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シンクロ率0%の没落令嬢、中身は伝説のエース(65歳) 〜「最近のロボットは軟弱じゃのう」とお茶を啜りながらマニュアル操作で無双する〜  作者: ぱすた屋さん
鉄と油の聖女:遺された暗号と音速の翼

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第二十一話:無惨な蹂躙、あるいは鋼鉄の死神

気がつけば50話超えていました…!


 王都ナハトの空は、もはや祝祭の場ではなかった。

 雲海を割り、不気味な影を落としながら姿を現したのは、全長数百メートルに及ぶゲシュタルト帝国の巨大空中母艦であった。その重厚な装甲は、王国軍の魔導砲を嘲笑うかのような沈黙を保ち、ただそこに存在するだけで地上を圧死させんばかりの威圧感を放っている。




 その母艦の最深部、無機質な計器の光に満ちた指揮ブリッジで、リヒターは冷徹にモニターを見つめていた。


「……観測データは良好だ。王国軍の『精霊同調』は、物理的な質量衝突キネティック・インパクトに対して著しく反応が遅れる。魔法障壁の演算速度が、音速を超えた物理現象に追いついていないな」


 リヒターは眼鏡の縁を押し上げ、手元のコンソールに流れる数値を淡々と分析する。彼にとって、この戦場は兵士の命を奪い合う場ではなく、自らが提唱した『魔法補完型物理駆動』の正しさを証明するための実験場に過ぎなかった。


「……行け。わが最高傑作の初陣だ。魔法という古臭い幻想に、物理の鉄槌を振り下ろしてやれ」


 リヒターの冷ややかな号令と共に、漆黒の流星が放たれた。

 独立特務部隊『シュヴァルツ・ガイスト』。その先頭を駆る機体――帝国の青年将校が駆る「黒い機体」が、空中に不気味な黒い軌跡を描きながら、王国軍の演習部隊へと突っ込んだ。


「――総員、迎撃! 陣形を崩すな! 聖なる障壁で国賊の牙を跳ね返せ!」


 地上では、マクシミリアン中将の狂乱した叫びが空虚に響いていた。

 空を舞う『エクス・レガリア』のパイロットたちは、震える手で精霊とのシンクロデバイスを握りしめた。彼らにとって、空は「祈り」を捧げ、精霊の「慈悲」を乞うことで自在に動ける聖域であった。

 だが、今その聖域を侵しているのは、祈りも慈悲も介在しない「鋼鉄の死神」であった。


 ドォォォォォォォォォッ!!


 漆黒の機体群が、背部の物理ブースターを一斉に点火した。

 大気を強引に爆発させるような、濁った咆哮。それは洗練された魔導の旋律とは無縁の、生々しい破壊の予兆だ。


「……何だ、あの動きは!? 魔法の予兆マナ・フローがないぞ!」


 王国軍のパイロットが悲鳴を上げる。

 王国の魔法障壁や自動追尾システムは、敵の魔力流を読み取ることで機能する。しかし、帝国の機体は魔力を「推進」ではなく、ただの「抵抗排除」と「慣性制御」にしか使っていない。その心臓部は強大な物理タービン。魔法の索敵網にとって、物理エンジンが吐き出す熱源と質量は、未知の怪物に等しかった。


 黒い機体が、王国軍機の懐へと一瞬で潜り込んだ。

 王国軍機が慌てて展開した、最高級の多重魔法障壁。

 だが、帝国の青年将校は、冷徹にトリガーを引いた。


 パリンッ――!!


 繊細なガラス細工をハンマーで叩き割ったような、無機質な音が空に響いた。

 超音速の運動エネルギーを伴い、一点に集中した実弾ブレード。魔法の「計算」は、物理的な質量の暴力に間に合わなかった。障壁は、衝撃を拡散させる物理演算が破綻し、呆気なく「突き抜け」を許したのだ。


「あ……あ、あああああ!」


 コクピットごと縦に両断された『エクス・レガリア』が、血と油を撒き散らしながら真っ逆さまに墜ちていく。

 それは戦闘ではなく、洗練された「解体作業」であった。

 帝国の機体は、魔法で空気抵抗をゼロにしつつ、物理エンジンの暴力的な推力でマッハの領域に居座り続ける。旋回、加速、減速。すべてにおいて、精霊の反応速度を物理の爆発が凌駕していた。






「……無惨じゃのう。魔法という『杖』に頼りすぎたツケが、一気に回ってきたか」


 高度二万メートル。

 セリナは、冷えた空気と重合金の匂いに包まれたコクピットで、静かに眼下の惨状を眺めていた。

 モニター越しに見える王国軍は、もはや軍隊のていをなしていなかった。帝国の実弾ガトリングが空を鉄の雨で埋め尽くし、美しいはずの純白の装甲を、ただの屑鉄へと変えていく。


「……師匠。リヒターの母艦から、おびただしい数のデータ通信を感知しています。……あいつ、この戦いを自分の技術を売り込むためのデモンストレーションに使っています。……理屈は分かりますが、反吐が出るやり方だ。機体も、精霊も、道具以下にしか扱っていない……!」


 地下ドックのモニターを見つめるフェイの声は、凍りつくような怒りに満ちていた。

 物理を愛し、機体と対話する彼女にとって、リヒターの「効率至上主義」は、空への敬意を欠いた最も忌むべき思想だった。


「……そうじゃな、フェイ。リヒターという男、頭はいい。魔法と物理、双方の『美味しいところ』を繋ぎ合わせれば、確かにこれほどの力は出る。……だが、それゆえに奴は知らぬ。不純物を混ぜた力では、真の限界の壁を越えられんということをな」


 セリナの視線の先で、最後の王国軍機が、黒い機体の実弾ブレードによって主翼を斬り飛ばされた。

 地上では、マクシミリアン中将が泥に塗れた勲章を握りしめ、震えながら言葉を失っていた。

 絶対の盾と信じた魔法が、ただの物理的な「重み」の前に粉砕された事実。それが、王国の時代の終焉を告げる弔鐘のように聞こえた。


「……さて。王国軍の『驕り』は、綺麗に掃除されたようじゃな」


 セリナは、ゆっくりと操縦桿のロックを解除した。

 双発の物理駆動エンジンが、地の底を揺らすような重厚な唸りを上げる。

 

「……お前達。お茶の時間はもう終わりじゃ。……魔法を混ぜただけの不完全な牙が、どこまで本物の物理に耐えられるか……見定めてやるとしよう」


 高度二万メートルの静寂を、一筋の銀光が切り裂いた。

 重力を味方につけ、音速を置き去りにし、白銀の死神が、帝国の「牙」を砕くために地獄の底へと急降下を開始した。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ついに、高度二万メートルからセリナが介入を開始します。

次回、いよいよ白銀の猛禽が放つ衝撃波ソニックブームが、帝国の傲慢ごと王都を揺らします!


面白い、続きが気になる! と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価、感想をよろしくお願いいたします。皆様の声が、セリナが放つ物理的な圧力になります!


第二十二話「乱入する白銀、あるいは物理の雷鳴」。

お楽しみに!


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