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シンクロ率0%の没落令嬢、中身は伝説のエース(65歳) 〜「最近のロボットは軟弱じゃのう」とお茶を啜りながらマニュアル操作で無双する〜  作者: ぱすた屋さん
鋼と翼の聖女:鋼鉄の翼と銀の偶像(アイドル)

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第一話:鋼の翼は夢を見る、あるいは三年後の凱歌

色々考えた結果3年後から始めます。

雰囲気わかってもらうため1話だけ投稿。

 高度二万五〇〇〇メートル。

 そこは、地上の魔導師たちが「精霊の窒息する場所」と恐れる、絶対的な静寂と薄闇が支配する領域――『灰色の夢(成層圏)』である。

 海面高度のわずか数%という極薄の空気、零下五〇度を下回る酷寒。魔法の源たる魔素マナすらも凍てつくこの死の空を、一隻の巨大な鉄塊が悠然と航行していた。

 移動式空中要塞『アイアン・パレス・アルファ』。

 三年前、王都を離脱した際はただの移動基地に過ぎなかったその艦は、ジャンが集めた希少金属と、ニコラやジャックが心血を注いだ精密加工、そしてアイゼンとガッツという二人の天才の執念によって、巨大な全翼機のごとき姿へと進化を遂げていた。


 艦内、第一整備ハンガー。

 そこには、かつての「Fクラス」と呼ばれた少年少女たちの成長した姿があった。

 一六歳になったニコラは、マイクロメートル単位の狂いも許さない鋭い眼差しで機体各部のボルトを点検し、同じく一六歳のジャックは、その太くなった腕で重厚な装甲板を叩き、音で微細なクラック(亀裂)を判別している。


「ニコラ、右主翼の付け根、締め付けトルクをあと 0.5 Nm 上げろ。次はお嬢様がマッハ三で振り回す。甘えは死に直結するぞ」

 ガッツの愛弟子として、今や整備班の要となったジャックが鋭く指示を飛ばす。


「分かってる。……でも、この『アーク・フェニールⅢ』のフレーム、アイゼン先生の計算だと理論上の限界値まで削り込んでるんだ。これ以上の加圧は逆に破断のリスクを生むよ」

 ニコラが冷静に返し、二人は火花を散らすような緊張感の中で作業を完遂させた。


 そのハンガーの中央に、一人の少女が立っていた。

 一六歳になったセリナ・アルスタイン。

 腰まで届く白銀の髪を一本の紐で束ね、身体のラインを強調する漆黒のパイロットスーツに身を包んでいる。その肢体は、空戦での強烈なG(重力加速度)に耐え、操縦桿からの物理振動を完璧に受け止めるために、無駄な脂肪を削ぎ落とし、しなやかな筋肉を宿していた。

 蒼い瞳は、もはや迷いを知らぬ猛禽のそれへと研ぎ澄まされている。


「……準備はいいな、皆」


 セリナの声に、ハンガー全体が静まり返る。

 彼女がタラップを登り、白銀の怪鳥『アーク・フェニールⅢ』のコックピットに収まると、キャノピーが密閉され、世界から音が消えた。

 彼女の脳内には、アイゼンとガッツが三年の歳月をかけて完成させた『機械式演算補助アナリティカル・エンジン』が弾き出す膨大な物理データが、網膜投影によって映し出される。


「――全機、磁気拘束解除。カタパルト、圧力正常。発進シークエンスへ移行せよ」


 艦橋ブリッジで指揮を執るのは、三二歳になったイザベラだ。

 彼女の指先が、魔法ではなく物理回路で繋がったコンソールを滑る。


「第一・第二小隊、ケストレル隊。レン、サシャ、先行して戦域の気流を確保。……フェイ、アルテミス・ハイドは高度三万からマナの兆候を監視。……そして、お嬢様。規律、正しき出撃を。物理の祝福がありますよう」


「……あぁ。行ってくるわ、イザベラ」


 ドォォォォォォォォォン!!


 爆音と共に、アーク・フェニールⅢが成層圏の薄闇へと放たれた。


※※※


 眼下、高度一万メートル付近。

 帝国の辺境に位置する「ヴェルデン村」は、今、未曾有の危機に瀕していた。

 精霊の暴走マナ・ストームによって異常発達した巨大な積乱雲が、不気味な紫色の雷光を放ちながら、村を飲み込もうとしていた。魔法による「安易な天候操作」の代償として生じたその歪みは、もはや現地の魔導師たちの手には負えない「神の怒り」のような暴力と化していた。


「こちら第3小隊長クラウス。目標地点のマナ周期を解析終了。……精霊の振動数は 15.4 kHz。反吐が出るほど不快なリズムだ。……全機、物理ジャミング開始。精霊の結束を音響工学で粉砕する」


 コックピットから冷静に指示を飛ばすのは、元帝国の精鋭教官、クラウス(三三)である。

 彼は教皇庁の非道な実験に異を唱え、亡命してきた戦術の徒だ。彼の指揮するケストレル隊は、魔法を「現象」ではなく「周波数」として捉え、特定の音響爆弾によってマナの共鳴を物理的に打ち消していく。


「アネゴ! 下は私に任せて! 村人たちは全員、地下シェルターへ誘導済みだよ! 風が荒れてるけど、私のケストレルなら余裕だね!」

 第2小隊長サシャ(一八)が、荒れ狂う暴風の中を紙一重の機動で駆け抜ける。帝国のジャンク漁り出身の彼女は、理論よりも「機体との対話」で飛ぶ野生のエースだ。


「サシャ、無茶はするな。……俺が右翼を支える。セリナ様、進路はクリアです」

 第1小隊長レン(二一)が、質実剛健な機動でサシャをフォローする。元・王国の無魔力歩兵である彼は、誰よりも忠実に、そして静かにセリナの盾として振る舞う。


「……フェイ、準備は?」

 セリナが静かに問いかける。


「いつでもいけます、師匠。……高度三万より、マナのコアを捕捉。……物理定数 9.8 m/s^2 の重みを、彼らに教えてあげましょう。……あなたの邪魔をするものは、塵一つ残さず私が撃ち抜きます」

 一六歳になったフェイの、狂気的な愛を含んだ声が通信機を震わせる。彼女の駆る『アルテミス・ハイド』は、空が黒く変色する限界高度から、巨大なレールガンの銃身を地上に向けていた。


 セリナはアーク・フェニールⅢの機首を上げ、積乱雲の「目」へと突入した。

 凄まじい乱気流が機体を揺らし、巨大な雹が装甲を叩く。だが、セリナの指先は一点の震えもなく操縦桿を保持していた。


「……気圧差。……この中心点を叩けば、構造は崩壊する。……物理の理に従え」


 セリナはアフターバーナーを全開にした。

 双発の物理エンジンが咆哮し、ノズルから青白いプラズマの炎が伸びる。

 マッハ三。

 断熱圧縮による熱で機体が白く輝き、空気の壁を物理的な槍へと変えたアーク・フェニールⅢは、雲の核へと真っ直ぐに突き刺さった。


 ズドォォォォォォォォォン!!


 大気を引き裂く衝撃波ソニックブームが、巨大な雲の渦を内側から粉砕した。

 魔法が数千人の魔導師を動員してなお防げなかった天災が、たった一機の物理機動によって霧散していく。雲は物理的な重力と気圧の均衡を失い、ただの穏やかな雨となって地上に降り注いだ。


※※※


 任務完了後。

 雨上がりの夕闇が迫るヴェルデン村の広場に、セリナたちの機体が着陸した。

 村の代表である老技術者が、泥に塗れながらも震える手でセリナを出迎えた。


「……おお、聖女様……。また、また我ら持たざる者を救ってくださいましたか……。魔法なき我らにとって、あなたは唯一の希望です」


 セリナはヘルメットを脱ぎ、機体から降り立った。

 溢れ出した白銀の髪が夕日に輝き、その凛とした美しさに、広場に集まった村人たちは思わず息を呑み、跪く。


「……礼には及ばぬ。規律正しく、自らの理で生きろと言ったはずじゃ。……ガッツ、ニコラ、機体の損耗をチェックせよ」


 セリナがぶっきらぼうに背後の整備班に指示を出すと、老技術者は顔を上げ、少しだけいたずらっぽく、しかし敬愛を込めて微笑んだ。


「はい、心得ております。……あぁ、それと聖女様。……明日の『シークレット・ライブ』、村の皆で楽しみにしておりますぞ。チケットの暗号キーは、ポロさんから既に受け取っておりますからな」


「…………なっ!?」


 セリナの頬が、一瞬にして朱に染まった。

 その隙を逃さず、通信機越しにミリーとポロの笑い声が響く。


「師匠、今回の任務報酬の半分はライブのプロモーション費用として処理しておきました! 演出用の火薬も追加発注済みです!」

「ミリー、言い方が悪いよ。……セリナ様、ライブの同時視聴予約、既に全世界の拠点で一〇万を超えています。……さあ、アイドル・メンテナンスの時間ですよ」


 セリナは天を仰いだ。

 世界最強の航空団を率い、教皇庁という世界の理に反旗を翻しながら、なぜ自分はフリフリのドレスを着てステージに立たねばならんのか。


「……イザベラ。ポロ。ミリー。……後で、物理的に徹底的な教育おしおきしてやるからな……」


 彼女の呟きは、再起動した物理エンジンの重厚な音にかき消された。

 鋼鉄の翼と、銀色の偶像アイドル

 魔法に支配された世界を、真実の空へと解き放つための、最も美しく、最も理不尽な「聖戦」の幕が、今ここに上がった。


【後書き】

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

3年後の成長したセリナと新小隊長たちの活躍はいかがでしたでしょうか。


面白い、続きが気になる! と思っていただけましたら、

ぜひブックマークや評価、感想での応援をよろしくお願いいたします!


次回予告:

第三十五話「銀色の偶像ディーヴァ、あるいは物理の夜明け」

お楽しみに!


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