闘したまでじゃ」


「だからこそです。……セリナ様の肉体は、この航空団にとって唯一無二の、交換不可能な『コアユニット』なんですよ。……衣装(耐Gドレス)のデータログを見てください。……心拍数一八〇、最大加速度四・五G。……これだけの負荷を笑顔でこなせる十六歳がどこにいますか。……私の計算を、あなたの根性マニュアルで上書きしないでください」


 フェイはぷりぷりと怒りながら、セリナの首筋に残ったドレスの圧着痕を愛おしそうに指先でなぞった。

 セリナは、天井の無機質な照明を見上げ、内心で深い溜息を吐いた。


(……やれやれ。……前世では、機体から降りればせいぜい軍医に酒を控えろと言われる程度だったがな。……今は脱がされるだけで一仕事だわい。……。……最近の整備士は、主(機体)への執着が強すぎてかなわん)


 中身が六十五歳の老兵である彼女にとって、この過保護なメンテナンスは、気恥ずかしさと居心地の悪さが同居した、何とも形容しがたい時間だった。


 そこへ、自動ドアが景気よく左右に弾け、一人の少女が飛び込んできた。


「アネゴ! お疲れ様! 最高のステージだったよ!」


 第2小隊長サシャ(一八)だ。金髪のベリーショートを揺らし、額に乗せたゴーグルを輝かせながら、彼女はベッドの脇まで一気に距離を詰める。帝国のジャンク漁り出身の彼女は、アイアン・パレス内でも最も「野生」に近い感性を持っていた。


「……サシャか。……騒がしいぞ。……ここは病室……いや、整備場じゃぞ」


「いいじゃない、硬いこと言いっこなしだよ! それよりアネゴ、後半のあのバレルロール風のターン! あれ見て、私の『ケストレル』でも再現できるか計算してみたんだけど、燃料噴射のタイミングがシビアすぎて無理だった! やっぱりアネゴは空の上だけじゃなくて、ステージの上でも変態だね!」


「……褒め言葉として受け取っておこう。……。……お主も、あの時、積乱雲の下でよく飛んだ。……村の防衛、合格点じゃ」


「へへっ、ありがと! でもさ、フェイの作ったあの音響爆弾スピーカー、マジでヤバいね。低音が響くたびに、機体の装甲が共振して勝手にアフターバーナーに火が入るかと思ったよ。あれさ、次は空戦でも使えないかな?」


 サシャの無邪気な提案に、部屋の隅に控えていたクラウス(三三)が、冷徹な足音を響かせながら歩み寄ってきた。


「サシャ小隊長。……既にその案は、私の戦術案に組み込んである。……セリナ様、ライブのデータ、拝見しました」


 元・帝国の実験機教官であるクラウスは、軍人然とした鋭い視線で、ポロから送られてきた戦域データをホログラムに投影した。


「セリナ様の歌声に乗せた特定の周波数が、周囲のマナ(精霊の活動)を、最大で四二%減衰させていることが実証されました。……物理的な振動が、精霊の『歌(マナの結束)』を物理的に妨害している。……これはもはやライブではなく、広域制圧型ジャミング兵器の試験運用と呼ぶべきでしょう」


「……クラウス。……お主までそんな言い方を。……。……わしは、イザベラの口車に乗せられて、アイドルなどという小っ恥ずかしい役割を引き受けたんじゃ。……それを兵器呼ばわりされると、わしの乙女心が傷つく……気がするわい」


「乙女心、ですか。……申し訳ありませんが、私には『物理による暴力』を美しくパッケージングした最先端の戦術にしか見えません。……セリナ様。……あなたの顔が世界に晒されたことで、教皇庁の魔導師たちは今、未知の恐怖に直面しています。……彼らにとって、魔法という奇跡を『周波数』という数字に分解するあなたの歌は、死神の宣告も同義です」


 クラウスの言葉には、かつて魔法の軍隊に絶望した男ならではの、残酷なまでの期待が込められていた。

 彼はセリナを単なる聖女としてではなく、古い世界の理を物理的に粉砕する「新型兵器」として、心から信頼し、畏怖しているのだ。


「……はぁ。……皆、夢中になりすぎじゃな。……。……レン、お主はどうした。……そこに立っておらんと、入ってこい」


 セリナが部屋の入口を睨むと、一人の青年が影のように姿を現した。

 第1小隊長レン(二一)。元・王国の無魔力歩兵である彼は、一歩も部屋に入らず、廊下で直立不動の姿勢を保っていた。


「……自分は、護衛任務中です。……セリナ様の、その、衣装が整うまでは立ち入る許可を頂いておりません」


「……堅苦しいわい。……。……レン、お主もあの積乱雲の中でのフォロー、見事だった。……物理の翼、馴染んできたようだな」


「恐縮です、セリナ様。……。……ですが、自分はライブの結果を危惧しております。……全世界への配信により、あなたの特異性が知れ渡った。……既に王国の近衛騎士団、および帝国の特殊魔導小隊が、あなたの排除を最優先事項として動いているという情報が入っています。……今後は一瞬の隙も許されません」


 レンの蒼い瞳には、セリナを「真の聖女」として崇める盲信に近い忠誠心と、それを守り抜くという狂気的なまでの覚悟が宿っていた。

 彼の背後には、彼が独自に編成した、全員が無魔力者で構成された護衛部隊が、音もなく配置されている。


「……分かっとるわい。……。……エースを狙うなら、全軍を挙げて来いとな。……。……だが、レン。……お主、あまり張り詰めすぎるなよ。……たまには油の一滴でも注いで、肩の力を抜け」


「……御意」


 レンは短く答え、再び彫像のように静止した。

 そこへ、騒がしい足音と共に、二人の老人が入ってきた。


「おい、フェイ! セリナの機体……じゃなかった、体の数値はどうだ!」


 整備班の親分ガッツが、油塗れの作業着を揺らしながら、大きなスパナを肩に担いで入ってくる。

 その後ろからは、モノクルを光らせた理論物理学者のアイゼンが、難解な数式が記されたメモを片手に続いた。


「ガッツさん、アイゼン先生。……お二人とも、許可なくメンテナンスルームに入らないでください!」


 フェイが怒声を上げるが、二人の老人はどこ吹く風だ。


「いいじゃねぇか。わしらが命を削って組み上げた『アーク・フェニールⅢ』を完璧に振り回すためのメイン・モジュールだ。……その機嫌を損ねるわけにはいかねぇ。……セリナ、右腕の筋肉に熱を持っとるな。……冷却剤を少し強めに巻いておけ」


「……ガッツ。……。……わしを機械扱いするなと言ったそばからそれか。……。……アイゼン。……計算は、合っておったか」


 セリナが問いかけると、アイゼンはモノクルを直しながら、満足げに頷いた。


「ええ、完璧です。……積乱雲の核をマッハ三で貫通した際の衝撃波回折、私の予想を〇・〇二秒上回りました。……セリナさん。……あなたの操縦は、もはや私の数学という名の魔法を凌駕しつつある。……。……だが、気をつけなさい。……次は、マッハ五の世界が待っている」


「……マッハ五。……。……極超音速ハイパーソニックの領域か。……。……おじいちゃんには、少し刺激が強すぎんか」


「ははは! 何を言うか、この美少女が! ……。……わしらがついてるんだ。……地上の連中が逆立ちしても届かねぇ空まで、お前を押し上げてやるよ」


 ガッツがガハハと笑い、セリナの頭を大きな手で乱暴に撫でた。

 セリナは、少しだけ居心地悪そうに、しかし拒むことなくその手を受け入れた。


 狂気的な技術者のフェイ。

 熱狂的な野生のエース、サシャ。

 冷徹な戦術家、クラウス。

 寡黙な盾、レン。

 そして、己の技術を未来へ託す老人たち。


 この空中要塞に集った「持たざる者」たちは、魔法という名の偽物の奇跡を否定し、セリナという一人のエースを軸にして、一つの巨大な「ことわり」へと進化しようとしていた。




※※※




 全員が去り、深夜の静寂がメンテナンスルームを包み込んだ。

 フェイが最後のマッサージを終え、セリナに淹れ立ての茶を手渡す。

 それはガッツの淹れる「泥水」とは違う、フェイが温度と抽出時間を秒単位で計算した、完璧なハーブティーだった。


「……フェイ。……。……お主、わしのために、どこまでやるつもりじゃ」


 セリナは茶碗を両手で包み、温かさを感じながら問いかけた。


「……どこまでも、ですよ、師匠。……。……衣装も、機体も、あなたの心臓の動かし方まで、すべて私が管理します。……。……あなたはただ、私の描く物理のレールの上を、誰よりも速く、自由に飛んでくれればいいんです」


「……。……不自由な自由じゃな。……。……だが、まぁ。……お主の淹れる茶は、温度だけは完璧じゃ」


 セリナは最後の一口を飲み干した。

 世界が自分を狙っている。

 物理を信じる者たちが、自分を仰いでいる。

 そして、傍らには自分のすべてを支え、同時に支配しようとする弟子がいる。


(……エースというのは、いつの時代も孤独なもんだが。……。……この世界の空は、ちと騒がしすぎるわい)


 彼女はそっと目を閉じた。

 脳内では、次のフライトに向けたシミュレーションが既に始まっていた。

 マッハ五。

 熱の壁の向こう側。

 精霊すら届かない、真空の静寂しじまへ。

 鋼の意志と物理の理だけを携えて、彼女は再び、空へと挑む。


【後書き】

第三話をお読みいただき、ありがとうございます!

艦内のキャラクターたちの掛け合い、そしてアイドルと整備の融合を描かせていただきました。


おじいちゃんセリナを取り巻く、小隊長たちの個性が少しでも伝わっていれば幸いです。

特に「歌をジャミング兵器」として扱うクラウスの冷徹さは、物理航空団ならではの魅力ですね!


物語はいよいよ、全世界に広がった「物理の理」による影響、そして教皇庁の反撃へと進んでいきます。

続きが楽しみだ!と思っていただけましたら、

ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】での応援をいただけますと嬉しいです!

皆様の評価が、フェイのメンテナンスの精度をさらに引き上げます。


次回、第四話「ことわりの伝播、あるいは点と線の革命」。

世界中に散らばった24の拠点で、一体何が起きているのか。

お楽しみに!


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