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⑱エピローグ。破天荒なお隣さんに振り回されっぱなしだけど、一緒に居ると楽しいし、平凡な学生生活では味わえない充実した日々が癖になりそう、という本音は口が裂けても言えない

翌朝のニュースは、市街地で発生した爆発事故を大々的に報じていた。


『本日未明、不動産会社の社長宅で大規模な火災が発生。

屋敷の大半が焼失し、複数のけが人が出ました。

しかし、居合わせた社員たちの懸命な消火活動により、死者はゼロ。

現在、警察と消防は事件・事故の両面から原因を調査しています』


「……まぁ、そりゃニュースにもなるわな」


陽太は昨夜の出来事を思い返しながら、ため息をついた。

権利書の消滅は成功したものの、その代償として屋敷の半分が吹き飛んだ。

計画にはなかった大爆発。

それが今、世間を賑わせている。


SNS上では、土地取引の関係で恨みを買っていた人物の犯行ではないか、

そんな憶測が飛び交っていた。

しかし、肝心の防犯カメラの録画データが爆発で吹き飛ばされているうえ、

被害者であるはずの会社関係者が何も語りたがらないため、捜査は難航を極めているそうだ。


昨夜の出来事なのに、まるで遠い昔の記憶みたいに思える。

陽太は大きなため息をつき、テレビを消した。

その時。


「よっ!」


陽太の部屋の窓が開き、黒い影がひらりと飛び込んでくた。


「芽衣、また窓から入ってきたのか!?」


「えへへ、玄関使うの面倒でさ」


軽やかに着地すると、芽衣は手に持っていた紙袋をテーブルの上にドンッと置いた。

得意げに胸を張り、まるで子供がテストでいい点を取って褒められるのを待っているかのようだ。


「ほら、見てこれ!」


お茶菓子か何かかなと思って陽太が紙袋の中を覗いたら、

帯封がついた100万円の札束が2つも詰まっていた。


「……え?」


「今回の報酬だよ」


「……え、待て待て、200万円ももらったのか?」


「本当は500万円の仕事だったんだけどね~

ちょっとやり過ぎたから、証拠隠滅の作業料とか、消火活動で水浸しになったご近所さんに秘密裏にお見舞金を配るとかで、いろいろ経費が差し引かれちゃった♪」


「いや、そりゃそうだろ! あれだけ派手にやらかしてれば、事後処理が大変だ!!」


「細かいことは気にしない♪ はい、100万円ずつね」


「……え、俺も?」


「当然でしょ? だって陽太も任務を手伝ったんだから」


芽衣は満面の笑みで札束を手渡してくる。

陽太は恐る恐るそれを受け取った。

自分の手の中に、一万円札がぎっしり詰まった束がある。


「……こんな大金、どうすればいいんだよ……」


「使えばいいじゃん!」


「いや、学生が突然100万円も使ったら、絶対に怪しまれるだろ。

銀行に預けるのもまずいし」


「ふーん、じゃあ押し入れにでも隠しとけば?」


「適当すぎるだろ……」


とはいえ、確かにそれが最善策かもしれない。

銀行に預ければ入手経路を疑われるし、無理に使おうとしても不自然すぎる。

陽太は札束を新聞紙で包み、押し入れの奥に突っ込んだ。


「……なんか、これってどこかで見たような」


デジャヴのような感覚に襲われながら、陽太は考え込んだ。

しかし、そんなことはどうでもいいというように、芽衣が陽太の肩を叩く。


「ね、ね、それよりさ、焼肉食べに行こう!」


「は?」


「任務達成のご褒美に、私が奢ってあげる!」


芽衣は無邪気に笑う。


「今日はパーッと奮発しよう!」





「さあ食え、陽太! 今日は遠慮なしだよ!」


芽衣は網に肉を並べながら、

どこからともなく出してきた焼き肉奉行スタイルのハチマキを額に巻いていた。


「なんでハチマキ持ってんだよ」


「私、焼き肉に真剣勝負だから!」


「いや、『肉命』って書いてあるの、目立ちすぎる……」


「うるさい! 焼けた! 食え!」


「わーった、わかったって!」


口調は乱暴だが、芽衣の火加減は絶妙で、どれも最高だった。

陽太は肉を噛みしめながら、ふとこぼす。


「……うまい」


「でしょ? 私が本気出せばこのくらい余裕」


「いや、普段からその本気出してくれよ」


「任務中はさぁ、私エリート過ぎるから、余裕があって気ぃ抜けるんだよね」


「よく言うわ。おかげで俺、今、筋肉痛で立つのもしんどいんだが」


「痛みも達成感のうちでしょ。

高ければ高い壁の方が、乗り越えた時の喜びも大きいんだからね!」


「うーん……まあ、確かにそうかもな」


本当に不思議だと思う。

身体中ガタガタなのに。

芽衣と一緒にいると、人生を全力で生きてるって感じがする。

きっと、普通に大学生をやってるだけじゃ、この充実感は得られないだろう。


「陽太?」


「ん?」


「ニヤニヤしてる」


「してねぇよ」


「してる~。してた~~」


「してないって言ってんだろ」


「好きな子でもできた?」


「ブホッ! な、なに言って……」


「わー図星かー!? わー!」


陽太は咳き込みながらコーラで口を洗った。

芽衣は満足そうにニヤニヤしている。


「……好きな子って、お前な……」


「え? え、なに?」


「いや、お肉が焦げてるって言ってんだよ!」


「あ、マジで!? ちょっと! 夢の極厚カルビがぁ!」


芽衣が慌てて肉をひっくり返してる横で、陽太はそっと息を吐いた。


(……ダメだ。こいつにだけはバレちゃいけない)


この気持ちはまだ名前もないし、形も定まってない。

ただ、芽衣と一緒にいると楽しくて、どんなに疲れてても「まあ、いっか」って思える。

それが幸せなんだって、ふと気づいてしまった。

でもそれを口に出したら、くだらなくて最高に楽しい日常が壊れそうで怖かった。


「陽太ってさ、案外タフだよね。昨日あんなに走り回ってたのに、もう復活してんの?」


「いやいや、全身バキバキだって……ほぼ瀕死だ」


「そっか。じゃあ次の任務までに、もっと鍛えよう!!」


芽衣は満面の笑みで、肉をひっくり返す。

まるでこの日々が永遠に続くと信じてるみたいな、満ち足りた笑顔を浮かべていた。

だから、俺も……。

このまま、この気持ちには名前をつけずに、そっと胸の奥に忍ばせておこう。


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