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俺は入り口のインターホンで彼の部屋番号を打ちこむ。ああくそ、0はどこだよ、2の上か、それとも8の下か?! あせるな、番号が動くわけじゃないんだ、たった3桁打ち込むだけでいいんだ。
そして、ようやく最後の番号を打ち込み、確定ボタンを押す。・・・インターホンの音とともに部屋がディスプレイに表示される。
「誰かいるのか?! 篤史っ?!」
・・・するとなぜか彼がディスプレイに現れる。
『なんだよ、血相変えていきなり叫んでどうしたよ?』
「・・・あれ? なんだ、無事じゃねぇか」
『無事で悪かったな。茂のことだから監禁されてるとでも思ったんだろ。とりあえず追い返すのも悪ぃしあがれよ』
そう言うと、ディスプレイが切れる。同時に自動ドアが開いた。俺は頭を掻くと、奥のエレベーターに乗り、6のボタンを押すのだった。
「んじゃ、邪魔するぜ」
俺は靴を脱いで上がろうとすると、見覚えのない靴が目に留まった。新しい靴にはどう見ても見えないし、彼がこんな靴をはくとは思えない。
「・・・・・・おい、この靴どうしたよ? 誰か他にも来てるのか?」
「まぁ、来てるっちゃ来てるが・・・。いま押入れの中で寝てるぜ」
「なんだよ、未来から来た青ダヌキか? ま、俺には関係なさそうだがな。・・・それより、何で電話に出なかったんだよ?」
「すまん、ケータイは電池切れで、電話は押入れの中の奴が電話線を引っこ抜きやがったんだよ。せめて受話器を外すとかにしておいてくれよ、おかげで仕事の電話がかかってきたかも分かんねえじゃねぇかよ」
篤史は溜め息をつくと、俺にソファーに座るよう促す。そして、まず彼は足について聞いた。
「足、・・・ギプス取れたんだな。お医者様も真っ青だろうよ」
「あぁ、おかげさまですっかり治っちまった。あちらさんも俺のこと変人扱いしてくれて困ってるんだぜ。・・・ところで、だ。・・・彼女との付き合いはどうだ?」
篤史は顔を真っ赤にさせて聞くな聞くなと繰り返す。一体どうなっているのやら、余計気になる。
「なんだー? プレゼントは渡したんだよな? 誕生日に一緒に過ごしたか? 他にはえっとだな・・・」
「や、やめ、ま、まだそんな関係じゃねえっ! その、だな。あぅ、あうー・・・」
そして、しばらくつまらない話をしていたが、・・・急に真面目な顔になる。俺は少しおどけることにした。
「なんだよ、金は貸さないぜ。というかこの前の5,000円返せ」
「そんなんじゃないって。・・・その、奴・・・あ、押入れの中の奴だぜ、ま、分かるとは思うが。そいつのことなんだが、・・・あいつは普通の人じゃないみたいだぜ」
俺はすぐにおどけるのをやめる。こいつは少し深刻だ。
「普通の人じゃない? なんだか少し曖昧な表現だな。もう少し補足してくれよ。・・・いや、やっぱり俺の質問に答えるだけでいい。“はい”か“いいえ”で答えてくれ」
恐らく俺はこの質問の答えによっては態度を180度変えるだろう。“いいえ”なら芸能人か、メアド交換してください。万が一“はい”ならば、その時は・・・。
「そいつは、・・・俺たちと同じだ。質問の意図は汲み取れたよな? そら、どうなんだよ?」
そして篤史はうつむき、一度眉間をおさえ、目を瞑る。・・・そして、しばらくの沈黙の後、顔を上げて答えた。
「・・・“はい”・・・それが、奴の正体だ」
「・・・同じ、か。・・・メアド、・・・交換してほしいぜ・・・」
俺は少し苦々しい笑みを浮かべ、押入れの方を見る。・・・一見、人が入っているようには見えないが、確かにあの中には人・・・いや、なんと言うべきだろうか。・・・やっぱ人でいいや。人が入っている。
そして、俺は次に彼の素性などを聞くことにした。
「前もって言っておくが・・・あいつは殺人者だ。そのうえ誘拐未遂も犯した。でも、それらは彼自身の意思でやったわけじゃない。彼を陰で操っていた『あのお方』とかいう奴の意思だ」
「『あのお方』? ・・・どこかで聞いた覚えがあるんだが、どこで聞いたんだっけな。ちょっと待て、今脳内から掘り出してる感じ」
いつだっけ? どこで、誰に聞いたんだっけ?
“基本的に六人だな。人じゃねえけど。そいつらは、『あのお方』という人物・・・いや、存在を崇め敬っていた。・・・つまり、そいつが彼らをまとめている、・・・ボスだろう。”
「そうだ、確かお義兄さんが言ってたような気が」
「お兄さんって、この前亜麻弥ねーちゃんの家に行った時にいたあいつか? ・・・つーことはまさか、亜麻弥ねーちゃんとあいつ、結婚したのかよ?!」
「は? いつの間にそういう関係になっちまってるんだよ? 三千重の兄貴だぜ」
「へぇ、・・・・・・いやいや、全く似てないだろ」
「・・・これ以上は突っ込まないぜ。そろそろ話題の路線を元に戻さねえとな」
そう言って、俺は『あのお方』についての情報を整理し・・・、・・・?
「何だよ、いきなり押し黙ってよ。何か思い当たる節でもあるのか?」
「・・・誘拐未遂っつったよな? それって、・・・子供か? それとも大人か?」
「ん、・・・たぶん子供だ。少年って言ってたから男だぜ。・・・あと未遂の理由は撃退されたんだってよ。確か、男に」
・・・それ以上はもう十分だった。俺はスクっと立ち上がる。
「おい、どこ行くんだよ? 麦茶ならここにあるぜー?」
俺は押入れに近寄る。この中に、・・・あいつがいる。俺は目を瞑り、手を伸ばす。
「っておい?! お、お前沸点そんなに低かったか?! 人の家ん中で暴れるんじゃねえよぉ!!」
「わりぃ、・・・修理費はちゃんと払う」
検索中、
名称:蒼竜刀・陽、
アクセス先:AZURE、
構築準備完了、
構築開始、
...24%
......47%
.........69%
............82%
構築完了。
「・・・・・・いつまで寝入ってんだこンのヴぁかやろうぅうぁあああああああああッ!!」
俺は押入れの扉を爽快に縦に一閃。・・・パタンと右半分、左半分と倒れる。そして、やはり中には憎いあいつの姿が見受けられた。
「あーあ。・・・どうしてくれんだよ。こんなにきれいな壊し方されたら怒りたくても怒れないぜ」
「はいはい、小言は後で聞くからこいつを叩き起こしてくれ。こいつにはいろいろ恨みがあるからよ」
篤史はここまでやったんなら自分で起こせと言ったが、俺がどうしてもと言うと渋々聞いてくれた。
「・・・おい、起きろ。お前に客だぜ。早く起きてくれないと俺が殺されちまうよー」
「ん、む、むぅ・・・。きゃ、客? 殺される客って誰ぇ・・・?」
「俺だ」
そう言って俺は奴の前に立ち塞がる。さて、どう反応してくれるか?
・・・。
・・・。
・・・。
「おい、また気絶してるんじゃないか?」
「えぇと、・・・おーい、大丈夫かー? ・・・ダメだ、完全に気を失ってる」
俺は再びソファーに座る。奴の襟首をがっしりと掴んでるから起きたらすぐ気づく。
「んで、茂。こいつとどういう関係なんだ? 借金の連帯保証人になっちまったとか?」
「息子を誘拐しようとしたり家を壊したり、俺の人気を下げてくれたと思ったら上げてくれて、本当に困ってんだよ」
最後の一個はいいことじゃねえかと言われたが、俺はすぐに否定する。・・・この場合の人気を上げてくれたというのは、無論新聞やニュースでメチャクチャにでっち上げられることをさす。俺はマスコミはあんまり好きじゃない。
「で、激闘の末こいつを撃退したわけだ。・・・こいつ躍起になってしっかり特訓したらしいぜ。で、お前を倒しに戻ってきたわけだ」
「・・・ふぅん。・・・じゃ、しっかり俺が強いって教え込まなきゃ駄目みたいだな。・・・ん、気がついた」
ようやく目を覚ます。襟首を掴まれていることに気付くと、暴れて俺の戒めを解いた。
「くそ、不意打ちかよ・・・! ていうか篤史さん、こいつとどういう関係なんだ?!」
「あぁ、俺こいつの従兄弟な」
「マジで?!」
反応がうすいのは置いといて。とりあえず俺はこいつに聞いてみた。
「・・・お前、俺に勝つために必死なんだな。努力、したんだな。・・・俺、そういうのいいと思うぜ」
「へッ、敵に同情されるほど俺は弱かねぇよ。この前は永遠に顔も見たくないっつったけど。・・・俺はお前を殺す。だからお前も俺を完膚なきまでに・・・いや、殺すまではしないでくれ、ほんと頼むから」
「殺すなって言われたら殺さないが、しばらくは修理代とかその辺り払ってもらうぜ。無理なら半年ほど俺の家で掃除したらチャラにしてやるよ」
「ちょ、ストップストーップ! ど、どこで戦うつもりだよ? 俺の家とかじゃ困るぜ?!」
そういえば戦う場所を決めていなかったな。どこか目立たない場所は・・・。
「俺が仮住まいにしてる工場があるんだ。土地的に悪いのかどうか知らないけど取り壊しも中止にされたから今じゃ誰も寄り付きはしない。・・・そこで、1対1でいいよな?」
俺は頷いて了承する。・・・ただ、場所が分からないから案内してもらうことにした。
「・・・絶対に勝てよ。負けたらお前を末代まで祟ってやるからな」
「篤史のことだから止めると思ってたんだが、意外だな。・・・やっぱ好きな人ができたら男って変わるのか? ・・・分かった分かった、その話はもうしねえよ、だから拗ねるなって」
笑って俺は奴の後を追う。んにしてもあいつ足速いな。それとも俺の体力が落ちてきてるのか? ・・・この歳で落ちてくるわけないよな、まだ華のティーンエイジャーだぜ? むしろ結構運動してるから普通は勝てるはずなんだが。ただ、よく三千重に腹筋割れないねと言われる。いやそこまでしてないから。
「ぜえ、へぇ・・・疲れた・・・もうダメだ、走れねぇ」
「とばしすぎだ、先行ってるぜ。・・・と言いたいところだが、お前が案内してくれないと困る。ほら、寝っ転がってないで早く起きろよ」
そう言って手を差し伸べてやる。やっぱりまだ子供って感じがするな。
「だから子供じゃねー! 俺はこれでも15だ!!」
「はいはい。15っていったらまだ子供だぜ。3年早いわお子様が」
「あったま来た! もうお前の案内なんかしねーよ!!」
彼はそのまま走っていき、数メートル先で見事に転んだ。
「寝る子は育つってのはそういう意味だったのか。納得した」
「子ども扱いするんじゃねぇッ!!」
・・・こいつ、・・・やっぱり子供だな。おっと、これ以上言うと本気で案内してくれそうもない。
「ほら、着いたぜ。ここだ」
・・・まだ昼の3時だが、辺りは薄暗い。不良の絶好の溜まり場だな。・・・中から鉄パイプを擦るような音が聞こえるし。
「・・・不良如きに怯えるような俺じゃないぜ。・・・まぁ顔殴られたら本業の雑誌モデルを続けられるかどうかは分からないが」
「・・・大人ってがめついな。そんな大人にはなりたくないぜ」
そう言って、彼は扉をあける。・・・中にいた奴らがこっちを向く。
「あァン? ンだよにぃちゃん、ここはてめーらみたいなふつーのヤツラがくるようなところじゃねーんだよ」
「ほらほら、雑誌やら新聞に載ったからって調子に乗ってんじゃねーよ」
「あ、俺らタイマン張りに来たんだ。というわけでお前らは出て行け」
「ハァ? 大の大人がタイマンかぁ?! なんだよ、これ売り込んだら一儲けできるんじゃね?」
「バラされたくなかったら金払えよ、お前結構持ってんだろ? お金くれたら言わないでやるよ」
・・・こういう奴らはこっちが弱気になるといっつも付け上がって来るんだよな。というわけで、
「・・・本気でやっていいぜ。・・・えっと、名前なんだっけ」
「忘れた」
そう言うと、彼のいたところには、・・・竜がいた。相変わらず少し陰気が混じっているが、・・・前に比べたら幾分かマシになっている。篤史は職業を間違えた。あいつ、カウンセラー辺りが向いてるんじゃないか?
「ひ、ひぃいいいいいいッ?! バ、バケモノだぁぁああーっ!!!」
『あぁ、バケモノだぜ? さぁて、どいつからヤっちまおうかな?』
「お、お助けぇええ・・・! 死にたくねェよ、おかぁちゃぁあああんッ!!」
「ってわけで、・・・言わないでくれたらここは見逃す。それでも言うってんなら。・・・ひひっ」
俺が少し笑うと不良全員集まって、土下座。おいおい、頭打ちつけんじゃねえよ、額割れるぜ。
そして、廃工場の中は静かになった。そのうえ暗いから、夜と錯覚してしまいそうだ。
「・・・戦う前に聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「あぁ、なんでも聞いてくれて構わないぜ」
「もう、あんな奴らの所には、行くなよ・・・?」
奴は悲しそうな表情をしたが、すぐに笑う。
「それ、聞きたいことじゃなくて命令だろ。誰がそんな命令聞くかよ」
「・・・危ないぜ。行かない方がいい。だから―――」
「行かないぜ。・・・お前の命令とかそんなんじゃなくて、俺は絶対に奴らの所へは、行かない」
―――俺が馬鹿だったってわけ、か。・・・こいつ、ただの子供かと思ったら、そうでもないようだ。
「それにしてもお前、・・・あの笑い方は怖い。俺でも鳥肌が立った。一体どこでそんな笑い方覚えたんだよ?」
「んっと、・・・蒼真が俺から聞いたって言ったらしいが、俺も蒼真から聞いたんだ。で、その蒼真は俺から聞いたらしくて、」
「話の内容は分かった。じゃ、最後に質問していいぜ。その答えを俺が言い終えたら勝負開始だ」
「あぁ、そうか。・・・俺は正々堂々戦うぜ。逃げないし、無様に降参などしない。じゃあ、俺がお前に聞く最後の質問だ。―――お前の本名は、・・・なんだ?」
勿論、彼はそれを知るわけがない。だから、敢えて俺はこいつにそれを聞いた。
そして、彼は答えた。
「俺に名前は、・・・ないぜ」
そして、時計の秒針が動くよりも速く、空間が爆ぜた。
「・・・くそッ・・・、また、・・・負けちまった、か」
体じゅうボロボロ。こりゃ家に帰ったらあいつに激しく怒られそうだ。顔をやられなかったからよかったがな。
・・・今回ははっきり言って命懸けだった。前のような拡散する攻撃ではなく、一点にまとめて攻撃しているためか、その一撃一撃に前回と比べ物にならないほどのエネルギーが篭っている。まともに食らっていたら本当にやばかったかもしれない。だが、まだ鍛え方が甘かったようだ。
「攻撃、体力、スピードは申し分ないぜ。だが、・・・打たれ弱いな、お前」
「そうだよ、耐久性に関しては全く鍛えてなかったんだよな、・・・はぁ・・・」
青息吐息って感じだ。ま、今回は勝てると確信してたんだからな。仕方ねぇよ。
「というわけで、・・・しばらく俺の家で働いてもらうぜ。食事とか部屋とかはちゃんとお前の分あるから。・・・えっと、・・・もう一度聞くが、お前の名前・・・・・・忘れたんだよな?」
「あぁ、さっぱり思い出せない。あのババァに付けられた名前なんて好きでも使いたかァないぜ」
「まさか名無しの権兵衛を家に入れるなんて言ってもあいつは信用してくれないしよ・・・ちょっと偽名考えろ」
奴は頭を抱える。ま、自分の名前だからな、適当に須磨寺太郎左衛門とかつけるわけにはいかねぇし。
「坂本ジュリアン! 西野クリスはどうだ!」
・・・おい、自分の名前だぜ。そんな名前でいいのかよ? もうちょっとマシな名前にしろよ。
「岸田レイモンド! 須磨寺太郎左衛門!」
うわっ、こいつ今メチャクチャ適当な名前言ったよ?!
「・・・ダメだ、いい名前が浮かばねーよ・・・。なぁ、俺に名前つけてくれよ」
「へ? お、俺が考えろってか?! む、無理無理っ、すぐに思いつくわけないって!!」
えっと、名前名前・・・、む、むむむ、・・・あうあうぅ、むむぅ・・・。
「苗字の段階で転んじまうんだよ、・・・そうだ、お前の兄貴の名前は何だ?!」
「えっと、虎神隼だけど、・・・まさかそのまんま使うとか言うなよ」
分かってるっての、えっと、虎神隼か。なら、えっとだな、むむうぅ・・・。
「・・・よし、決定。・・・お前の名前はだな―――」
「・・・ありゃ、何したらそんなにボロボロになるのよ?」
「転んだ」
「いや、いくらなんでもそんな嘘が私に通用するとでも?」
「お前単純だからな、それぐらいはいでででででッ!?! 足踏んでる足踏んでる!!」
正直に言うまで踏むというので白状した。こいつ言うようになったなぁ・・・。
「へー、・・・で、この家に置くと? ・・・まさか私がすぐに賛成するとでも思った? 私が家を壊した人をそうですか、いいですよと家に置くとでも?」
「そ、そのことはまぁ忘れてあだぁっ?!」
思いっきり彼の足を踏む。おいおい、そこ俺が集中的に狙ったところなんだが。
「い、いや・・・どうだ? 家壊した分しっかり働いてもらうからよ、な? それでいいだろ?」
「茂って物好きねぇ。ま、私は構わないけど。・・・で、名前は?」
「俺は・・・えっと、なんだっけか・・・そうだそうだ、たしか虎浦朔だった」
確かって何よ、と少しため息をつきながらも、なんとか彼を雇うことができた。
「で、家どこよ?」
・・・で、その問いに答えた結果。俺たちは激しくボッコボコにされた。
To be continued...
いやー、夏休みいっぱい楽しませてもらいました。そのおかげで更新が一ヶ月を過ぎた! ほんと、ごめんなさいのひとことじゃすみませんよねー。
実を言うと夏休みの課題がまだ少し残っています。ヤバイヤバイ、早く終わらせないと。・・・だがレポート用紙が見つからないッ!! どうしようどうしよう。
・・・そんなこんなで自分の夏休みはもうすぐおしまいです。
最後に、残暑見舞い申し上げます。
From Knight Circle