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辺境伯の妻になりました。2年間の放置の末、突然の熱愛が降ってきた。  作者: 無月公主


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34/53

——彼の唇が、そっと彼女の唇を塞いだ。


ヴィーラは、一瞬、時が止まったように感じた。

ヘルムデッセンの唇が触れた瞬間、それが今までの彼とはまったく違うことを、彼女の全身が理解した。


——熱い。


リハーサルのときの儀礼的な口づけとは違う。

そこには、"誓い"だけでなく、彼の想いそのものが込められていた。


けれど、不思議と荒々しさはない。

強く、深く、それでいて優しく。


それはまるで、彼がヴィーラを大切にしていることを確かめるような口づけだった。


彼の手が、そっと彼女の頬を包む。

親指がかすかに肌を撫で、その指先が熱を帯びているのが分かる。


「…………っ」


驚きと戸惑いの中で、彼の腕がしっかりとヴィーラの腰を引き寄せる。

ゆるやかに、けれど確かに彼の胸の中へ包み込まれるように。


そして——


彼の舌が、そっと入り込んできた。


(……っ!!?)


瞳を見開くヴィーラ。

ヘルムデッセンは、今まで唇が触れるだけのキスしか知らなかったはず。


なのに。


これは、明らかに"学んだ"ものだった。


「……ん……っ……」


心臓が大きく跳ねる。


ゆっくりと舌を絡めるような、慎重で、それでいて彼の強い意志を感じさせる口づけ。

決して乱暴ではなく、けれど確かにヴィーラを求めていると伝わってくる。


(……な、なんでこんなに……。)


呼吸すら忘れそうなほどに、深いキス。

まるで、ヴィーラが逃げられないように、彼の腕がしっかりと支えている。


彼がこんなにも熱を込めたキスをするなんて、思ってもみなかった。


(こんなキスっ……どこで……?)


彼の指先が、そっとヴィーラの背を撫でる。

一瞬、身体が軽く震えた。


——やばい。


このままでは、どこまでも飲み込まれてしまいそうだ。


「……っ」


ヴィーラは、息を整えるために彼の胸を軽く押した。


ようやく、ヘルムデッセンはゆっくりと唇を離した。


——名残惜しそうに。


彼の赤い瞳が、真っ直ぐにヴィーラを見つめる。


(……そんな顔しないで……。)


情熱と誓いと、確かな愛を滲ませた瞳。


ヴィーラが言葉を発するより早く——


ヘルムデッセンは、口パクで静かに囁いた。


「——学んだ。」


(……っ!!!)


その瞬間、ヴィーラの頬が一気に紅潮する。


「おおおおおお!!!」

「なんという……!!!」

「堂々たる誓いの口づけ……!」


静まり返っていた大聖堂が、一気に歓声で満たされた。


貴族たちは興奮し、騎士団の仲間たちは大喜びし、王族ですら驚きを隠せない様子だった。


(……このバカ……!!!)


ヴィーラは唇に残る熱を感じながら、小さくため息をついた。


(リハーサルの時の控えめなキスとは、まるで別物じゃない……!)


堂々と、何も隠さず、誓いを示すような口づけ。


「……っ、もう……。」


ヴィーラは、軽くヘルムデッセンの胸を叩いた。


ヘルムデッセンは、悪戯を成功させた子供のような顔で、満足そうに微笑んでいた。


(……ほんとに、学んでくるんじゃないわよ……。)


息を整えながらも、ヴィーラはふと気づく。


(でも、嫌じゃなかった……。)


むしろ——。


(嬉しい、かも。)


胸が高鳴るのを抑えながら、彼の手をそっと握り返した。


こうして——


3年の時を経て、デュークデイモン夫妻の遅すぎる結婚式は、誰もが認める"歴史に刻まれる"ものとなったのだった。


―――――――――

―――――――


静かな夜が訪れた。


窓の外には、王都の夜景が広がっている。

祝福の宴が続く賑やかな音は、ここまで届かない。

この部屋だけが、まるで別世界のように静かだった。


ヴィーラは、深く息を整え、寝室の扉をそっと押し開いた。


「……お待たせ。」


普段と同じ部屋、普段と同じ夜——

なのに、"特別な夜"だということが、どうしても意識から離れなかった。


纏っているのは、薄く柔らかなシルクの特別なネグリジェ。

肩から滑るようなデザインは、普段のドレスとは違い、どこか大胆で……肌が直接触れる部分が多い。


(……いつも通りに振る舞えばいいのに。)


そう思いながらも、自然と足が遅くなる。


視線の先には、ベッドの横に腰掛けたヘルムデッセンがいた。


そして——彼は、まるで時間が止まったかのように固まっていた。


真っ赤になって。


「……ヘル?」


彼女がそっと名前を呼ぶと、ヘルムデッセンは息を詰まらせ、生唾を飲み込んだ。

彼の喉が、静かな寝室の中で僅かに動く。


赤い瞳がヴィーラを見つめている。

まるで、目の前に信じられない光景が広がっているかのように——。


「……。」


しばらく動かないまま、彼はゆっくりと立ち上がった。


そして——


「っ!」


次の瞬間、ヴィーラは宙に浮いた。


「きゃっ……!」


ヘルムデッセンが、何の前触れもなく彼女をお姫様抱っこしたのだ。


「ヘル——」


言い終わる前に、彼の腕が強く締められる。

まるで、決意を固めたかのように。


「ヴィーラ……」


低く、掠れた声。


彼の体温が、いつもよりも熱く感じる。

肌の距離が近すぎて、心臓がどんどん早くなる。


そして——


ベッドの上に、優しく押し倒された。


シーツがふわりと揺れる。

ヘルムデッセンの逞しい腕が、ヴィーラの上に影を落とす。


「……今日のヘルは、よく頑張ったわ。」


彼の赤い瞳を見上げながら、ヴィーラは微笑んだ。


「だから……ご褒美、になるかしら?」


それに対し、ヘルムデッセンは息を詰め、まるで宝物を目の前にしたような顔で——


「……あぁ、十分……ご褒美だ。」


低く、熱のこもった声が、ヴィーラの耳元をくすぐる。


最高のムードが漂っていた。


彼の指先が、ヴィーラの頬をそっと撫でる。

親指が僅かに唇の端をなぞり、すぐに彼の顔が近づいてくる。


(あ……。)


彼が何をしようとしているのか、すぐに分かった。


——キス。


けれど、リハーサルの時や、結婚式の誓いの口づけとは違う。

これは、まるで熱を帯びた、別のもの。


彼の唇が、そっと重なる。


そして——


深く。


「……っ」


ヴィーラは、自然と目を閉じる。


リハーサルの時のような、儀礼的なものではない。

誓いの時のような、静かなものでもない。


舌が、そっと絡められる。


(……!?)


驚きに息を飲む間もなく、彼の腕が強くヴィーラを抱き寄せる。


息が溶け合うほどに、長く、深く、熱を込めたキス。


ただ触れるだけではない。

舌を絡め、何度も角度を変えながら、まるで"想いを伝えるような"口づけだった。


(……他の女で学んでたら承知しないんだから!!)


恥ずかしさと、戸惑いと、喜びが入り混じり、ヴィーラの胸が高鳴る。


「……っ」


ヘルムデッセンがゆっくりと唇を離すと、ヴィーラは熱を帯びた息を小さく吐いた。

唇がひどく熱い。


彼の赤い瞳が、潤んだヴィーラの顔をじっと見つめている。


「……。」


静かな夜の中、彼はふと何かを思い出したように微笑んだ。


(……?)


次の瞬間——


「んっ……!? ちょ、ちょっと……!」


ヴィーラの体が、くすぐったさにビクッと跳ねた。


ヘルムデッセンの指が、彼女の腰や脇腹をゆっくりと撫でるように這う。

予想外の刺激に、思わず体が捩れる。


「……へ?」


一瞬、何が起きたのか分からず、ヴィーラは戸惑った。


しかし、すぐに気づく。


(……まさか。)


彼が、どこか誇らしげな顔をしている。

これは——"本で読んだ知識を試している"顔だ。


「へ…ヘル…どの本を読んだのかわからないけど……」


ヴィーラは、笑いを堪えながら問いかける。


「私に、くすぐったいと言わせたいの?」


ヘルムデッセンは、しばらくじっとヴィーラを見つめ——

満面の得意げな笑みを浮かべた。


「……?」


(そうだと言わんばかりの顔!!!)


その瞬間——


「……っ、あはははっ!!!!!あははははははは!!」


ヴィーラの大爆笑が、寝室に響き渡った。


「ひゃっ……ははっ!! ちょっ……死ぬ!! 死ぬーーーーー!!笑い死ぬ!!ははははっ!」


あまりの可笑しさに、彼女は腹を抱えながら笑い続ける。

その笑い声は、屋敷の下の階まで響いた。


◇◆◇◆◇◆◇


屋敷の一階では…


「……?」


側近や執事たちは、不意に聞こえてきた響き渡る笑い声に、一斉に顔を上げた。


「あの……?」


「今の声は……?」


「房事をされているのではないのか?」


「……いや……何故爆笑してらっしゃるんだ……?」


「まさか……ヘルムデッセン様がミスを?」


部屋の外にいる者たちは、あまりの"異例"な初夜の音に、静かに顔を見合わせたのだった——。


◇◆◇◆◇◆◇


「ヴィ…ヴィーラ、何を間違えたのか教えてくれ……。」


ヘルムデッセンは、しゅんとした顔で呟く。


——あの、"最強の戦士"が。


傷だらけの体を持ち、戦場で名を馳せ、血と汗にまみれながら生きてきた男が。


こんなにも、素直に、拗ねたような顔で。


(戦うことしか知らなかった男が……。こんなにも成長して……。)


胸が温かくなる。


彼が、彼女のために"学んできた"ことが、言葉以上に伝わってきて。


(……とても愛おしい。)


ヴィーラは、くすりと微笑んだ。


「ヘル……こうするのよ。」


そう囁きながら——

彼の逞しい上半身に、そっと唇を落とした。


「っ……?」


ヘルムデッセンが、息を詰める。


首筋、鎖骨、肩口。

優しく、ゆっくりと、キスの雨を降らせる。


「……んはっ!!」


ヘルムデッセンの体が僅かに震えた。


(……可愛い。)


ヴィーラは、微笑みながら、さらに彼の胸元に唇を落とす。


「………くすぐったい……んっ!!」


「ふふ、わかった?」


「わっ!! わかった!!」


焦ったように返事をするヘルムデッセンに、ヴィーラはさらに微笑みを深めた。


(そう、"くすぐったい"っていうのは、こういうことなのよ。)


彼は、まだまだ知らないことが多い。


それでも、間違えながら、学びながら、少しずつ前へ進んでいる。


ヴィーラは、そんな彼を抱きしめながら、静かに目を閉じた。


こうして——


何度も間違えながらも、なんとか初夜を迎える二人であった。

◇◆◇◆◇◆◇←これを打ち込むのが凄くしんどかった。 しかく 変換 しかく 変換スペースエンター しかく 変換スペースエンター………

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