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二周目の幼年期は忙しい

作者: りな

気がつくと、私は熱に浮かされていた。

汗で髪が額に張りつき、視界の端がにじんでいる。三歳の子どもらしく「おかあさーん」と泣きたいのに、頭の奥で別の声がささやいた。


――ああ、知ってる。このあと十二年で、私、死ぬんだ。


唐突に押し寄せてきたのは、一周目の人生の記憶。

十五歳の冬。村を襲った巨大な魔物に家族ごとあっさり食い殺された。

あの牙の感触まで、なぜか鮮明に覚えている。


「……やば」


三歳児らしからぬ言葉が口から漏れる。母が「何がやばいの?」と覗き込んできたが、私は必死に笑ってごまかした。

三歳児が「十二年後に魔物に食べられます」なんて言ったら、ただのホラーだ。


それからの私は、できる範囲で未来のための準備を始めた。

外に出れば、村の周りの地形を覚える。森の奥にある川の流れ、隠れられそうな岩場、木登りできそうな木。

家の中では、薪を割る父の動きを真似て空気を切る真似をする。


「なにやってるんだい、あんた」

「魔物と戦うためのイメトレ」

「え?」

「……おにごっこの練習」

父は納得したような、してないような顔をした。


さらに、魔法の基礎も学ばなければと考えた。

村には一人だけ、ちょっと変わったおじいちゃん魔法使いがいる。口癖は「弟子? 無理無理、面倒くさい」。


「お願いです、魔法を教えてください!」

「三歳児に教えるのは法律違反じゃないか?」

「そんな法律ありません!」

「そうか、じゃあ面倒だから嫌だ」


交渉は失敗した。だが、おじいちゃんの庭に生えている魔法草を手伝って収穫するうちに、少しずつ魔法の“気配”を感じられるようになってきた。

 

七歳のある日、森で採集をしていると、背後から声がした。

「お前、何している」

振り返ると、銀髪と長い耳を持つ青年が立っていた。青いマントの胸元には精霊の紋章。

「将来のための下見です」

「……お前、七歳だろ」

「備えあれば憂いなしです」

青年は呆れながらも森の危険を教えてくれた。名はリセル、森と精霊を守る騎士だ。


以後、森に入るたびに彼と出会い、剣の構えや亜人社会の知恵を少しずつ教わった。

「足運びが悪い。ほら、もう一度」

「はい!」

……時々、私が真剣に構えているのに「背伸びは成長してから」と茶化してくるのが玉に瑕。


十歳で出会ったのは、手のひらほどの小さな精霊。

「きゅい?」

助けてやるとついてくるようになったので「ぷか」と名づけた。

ぷかは風や水の魔法を強化してくれたが、ときどき全然関係ない木を揺らすお茶目な子である。


十五歳の冬。空が赤く染まり、地響きが迫る。

一周目と同じだ。

「来た……」

森から現れたのは黒い毛並みの巨大な魔物。


父と母を家の奥に押し込み、杖を構える。

その瞬間、背後から頼もしい声。

「援護する」

振り向くとリセルが剣を抜いていた。肩には光の精霊が宿っている。


魔物が突進する。私は風で身を翻し火の矢を放つが、毛皮に弾かれる。

「右足を狙え!」リセルの指示。

ぷかが水を撒き、地面を凍らせる。滑った魔物に、リセルの剣が閃光を描いた。

私は雷撃を叩き込み、魔物は崩れ落ちる。


息を切らす私に、リセルが笑った。

「よくやったな、小さな備え魔」

「……その呼び方やめてください」


家に戻ると、母が泣きながら抱きしめてきた。

「……無事でよかった」

「だから言ったでしょ。備えあれば憂いなし、って」

父は「十五歳の台詞じゃないな」と苦笑した。


村も家族も守れた。

一周目では会えなかった人と共に、私は運命を変えたのだ。


雪の中でぷかが舞い、リセルが剣を納める。

「これからも護るつもりか?」

「もちろんです」

――もう、誰も奪わせない。



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