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シンクロ率0%の没落令嬢、中身は伝説のエース(65歳) 〜「最近のロボットは軟弱じゃのう」とお茶を啜りながらマニュアル操作で無双する〜  作者: ぱすた屋さん
鉄と油の聖女:成層圏(ストラトスフィア)への飛翔

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第十四話:空に貴賤なし


 スタジアムを包む紫色の重力攪乱フィールド。その檻の中で、世界は静止したかのように錯覚された。最新鋭のシルフィード六型を一撃で粉砕し、残骸の山の上に立つ黒い影――『実験機零号』。その漆黒のフレームから漏れ出す赤い廃熱は、まるで地獄から這い出してきた魔王の息吹のようだった。


「……。ふぅ。……。さて。……。一機。掃除が終わった。次を連れてこい」


 コクピットの中で、俺――セリナ・フォン・アルスタインは、歪んだバイザー越しに敵の残存戦力を睨みつけた。重力二倍。最新鋭機のオートバランサーをもってしても、その負荷はパイロットたちの神経を確実に削り取っている。対する俺は、「抗G呼吸法」によって全身の血流を魔法的に制御し、座席にめり込む身体を「心地よい重み」として愉しんでいた。


「バ、バカな……! 演算が追いつかない!? なぜあの鉄屑が、僕たちのシルフィードより速く動けるんだ!」


 アルベルトの絶叫が通信から響く。彼は恐怖を誤魔化すように、残った三機の部下へと狂ったように命じた。


「全機、一斉掃射だ! 接近させるな! 魔法弾幕で、その薄汚い黒鉄を塵にしろ!!」


 Aクラスの三機が、重力に抗いながら空中に留まり、その魔導杖を俺へと向けた。次の瞬間、無数の光の矢――「魔導ホーミング・アロー」が、スタジアムの空を埋め尽くした。精霊の意志によって追尾性能を与えられたそれは、回避不能の死の網だ。


「セリナ様! 危ないっ!!」


 ジャックが叫び、自らのポーンを盾にしようと割り込もうとする。だが、俺はそれを一喝した。


「……。ジャックさん。止まれ。お主。修行の成果を。見せるのは今じゃぞ」


「えっ……!?」


「……。ミリーさんも。狙いは右と左。六時方向は。俺が引き受ける」


 俺はレバーをミリ単位で操作し、機体をあえて「自由落下」させた。重力二倍。それは敵にとっては足枷だが、俺にとっては強力な加速装置に他ならない。俺は背面のバーニアを一瞬だけ物理噴射し、機体をバレルロール旋回させた。


 ――キィィィィィィンッ!


 回避。回避。さらに回避。追尾する光の矢が、俺の機体をかすめるたびに装甲が焦げる匂いが漂うが、致命傷には至らない。俺は重力を利用した急降下と、バーニアによる強引な姿勢変更を組み合わせ、物理法則を逆手に取った踊りを披露した。


 その隙に、ジャックとミリーが動いた。彼らは俺が引き付けた敵の死角から、教わったばかりの一点突破の突撃を敢行したのだ。


「うおおおおおっ! 抗G呼吸、全開っ!!」

「セリナ様の教え、無駄にはしませんわ!」


 二機のポーンが、重力下で歪んだ敵の陣形を切り裂く。精霊の加護に頼り、重力フィールド内で動きを制限されていたAクラスの生徒たちは、まさか「落ちこぼれのポーン」が自分たちに肉薄してくるとは思ってもみなかった。


「な、なんだこのポーンは……重くないのか!? なぜ動ける!?」


 ジャックのポーンが敵のシールドに体当たりし、ミリーのポーンがその隙に敵の脚部を物理的に引き千切った。スタジアムがどよめく。Fクラスの連中が、Aクラスを相手に互角以上に渡り合っているのだ。

 だが、その光景がアルベルトの理性を完全に焼き切った。


「……許さない。許さないぞ! 僕たちAクラスが、そんな、そんな乾布摩擦だのなんだのと言っている変態どもに負けるなど……!!」


 アルベルトがコクピット内で、家門から授かった禁忌の魔導触媒――『重力神の吐息』を起動させた。


「見ろ! これが真の重力だ! 潰れろ! 全員、地の底へ沈めぇぇぇっ!!」


 ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……!!!


 スタジアム全体の空気が、一瞬で重質へと変わった。重力攪乱フィールドの出力が、暴走に近い形で跳ね上がる。通常の三倍。いや、局所的には四倍近い重圧。観客席の貴族たちが悲鳴を上げ、腰を抜かす。Aクラスの部下たちは、自らの機体の重量に耐えきれず、装甲が軋み、コクピットの中で意識を失って沈黙した。ジャックとミリーの機体も、片膝をつき、大地を掴んで耐えるのが精一杯だ。その地獄のただ中で。


「……。おー。……。四倍か。ようやく。エンジンが。温まってきたわい」


 俺は、マスクの中でニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。前世で、超音速の空中戦中に経験した九Gを超える旋回加重。視界が真っ白になる「ホワイトアウト」の恐怖。それに比べれば、この四倍程度の一定な加重など、ただの重い布団に包まれているようなものだ。


「……。フェイ。全開じゃ。骨が折れても。構わんぞ」


「師匠、本気ね!? フレームの安全係数、完全に無視するわよ! 行けぇっ!!」


 『大罪の心臓』が、スタジアム全体を震わせるほどの重低音を響かせた。漆黒の煙が、赤い炎へと変わる。俺は、重力に押し付けられる力を逆に利用し、機体各部のサスペンションをあえて脱力させた。バネのように縮んだ機体が、三倍の重力をバネの反発へと変換し、弾け飛ぶ。


 ドガァァァァァァァンッ!!


 その速度は、音速を超えた。物理限界を突破した『実験機零号』が、空気を切り裂く衝撃波を纏ってアルベルトの懐へと潜り込む。


「な……な、……がっ……!?」


 アルベルトの視界から、黒い死神が消えた。次の瞬間、彼のシルフィードは、巨大な衝撃に包まれた。俺は、精霊の核を傷つけないよう、補助具を介した精密なレバー操作を行った。一撃目は右肩の関節駆動部。二撃目は左膝の油圧パイプ。三撃目は背面スラスターの制御弁。


 魔法のシールドを物理的な零距離突撃でぶち抜き、俺は外科手術のような正確さで、最新鋭機の四肢をバラバラに解体した。ドサリ、と。アルベルトの機体が、無惨な鉄の塊となって大地に横たわった。

 フィールドが解除され、スタジアムに静寂が戻る。紫色の霧が晴れた演習場の中心で、片腕を失い、ボロボロになりながらも、毅然と立ち続ける黒い機体。


 俺はハッチを開き、熱を帯びたコクピットから這い出した。スタジアム中の数万の視線が、俺という怪異に注がれている。俺は銀髪を乱しながらも、完璧な淑女の所作で地面に降り立ち、そして――。


「……。よっこいしょ。あー。やはり。腰にくるわい」


 俺の言葉が、魔法の拡声器を通じてスタジアム全体に響き渡った。

 

「……。フェイ。茶を。今日は。少し。肩が凝ったわい」


 静寂。そして次の瞬間、スタジアムは、地鳴りのような大歓声に包まれた。

 アルベルトは、コクピットの中で呆然としていた。自分を負かしたのは、魔法でも精霊でもない。「乾布摩擦」や「抗G呼吸法」などという、自分たちが馬鹿にしていた肉体と技術の研鑽の結晶だったのだ。俺は、フェイが差し出すお茶をズズッと啜り、空を見上げた。

 

「……。アルベルトさん。…空に。貴賤はない。……あるのは。重力と。己の腕。……それだけじゃ」


 伝説のエースの復活。それは、世界を支配する精霊至上主義の常識に、大きな物理的な風穴を開けた瞬間だった。


(つづく)


第十四話をお読みいただき、ありがとうございます!


宿敵アルベルトとの決着を、圧倒的な「物理の力」で描き切りました。

重力三倍という絶体絶命のピンチを、「昔の九Gに比べれば散歩道」と切り捨てるエースの格好良さ。そして魔法のシールドを物理的な衝撃波でぶち抜くカタルシスを楽しんでいただければ幸いです。


ジャックやミリーも、師匠の背中を見て一歩成長しました。これからは彼ら「Fクラス」が学園の常識を塗り替えていくことになるでしょう。


「おじいちゃん令嬢、重力の中でも余裕すぎw」「最新型をバラバラに解体するシーンが最高にスカッとした!」

など、感想や評価をいただけますと、執筆の大きな力になります!

よろしければ、下の【☆☆☆☆☆】の評価で、セリナたちの凱旋を応援してください。


次回、この模擬戦の結果がもたらす激震。学園内でのセリナの地位はどう変わるのか?

引き続き、よろしくお願いいたします!


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ヘンリーとかいうかませ犬は出てこなかった。
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