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シンクロ率0%の没落令嬢、中身は伝説のエース(65歳) 〜「最近のロボットは軟弱じゃのう」とお茶を啜りながらマニュアル操作で無双する〜  作者: ぱすた屋さん
鉄と油の聖女:遺された暗号と音速の翼

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第二十話:王国の驕り、あるいは帝国の牙


 王都ナハトの北方に位置する大平原は、今や一つの巨大な劇場と化していた。

 雲ひとつない蒼天の下、建国記念祭の掉尾を飾る軍事演習。王国の威信を懸けた最新鋭魔導機兵『エクス・レガリア』の披露宴だ。観覧席を埋め尽くす貴族たちは、色とりどりのドレスや軍服に身を包み、手にした双眼鏡や魔導式の映像盤で、空を舞う白銀の騎士たちを陶酔の眼差しで追っている。


「――見なさい。あれが我が王国の正義。精霊と人が完全に一つとなった姿だ」


 貴賓席の最前列。豪奢な金糸の刺繍を施した軍服を揺らし、マクシミリアン中将が傲慢な笑みを浮かべて言い放った。彼の傍らには、王国の有力貴族や他国からの武官たちが並び、目の前の光景に感嘆の声を上げている。

 

 空では、十機の『エクス・レガリア』が優雅な輪舞ロンドを描いていた。

 背部から展開された光の翼――精霊結晶から放出される魔力の粒子が、陽光を浴びて七色に輝き、飛行機雲ならぬ「光の尾」を引いている。

 それらは物理的な質量を感じさせない。重力を無視し、慣性を嘲笑い、ただパイロットの意思シンクロのままに空を滑る。急上昇、急停止、そして空中で静止したまま美しい陣形を組み直すその姿は、兵器というよりも、平和を祝う神の使いそのものであった。



「……ふん。これに比べれば、アルスタインの出来損ないが弄んでいた『油臭い鉄屑』など、ただのゴミ同然。魔法という奇跡を理解できぬ物理の信奉者どもは、今頃どこかの辺境で、錆びゆく鉄の塊と心中でもしているだろうよ」



 マクシミリアンが吐き捨てるように言うと、周囲の将校たちから卑屈な同意の笑いが漏れた。彼らにとって、魔法こそが文明の頂点であり、大気中の魔素を練り上げることこそが「空を飛ぶ」ことの唯一の解であった。

 物理。力学。質量。

 それら野蛮な言葉は、とうの昔に克服されたはずの呪縛でしかなかったのだ。


 だが、その祝祭の空気に、不協和音が混じった。




 ――キィィィィィィィィィィィィィン……。




 それは、精霊の歌声ではない。金属が引き千切られるような、あるいは大気が悲鳴を上げているような、不快な高周波の唸り。

 演習場の魔導レーダーを担当していた魔導師が、突如として悲鳴を上げた。


「……ま、魔力反応、急速接近! 高度一万五〇〇〇より降下中! この速度……ありえません! 重力落下の限界を超えています!」

「何だと? 落ち着け、演習機の一機が急降下のパフォーマンスでも始めたのだろう」


 マクシミリアンが不機嫌そうに一喝する。

 だが次の瞬間、上空の雲が文字通り「爆発」した。


 ドォォォォォォォォォォンッ!!




 演習場全体を揺らす凄まじい衝撃。

 空を優雅に舞っていた『エクス・レガリア』の一機が、何の前触れもなく、真っ赤な爆炎となって四散した。

 観衆の悲鳴が上がるよりも早く、空から「黒い流星」が舞い降りる。

 それは、五機の漆黒の機体であった。ゲシュタルト帝国独立特務部隊『シュヴァルツ・ガイスト』。

 

 その中央を駆る一機。帝国の最新鋭機『黒い機体』が、墜落する王国軍機の残骸を背に、ゆらりと滞空した。

 王国軍機が「翼」を持つのに対し、その黒い死神は「推進器スラスター」を持っていた。魔力によって生み出された美しく柔らかな光ではなく、物理的な燃焼と爆発を伴う、暴力的で濁った噴射。


「……王国軍の諸君。あまりに退屈な踊りだったので、少々趣向を変えさせてもらった」


 拡声魔法を通じた、冷徹な声。

 それは帝国の開発責任者、リヒターのものだった。

 

「貴様ら、ゲシュタルトの連中か! 宣戦布告もなしに、神聖なる式典を汚すとは何事か!」

 マクシミリアンが激昂し、通信用の魔導具に怒鳴り込む。

「迎撃しろ! 落とせ! 一機残らず、魔法の鉄槌で粉砕しろ!」


 マクシミリアンの命令を受け、残された九機の王国軍機が即座に戦闘態勢に入る。

 彼らは信じていた。精霊との高いシンクロ率、そして王国が誇る最強の魔法障壁があれば、物理に魂を売った帝国の蛮族など敵ではないと。


 だが、彼らはまだ知らなかった。

 空から降りてきた黒い機体群が、魔法を「動力」ではなく、ただの「潤滑剤」として扱っている異常さを。

 リヒターの『魔法補完型物理駆動』。それは精霊に媚びるのではなく、魔法の力で空気抵抗と慣性を強引に書き換え、物理エンジンが生み出す暴力を一点に集中させる。


 黒い機体のエンジンが、これまで王国軍が聞いたこともないような、地の底を這う咆哮を上げた。







「……無様じゃのう。」


 その光景を、遥か高度二万メートルの極寒の世界から、セリナは冷徹に見下ろしていた。

 

 コックピットのマルチモニターには、眼下で展開される「黒と白」の対峙が詳細に映し出されている。

 改修を終えた『アーク・フェニールⅡ』は、この高度にあってなお、完璧な静止を保っていた。魔法の届かぬ高度、精霊が窒息する死の世界。そこで、ジャンが拾ってきた「呪われた鉄」を纏ったセリナの機体だけが、悠然と呼吸をしている。


「……師匠。リヒターの機体群、捕捉しました。……あの出力の立ち上がり、あれは魔法ではありません。物理エンジンの爆発を、魔法で強引に指向性を持たせています。あんな歪な繋ぎ方……機体が悲鳴を上げているのが、ここからでも聞こえてきそうです」


 地下ドックから通信を送るフェイの声には、技術者としての激しい嫌悪と、そして一抹の警戒が混じっていた。

 彼女にとって、物理は誠実に積み上げるべき理だ。リヒターのように、魔法で物理の穴を埋めるやり方は、美学に反する「冒涜」でしかなかった。


「……そう急ぐな、フェイ。リヒターとやらの『牙』、確かに鋭い。魔法という杖を突きながらも、物理という足を動かそうとしておる。……だが、それゆえに奴らは知らぬのだ。魔法という杖を捨て、己の足だけで大地を、空を掴む者の本当の強さをな」


 セリナは、手元の物理レバーを静かに、愛おしそうに撫でた。

 一か月の雌伏を経て、さらなる剛性と冷却能力を手に入れた愛娘。

 

 地上では、帝国の黒い機体たちが、ゆっくりとその獲物を見定めるように散開を開始していた。

 王国のパイロットたちが放つ先制の魔導弾が、空中に美しい光の軌跡を描く。


「……さて。お茶の時間は終わりじゃな。」


 セリナは、水筒の最後の一滴を飲み干すと、それを丁寧に座席の横に固定した。

 まだ動かない。

 今はまだ、王国軍の驕りが無惨に砕かれ、絶望が王都を支配するまでの「前座」の時間だ。


 地上の演習場では、マクシミリアンたちの叫び声が響き渡り、帝国の黒い機影が、王国軍機に向けてその死神の鎌――実弾と魔導を組み合わせた武装を構えた。

 

 祝祭は終わり、鉄と油が王国の空を汚す、絶望の時間が幕を開けた。



マクシミリアンたちの傲慢な魔法至上主義と、それを一瞬で物理的な衝撃で破壊する帝国の異質さ。その対比を感じていただければ幸いです。


面白い、続きが気になる! と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価、感想をよろしくお願いいたします。皆様の声が、セリナが乱入する際の衝撃波の力になります!


魔法の盾が、鉄の爪に引き裂かれる。

第二十一話「無惨な蹂躙、あるいは鋼鉄の死神」。

お楽しみに!


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