第十話 私の千里に近づかないで!
知らない女性から声をかけられた。夜の道で1人、とても不気味であった。突然のことで声を出すことができなかったのだが、そんな沈黙に耐えられなかったのか女性側から話し始めた。
「返事ぐらいしたらどうなのかしら。」
そんな彼女の言葉を聞いて初めて言葉を発することができたのだった。
「は、はい。えっと、なんでしょうか。」
「あなたが天宮廻琉よね?あなたに言いたいことがあるのだけど。」
言いたいこと?気づかないうちに何か失礼なことでもしてしまっただろうか?
「もう金輪際、私の千里に近づかないで!」
「!?!?!?」
私の千里?まずはその言葉に驚いたのだが、その前に千里さんのことを知っているのか、この人は。
いろいろ聞きたいことはあったのだが、まずは。
「えっと、まずあなたのお名前からお伺いしてもいいですか?」
「私?私の名前は守屋 美華よ。覚えておきない!」
守屋 美華さんというらしい。千里さんとの関係について聞きたいところだったのだが、突然の雨が降り出した。
「雨がふってきましたね。外だと濡れるのでどこか店にでも入ります?」
「そうね。この辺りの店だと、、、」
そうしてやってきたのは近くのラーメン屋だった。いや、なぜ?近くにあったとはいえ、流石におかしいだろ。
戸惑いつつも食券を買い、席に案内され、注文をするのであった。
「いらっしゃいませ、ニンニク入れますか?」
「自分は全部普通で。」
「私は、そうね。ニンニクヤサイアブラマシでお願いするわ。」
いや、大ラーメンでそれは食い過ぎだろ。だが、口に出すとそれはそれで面倒なことになるとわかっていたのであえて言わなかった。
それよりも早く本題に入ろう。
「えっと、それでどんな御用でしたっけ?」
「そうね、改めていうわ。私の千里に近づかないで。」
うーん、やっぱ聞き間違いではなかったようだ。あとこの人威圧感すごいな。
「とりあえず理由を聞いてもいいですか?」
「あなた、メイド雇ってるわよね?なんで普通の会社員がメイドを雇えてるのは分からないけれど。」
!?!?なぜ知っているんだ。誰にも言ったことはないのだが。まぁ、隠してたわけではないが。
「なぜ、知っているのでしょうか?」
「あなたを尾行したからよ。」
「え?それってストーカー、、、」
「尾行よ!」
「あ、はい。」
いや、ストーカーだろ
あまりの威圧感にびびってしまい、僕はメイドと一緒に暮らしていることを話した。もちろん志保さんについてなどは隠したが。
「そうよね。だから私が言いたいことは一つ。メイドがいるにもかかわらず、私の千里とベタベタしないでよ!」
「いや、してないですって!」
「してるわ!」
自分は別に千里さんとベタベタしてるつもりなんてない。まぁ、数回飲みに言ったことはあるがそれぐらいだ。前まではワンチャンを狙っていたことがないこともないが、今では完全に尊敬の対象である。
そんなこんなで言い合いをしていると、隣に見知った人が座ってきた。
「今日も仕事疲れたー。ん?え!?なんであなたたちがここに!?しかも一緒に!?」
千里さんだ。
いや、なぜというのはこちらのセリフでもあるのだが。
それにこの反応、美華さんと千里さんは知り合いなのだろうか。
「えっと、こちらの美華さんという方が私になんか用事があるみたいで。」
「まさか、美華、あなた!」
「え、えぇっとぉ、、、」
叫ぶ千里さんと狼狽える美華さんであった。
「えっと、お二人はお知り合いなのでしょうか?」
「えぇ、そうね。大学時代からの友人よ。」
千里さんがそう答える。
友人なのか。だからこんな会話ができているのだろう。
「えっと、それで、なんて声をかけられたのかしら?」
「あ、はい。あまり千里さんとベタベタするな、私の千里に近づかないで、と。」
「みぃぃかぁぁぁ!!!なんでそんなこと言ったのよ!」
「だって、千里が、この男のことばっか話すからじゃない」
「べ、別に話してませんけどぉ!?」
ワーワーギャーギャーとうるさい人たちだ。
「流石に静かにしてください。周りに迷惑です。」
「「すみません、、、」」
この人たち双子かと錯覚するぐらい息ぴったしだな。
「はいお待ち!賑やかなのはいいことだ!ガッハッハ!」
そのタイミングでちょうどラーメンが出てきた。
「まぁ、今回のことは美華さんの暴走ということでいいですかね?ラーメン食べちゃいましょうよ。」
「そうね。伸びる前に食べましょ。ほら美華も。」
「ふぁい、、、」
千里さんに結構キツく言われたからか美華さんはもはや先ほどまでの威圧感は無くなっていた。
そうして彼女たちはラーメンを啜った。
そして、一瞬で平らげた。
いや早すぎだろ。胃袋ダイソンかよ。
自分も後に続いて完食した。
「「「ごちそうさまでした!」
「いやー、結構量ありましたね。」
「「そう?まだ、あと一杯はいけるわよ。」」
前言撤回である。ダイソンではなく、ブラックホールだな、これは。
「とりあえず、おまえのことはしばらく保留だ。しかし、私の千智を泣かせたら神の鉄槌を喰らわせるわ、覚えときなさい!」
「こら!誰が私のよ。私はあなたのものじゃないわ!」
「ご、ごめん。」
そんな彼女たちのやり取りに思わず笑ってしまった。
「こら、何笑っている!」
こうして、事件はありつつも忙しく、騒がしく、そして賑やかな1日はおわっていくのだった。
-つづく-