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シンクロ率0%の没落令嬢、中身は伝説のエース(65歳) 〜「最近のロボットは軟弱じゃのう」とお茶を啜りながらマニュアル操作で無双する〜  作者: ぱすた屋さん
鉄と油の聖女:遺された暗号と音速の翼

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第二十三話:粉砕される障壁、あるいは衝撃波の宣告


 王都ナハトを支配したのは、この世のものとは思えぬ「沈黙」であった。

 それは静寂ではない。直前に叩きつけられた、大気を強引に圧縮した巨大な質量の塊――衝撃波ソニックブームが、人々の鼓膜の許容量を超え、一時的に聴覚を「白く」塗り潰した結果訪れた、暴力的な空白であった。


 粉砕された「王宮多重絶対魔法障壁」の残骸が、光の粒子となって雪のように降り注ぐ。

 王国の魔導師たちが数百年かけて積み上げ、いかなる広域殲滅魔法をも防ぐと豪語した「無敵の盾」は、今や見る影もなかった。魔法のロジックを介さず、ただの質量として衝突した「空気の壁」によって、王国の誇りは文字通り粉々になったのだ。


「……ありえない。計算が、合わない……。魔力反応がない攻撃で、どうして障壁の基幹回路が焼き切れるというのだ……!」


 貴賓席から泥まみれで這い出した王宮魔導師長が、血走った目で虚空を指差し、震える声で叫んだ。

 彼ら魔法使いにとって、攻撃とは「魔力」を伴うものだった。魔力の波長を読み、中和し、反発させる。それが彼らの知る防御の全てだ。しかし、セリナが放ったのは、魔力など一欠片も含まない「ただの暴力的な空気の振動」であった。


 ジャックがハンマーで叩き出した装甲の剛性が、ニコラが旋盤一本で削り出した極小パーツの精度が、そしてハンスが据え付けた重厚な物理エンジンの爆発力が。それら全てが、重力加速度を味方につけて一つに束ねられた。

 魔法障壁の演算機は、存在しない魔力反応を探し続け、その間に叩き込まれた「純粋な物理振動」による基盤の共振に、物理的な限界を超えて自壊したのである。


 その光景を、上空五〇〇メートルで悠然と旋回する白銀の翼が見下ろしていた。


「……ふむ。少し強くノックしすぎたかのう。案外、脆いものじゃな。」


 セリナは、操縦桿を片手で保ちながら、計器盤の隅で激しく点滅する熱警告を無視した。

 超音速飛行の代償として、機体表面は依然として赤熱している。だが、ルミエが調合した特殊冷却液が、フェイの組み上げた循環系を通って熱を強引に奪い去り、外部へと放出している。


「師匠……王宮の障壁、完全沈黙を確認。……周辺の魔導センサーも、物理振動で過負荷オーバーロードを起こしています。」


 通信機から響くフェイの声は、興奮と、そして自らの整備した機体が世界を書き換えたことへの、狂信的なまでの歓喜に震えていた。

 セリナは、コクピット内の広域通信拡声レバーを力強く押し下げた。その通信系を繋いでいるのは、ミリーの電装と、ポロの精密制御だ。


「……お前達。聞こえるか。お主たちが。鉄と油に魂を売って作り上げた。この翼が。今。偽りの神を殺したぞ。」


 セリナの言葉は、地下ドックで固唾を呑んでいた全員の心臓を叩いた。

 理論を構築したアイゼン。現場を仕切ったガッツ。

 装甲を打ったジャック。部品を削ったニコラ。

 計算を支えたエレーナ。資材を拾い集めたジャン。

 そして、この油臭い娘を令嬢として律し続けたイザベラ。


 誰一人として欠けては、この高度に、この速度に到達することはできなかった。


「……王国の老害ども、そして帝国の若造たちよ。聞こえるか。お主たちが守り抜こうとしている魔法という名の揺りかごは、もはや壊れた。いや、私が今、壊してやった。」


 王都中の魔導受信機、そして空を舞う全ての機体に、ノイズ混じりの、しかし凛とした少女の声が響き渡った。

 マクシミリアン中将は、泥に塗れた椅子を掴み、空に浮かぶ白銀の悪魔を仰ぎ見た。


「物理とは、魔法のような気まぐれな奇跡ではない。それは誰にでも平等に、冷徹に牙を剥く『真実の理』じゃ。お主たちが否定し、ゴミと捨てた鉄と油。それが今、お主たちの神を殺したぞ。……これより、この空を支配するのは魔法ではない。重力と、質量と、速度。この物理の三原則こそが、新たな世界の教科書となるのじゃ。」


 セリナの宣告は、王都を埋め尽くす観衆の絶望に、最後の一撃を突き刺した。

 彼らが信仰し、文明の基盤としてきた「魔法」が、ただの少女――かつて「出来損ない」と嘲笑われた令嬢によって、論理的に、そして物理的に否定されたのだ。


 だが、その宣告を、激しい不快感と共に聞き届けていた者がいた。


「……物理の理だと? 笑わせるな、アイゼン先生の亡霊め……!」


 空中母艦のブリッジで、リヒターがモニターを拳で叩いた。

 その冷静な仮面は剥がれ落ち、眼下を舞う白銀の機体に対する、激しい嫉妬と憎悪が剥き出しになっていた。彼にとって、あの『アーク・フェニールⅡ』が見せた機動は、自分が捨て去ったはずの「純粋物理」への回帰、そして師・アイゼンの正しさを突きつけられる、最も見たくない光景だった。


「……あれは、魔法ではない。だが、だからこそ不完全だ。魔法という潤滑剤を持たぬ機械など、ただの鉄の棺桶に過ぎんことを証明してやれ! 独立特務部隊『シュヴァルツ・ガイスト』! 黒い機体を全て差し向けろ! あの白銀の偽神を、空から引き摺り下ろせ!」


 リヒターの号令と共に、母艦の周囲に展開していた黒い機体たちが、一斉に機首をセリナへと向けた。

 帝国軍の青年将校が駆る「黒い機体」が、ブースターを全開にする。

 魔法の加護で空気抵抗を削り、物理エンジンの力で強引に加速する「魔法補完型物理」の真価。


「……おや。まだ、自分たちの間違いに気づかぬか。若いのう。」


 セリナは、操縦桿のロックを解除し、右手で三〇ミリガトリング砲のトリガーガードを開いた。

 

「……アイゼン、ガッツ。そしてフェイ、Fクラスの皆。授業を続けよう。……教科書はもういい。ここからは、実技の時間じゃ。」


 白銀の猛禽が、獲物を狙うように翼を広げた。

 魔法が死に、物理が支配を始めた空で、ついに「鉄と油」による真実の格闘戦が、幕を開けようとしていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


鉄を打つハンマーの音、旋盤の振動、冷却液の流れる音。

Fクラス全員の想いが乗った『アーク・フェニールⅡ』が、いよいよ実弾武装を解禁します。


面白い、続きが気になる! と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価、感想をよろしくお願いいたします。皆様の応援が、物理駆動の推進力になります!


第二十四話「鉄の火雨、あるいはマニュアルの照準」。

お楽しみに!


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