5話:これからよろしく
(/・ω・)/今回も会話多め
「・・・ター! ・・・スター! 起・て・・さい! かくなる上は・・・」
遠くから声が聞こえる。
「マスター! 起きてください!!!」
頭頂部への強い衝撃とともに眠りの海から意識が引き上げられる。
「痛ってぇーーーーーー」
頭を抱えベッドの上をのたうち回る。
「もう日が昇ってそこそこ経つのに起きないマスターが悪いんですよ」
声の発生源へ目を向ける。
そこには奇妙な出会い方をした少女が仁王立ちしていた。
「急にどうした。さっきまで口で会話なんてしなかったじゃないか」
「さっき?何を言ってるんですかマスターは。それは昨日のことでしょ。ほら見てください。あの燦々と輝く太陽を。」
彼女が指さす先には窓を通して部屋を明るく照らす太陽がある。
それを確認し慌ててスマホのロックを解除する。
「は?16時間近く寝てるじゃねぇか!」
「昨日15時くらいにこの部屋に戻ってきて、シャワーを浴びたり軽食を取ったりした後気絶するように寝たんですよ。覚えてないんですか?」
まったく記憶がない。
こんなに寝たのは初めて紅華さんにしごかれた日以来だ。
(そんなに疲れることしたっけか、昨日。)
「というか、ナチュラルに喋ってるけど、知らない言語だから話せないとかいってなかったか?」
「電子の海に一晩浸って覚えました!」
「一晩中インターネットにアクセスしてたという解釈でいいのか…?」
「はい!あってます。」
「流石と言うかなんというか」
胸をはってドヤ顔で言い切る彼女に苦笑いしつつもう一度スマホの時計を見る。
ただいまの時刻8時ちょっと前。
「にしても何でこんなに寝たんだ?記憶が飛ぶほど疲れることしてないとおもんだけど。」
「それについても追々話すのでとりあえず顔でも洗ってきてください。」
ほら行った行った、と手を振る仕草は昨日よりよっぽど人間味を帯びていた。
(一晩でずいぶんと人間っぽくなったな。いや昨日があまりに事務的過ぎたのか?)
いくら一人で考えても答えは出ないので言われた通り顔を洗いにベッドを立つ。
洗ったことで意識もより明瞭になった気がした。
備え付けの電気ケトルでお湯を沸かし、日本から持ってきたインスタント春雨スープにそそぐ。3分待ったところで窓際の椅子に座り食べ始める。
「インスタント系の食品って時々食べたくなるんだよな」
「あー!マスターだけずるい。私の朝ご飯はないんですか」
「ん、食べる必要あるのか?」
「そりゃありますよ。いくら精心力が主食だからって食事しなきゃやってられません!」
「分かった分かった。だからそんなに睨むな。というか精心力が主食なのか。」
テーブルの上で不満げな表情一杯の彼女をなだめ、ビニール袋から栄養バーを一箱取り出す。
流石に全部は多いので、とりあえず1本の半分を渡す。それだけでは味気ないのでミネラルウォーターをキャップに注ぎテーブルに置く。
「よし、どっちも朝食が整ったところで話したいこと話すか。」
「そうですね、マスターが気絶から復活したことですし。」
「じゃぁまず昨日気絶した理由について聞こうか。」
「我々が出会ったあの観測所を出るとき、なぜか躰性能向上の上昇率がいつもより多くハッチをあけることができた。そんな風に感じてると思います。その原因は何を隠そう私なのです!」
「だろうな」
「・・・拍子抜けな反応ですね。つまらないです…」
(だってお前以外考えられないからな)
力を籠める直前彼女から発せられた光が俺ごと身を包んだ。誰がどう見たってそれが原因だと分かる。
心の声を素直に口にするとすねられそうなので飲み込む。
「で、それがどう繋がるんだよ」
「まぁまぁそんなに焦らないで。私の仕事を一言で言うと“支援職”なんですよ、しかも契約した人専門の。今でこそ倍率が低いですがこれから先どんどん大きくなる予定です。まぁマスターとの”接続“状況が悪い今のままだと負荷も大きいし、継続時間も極端に短いんですよね」
「なるほど、その支援の反動でこんなに寝たと。・・・ちなみにバフの割合はどのくらいなんだ?」
「今の状態だと+10%が1秒が限界ですね。なにせ仮契約みたいな状態ですから。」
そういって栄養バーを口一杯にほおばる。
ヒマワリの種をかじるハムスターを彷彿とさせる食べっぷりをしているが、トンデモ発言製造機にしか思えなくなってきた。
(たしか紅華さんの師匠が広範囲に躰性能向上を掛けられる能力持ちだったけど少し疲れにくくなる程度だった気がする)
(そう考えると個人限定とはいえ+10%は破格だな)
ここまでの話ですでに胸やけしそうだ。
しかし仮契約でこの割合。この先どうなっちまうんだ。
「ん?仮契約?」
「そうそう、仮契約です」
「あ、そうそれ! ずっと聞きたかったんだけど、その“契約”ってなに。なんとなく”マスター呼び“を受け入れちゃったけど、そもそもいつ契約したのさ。」
「すっごい今更ですね。」
「そうですね、順を追って話すと、今マスターと私は仮契約状態です。いわば体験版ですね。そのあと互いが心から認めた状態でマスターが私に名前を付けると真の契約が完了します。」
「今のままじゃ“相互成長型観測補助人工製命”って呼ばなきゃいけないし、どうにかしようと思ってたけど。まさか名づけがトリガーになってたとは。」
「あと私は誰とでも契約できるわけじゃないんですよ。技術的にある体質を持った人の能力にしか干渉できなくて、その体質がマスターにもあったため契約できたようです。良かったですね、私と契約できるなんてラッキーですよ~。」
「もしかしてその体質って、何となく嫌な予感を感じ取れる体質だったりする?」
「まさにそれですね。不定期に精心力の揺らぎを予見できる特殊な体質。メカニズムこそ解明されませんでしたが、その感知精度は確かなものでした。マスターも今まで外れたことないでしょう?」
「残念なことにな。“予感”の次の日に中級荒レ狂ウ飢餓が複数体同時に発生したなんてニュースを見たときはさすがに驚いたよ。」
今まで悪いことの予感しかなかったから今回も同じだと思っていた。
ふたを開ければ古代出身の少女との出会い。
この体質だからこその出会いは今後にどう影響するのやら。
しばらく黙ったままの時間が続いた。
「・・・マスター。私に名をください。」
先に沈黙を終わらせたのは“名”を求める少女だった。
どうやら両者とも似たようなことを考えていたらしい。
先ほどまでのにこやかな雰囲気とは違い、真摯に訴えかける表情がそこにはあった。
「・・・俺でいいのか?」
「愚問ですね。現代においてあなた以外の観測者と出会うことなどできないでしょう。仮にできたとしても方藤藍、あなたを選びます。今までのやり取りでそう結論付けました。」
俺の中に少なからずあった懸念がその真っ直ぐな視線に打ち消される。
その穴を埋めるようにある確信が満ちていく。
(こいつとならやっていける。そう、こいつじゃなきゃダメだ)
「よし。腹は決まった。」
「お前の名前は 」
「“真珠”・・・ですか。」
「あぁ、髪と目の色が印象的でさ。石言葉だと“健康”“長寿”みたいな意味があって、お前にぴったりだと思ったんだ。」
目の前の少女に贈る俺の思いを端的に表した宝石がちょうど髪色から受ける印象とマッチした。
一時期石ことばや花ことばを調べてた時期があったが、まさか役に立つ時が来るとは。
「真珠、真珠、いいですね、えぇいい響きです。ありがとうございます、マスター。」
「あぁ、これからよろしくな真珠」
自然と握手のために手を差し出していた。
人差し指を両手で掴む真珠を見て笑みがこぼれる。俺の顔を見たであろう真珠もくしゃりと笑う。
海の見える窓から差し込む朝日が俺たちの進む道を照らしている気がした。
(/・ω・)/小さな少女の名前が決定!! 「真珠」ちゃんになりました。
(/・ω・)/真珠ちゃんが藍くんを起こすときにとった方法は、高く飛び上がり頭頂部に片足で蹴りを入れる技です。
(/・ω・)/昨夜ネットサーフィンしてるときに特撮文化に出会い、思い付きでやりたくなったようです。
第5話完読ありがとうございます。
感想・☆等々でやる気が激増しますので良ければお願いします。
引き続き読んでもらえるよう頑張ります。
それではまた次回~