表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンクロ率0%の没落令嬢、中身は伝説のエース(65歳) 〜「最近のロボットは軟弱じゃのう」とお茶を啜りながらマニュアル操作で無双する〜  作者: ぱすた屋さん
鉄と油の聖女:遺された暗号と音速の翼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/83

第三十話:鉄と油の聖女、あるいは新たなる航跡

 王都ナハトの空を真っ二つに割った白銀の飛行機雲が、夕暮れの風に吹かれ、ゆっくりと、しかし確実にその輪郭を溶かしていく。地上では、破壊された障壁の破片が魔法の輝きを失い、ただの冷たい塵となって降り積もっていた。


 瓦礫と化した広場。折れた槍を杖代わりに立ち尽くす近衛騎士たちが、そして泥に塗れた貴族たちが、一様に同じ空を見上げていた。彼らの鼻腔を突くのは、かつて神聖な式典で焚かれた香油の匂いではない。鼻を刺すような熱い油の匂い、火薬の燃え残り、そして熱で焼かれた鋼鉄の生々しい臭気。魔法という「奇跡」に守られていた彼らの世界に、剥き出しの「物理」という現実が叩きつけられた証であった。


「……見たか。あの銀色の翼を」

「魔法じゃない……あんなものは魔法じゃない。だが、我らが誇るエクス・レガリアを子供のように弄んだ」

「あれこそが……古き言い伝えにある、鉄と油を操る異端の聖女……」


 誰からともなく、その名は囁かれ始めた。人々は畏怖と敬意を込め、成層圏へと消えたあの少女を『鉄と油の聖女』と呼び、その名を歴史に刻み始めた。


 一方、王都から遠く離れたナハト国境付近の原生林。そこには、王国軍の索敵網から逃れるようにして沈黙する、巨大な影があった。

 Fクラスの面々が、地下ドックでの開発と並行して、ジャンが世界中から集めてきたジャンク品とニコラの設計、そしてガッツの陣頭指揮によって密かに改造し上げた移動式母艦『アイアン・パレス』である。


 その甲板に、一筋の銀光が舞い降りた。

 単座式コックピットの中で、セリナは最後のアフターバーナーを切り、自重だけで静かに着艦した。機体各所の装甲は熱で歪み、ガトリングの銃身は焼き付いて黒ずんでいる。


 キャノピーが開き、冷たい外気がセリナの頬を撫でた。

 彼女がタラップを降りると、そこにはFクラス十二人全員と、アイゼンが待ち構えていた。


「お帰りなさいませ、お嬢様。……規律正しき勝利に、最高の一杯を」


 筆頭侍女イザベラが、揺れることのない母艦の甲板で、完璧な所作と共に温かな紅茶を差し出した。

 セリナは、油と煤で汚れた顔を拭うこともせず、震える手でそのカップを受け取る。


「……ふぅ。……やはり、お主の淹れる茶は格別じゃな。地に足をつけて飲む茶が、これほど美味いとは思わなんだ」

「お褒めに与かり光栄です。ですが、その汚れ……後で念入りに教育あらわせていただきますわ」


 イザベラの言葉に、セリナは苦笑しながら、周囲に集まる仲間たちを見渡した。

「師匠! データの回収終わりました! エンジンの燃焼効率、マッハ一・五を超えたあたりから理論値を超えてましたよ!」

 フェイがタブレットを抱えて駆け寄り、ハンスがその肩を叩く。

「ガッハッハ! そりゃ俺が据え付けたピストンの根性だ! 師匠、あの黒い紛い物をぶち抜いた瞬間の出力、最高だったぜ!」


 エレーナ、ルミエ、ニコラ、ジャック、ガッツ、ジャン、ポロ、ミリー……。

 かつてエドワード・グレイとして生きていた頃、彼は常に一人で空を飛んでいた。伝説のエースとして称賛されながらも、その心は常に高度一万メートルの冷たい風の中にあった。

 だが、今は違う。

 

「……皆、よくやってくれた。お主たちの『理』がなければ、私は今頃、王都の土になっておったろう」


 セリナの言葉に、ジャンが無線機を掲げながら割り込んだ。

「師匠、湿っぽい空気のところ悪いんですが、状況は深刻ですよ。……王国の魔導受信機、帝国の母艦、そして周辺諸国。今、全大陸の通信網があなたの名前で埋め尽くされています」


 ジャンの手にする受信機からは、各国政府が発信した緊急声明が流れていた。

『……アルスタイン家の令嬢、セリナ・アルスタイン。および彼女を支援する技術者集団を、世界の秩序を脅かす「国際指名手配犯ワールド・クラス・スレット」に指定する。彼女の持つ技術は、魔法文明を崩壊させる禁忌である……』


「……物理の理を証明した報いが、これか。世界中の魔法使いを敵に回したようじゃな」

 アイゼンが、皮肉めいた笑みを浮かべて呟く。


「……望むところじゃ。魔法という名の檻に閉じこもった者たちが、どれほど足掻こうとも、真実は変わらん。……物理の理に、国境など関係ない。我らは、我らの空を行くだけじゃ」


 セリナは空になったカップをイザベラに返し、母艦『アイアン・パレス』の艦橋へと歩みを進めた。

 

「ハンス、ポロ、ミリー! 駆動系、再起動! 目標は……そうじゃな。この理不尽な世界の外側、まだ誰も見たことのない水平線の先じゃ!」

「「「了解、師匠!!」」」


 巨大な移動式母艦が、重厚な物理エンジンの唸りを上げ、原生林を掻き分けて前進を開始した。

 上空では、一機の白銀の翼が、整備のためにその羽を休めている。

 

 王国を捨て、帝国を屠り、今や世界そのものに宣戦布告された「鉄と油の聖女」。

 彼女たちの前には、広大な、しかし魔法の光が届かぬ未知の航路が広がっていた。


 物理の理が、新たな歴史を刻むための夜明け。

 聖女の伝説は、ここから本当の意味で、世界という広大なキャンバスへ描き始められる。


 ――『鉄と油の聖女』第二部・激闘編 完結。


最後までお読みいただきありがとうございます。

これにて2部完了です。


幕間を挟み、ここからは王国・帝国だけでなく、世界中の軍隊が

「セリナ・アルスタイン」を標的として動き出す、

第三部:世界叛逆編へと突入します!


面白い、続きが気になる! と思っていただけましたら、

ぜひブックマークや評価、感想での応援をよろしくお願いいたします。

皆様の熱い想いが、移動母艦『アイアン・パレス』の次なる目的地を決定します!

新たなる航跡に、お楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ