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12話:賑やかな宿舎

 俺の目の前に広がる光景は一体何なんだろうか。

 特象隊宿舎兼作戦基地である屋敷の地下に広がる生活スペースで二人の男が取っ組み合っている。互いに真剣な面持ちで睨み合い火花を散らしている、としか表現しようがない光景に唖然としていると後ろの階段から黄鈴(こすず)さんが降りてきて説明してくれた。


「あの二人、苦労の末にネコを見つけて帰ってきてすぐ寝たんだって、夜遅いのに夕飯も食べず。で空腹が最高潮の状態で起きて二人して食い意地張ってる。」

「あぁーなるほど。あれ最後のベーコン取り合ってるんですね…」


 いい歳した男が二人、一枚のベーコンをめぐって喧嘩とはなんとコメントしたものか。

 俺の顔の横をフヨフヨ漂う真珠も呆れて肩をすくめているので黄鈴さんと一緒にキッチンに向かう。もちろんあの二人はスルーだ。

 まだ少し眠気が残る頭を晴れやかにするためにコーヒーを一杯用意し、軽めに焼いたトーストにマーガリンを塗る。なぜ軽めかって?以前ちょっと高い食パンを買ってみて、こんがり良い色にしようとしたら無惨にも丸焦げにして、それがトラウマになったからだ。

 横目で黄鈴さんの方を見ると既にスムージーを作り終えていた。朝食はあまり食べない派らしい。


「マスター私にもコーヒー分けてください。」

「はいよ、熱いから気をつけろよ。・・・にしても何で真珠サイズのマグカップやら皿やらがあるんだろうな。普通ないだろ。」


 生活の場をここに移してからずっと疑問に思っていたが、なにかと忙しく誰かに聞くに聞けなかった。そんな疑問も今日が一応休日ということもあり心が落ち着いていたからか、スッと口からこぼれてしまった。


「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!何を隠そう、それらのミニ食器は俺の知り合いにもらったものだ!」


 キッチンカウンターの向こう側から幸福に満ちた声が響いてくる。

 声の正体は先ほどまで争っていた二人のうちの片方、表情を見るにベーコンを勝ち取ったのであろう人間だった。


「自分が作ったんじゃないのによくそんなにドヤ顔できるな、風空」

「なーに、ベーコンを手に入れて気分上々なだけだ。それよりそっちの娘に自己紹介しなきゃな。俺は丁輪風空(まちわふく)、藍とは高校からの付き合いでここで唯一の同期だ、よろしく。」


 快活な笑顔を添えて告げた風空に少しだけ真珠がびっくりしていたがすぐに自分も挨拶を返した。


「こちらこそよろしくお願いします。相互成長型観測補助人工製命こと真珠です。ここに来て数日ですがこの食器にはお世話になってます。」


 どうやら風空との邂逅も何の問題もなく終えられたようだ。

 二人の会話は食器に始まり脱線に脱線を重ねてネコ探しまで進んでしまったので、一足先にトーストとコーヒーを頂くことにした。

 風空は分け隔てなくコミュニケーションを取れるオープンな性格をしているからか、いつもは距離感を測る真珠も初めから同じテンションで騒ぎ始めた。

 そんな楽しそうな二人を視界の隅にトーストを頬張っていると朝食を取り終えた黄鈴さんが耳打ちしてきた。


「ご飯食べてるところに悪いんだけど、あれどうにかしといて。」


 そういって指さした先にはベーコン一枚を掛けた勝負に敗北した男こと小葉桜(こばざくら)翠斗(あきと)がうなだれていた。

 いかにもどんよりした空気をまとう彼にいつ話しかけようか悩んでいたのでちょうどいいといえばちょうどいい。

 でもベーコンでそこまで落ち込まなくても…と考えたりしながら返事をする。


「どうにかできる保証はないですけど、それでもいいですか?」

「うん、いつものことだから放っておいても立ち直ると思うけど、今日は翠斗と仕事あるから早めに直したい。たぶん藍なら出来る、がんば。」

「はい…何とかしてみます。ダメだったら黄鈴さんにバトンタッチしますから。」


 ん、とだけ返事を返し、階段の方へと消えていった黄鈴さんであった。

 その背中を見送り、残り3分の1にも満たないトーストをさっさと飲み込み、コーヒーで流し込む。

 食器を片付けたのち、テーブルでうなだれる翠斗さんの隣の席に座る。


「翠斗さん、いい加減その空気しまってください。ベーコン争奪戦で風空に負けたのは悔しいでしょうが、この後仕事あるんでしょ?早くしないと遅れちゃいますよ。」

「だって、1回目のじゃんけんでは俺が勝ったんだぜ?そのあとになってあいつ3本勝負にしようなんて言ってきやがった。調子乗って了承したらそのあと2連勝されてベーコン取られたんだよ。」

「それで心底後悔していると…」


 そう!と迫真の返事をしてから大きなため息を吐く翠斗さん。

 ベーコンを取られて悔しいのではなく、自分の慢心で敗北したことを引きずっているらしい。

 ベーコン一枚でと思っていたが、予想に反して真面目な落ち込み理由だった。・・・真面目か?


「次からは先に1本勝負であることを確認するように改善しましょう。それで今回の話は終わりです。さっさとその暗い空気を脱ぎ捨ててください。」

「あーあ、手厳しい後輩だこと。まぁでも確かにそうだな、いつまでも落ち込んでちゃ、いよいよ黄鈴にどつかれそうだし。」


 そういって翠斗さんは椅子から立ち、伸びを始めた。

 その顔に暗がりは一切なく、いつもの飄々としたものだった。


「悪かったな藍、みっともない先輩の姿見せちまって。」

「いえいえ、食べ物の掛かった勝負は俺も本気で挑みますから分かります。あとお礼なら黄鈴さんにも言ってあげてください。俺が励ましたのも黄鈴さんからの頼みなので。」

「ふ~ん、あいつがねぇ。そういやお前、いつの間にか“黄鈴さん”って呼ぶようになったな?」

「この前『その呼び方堅苦しいから名前で呼んで』って迫られまして、なんでも距離を感じるんだそうです。」

「そりゃそうだろ、藍は黄鈴以外、下の名前で呼んでたんだから。」


 そう、まさにそのことを洞窟探索に行った日の帰りに詰め寄られて気が付いた。

 言い訳のようになってしまうが、意識して黄鈴さんだけを「副隊長」と肩書で呼んでいたわけじゃない。ただなんとなくこの隊の副隊長であることが似合っていると感じていたから、いつのまにか自分の中で定着してしまっていた。


「珍しく圧を感じたので直しました。いきなり詰められるのはもうこりごりなので気を付けてます。」

「あーうん、なるべく黄鈴は怒らせない方がいいぞ。怒らせたら最後紅華でも正座案件だ。」


 どこか遠い所を見ながらつぶやく様子を見るに、過去に自分も怒られたのだろう。

 おっと、加えて乾いた笑いも出始めた。これはそろそろ話題を変えないと俺の励ましも無意味になってしまう。

 雑談もほどほどに、翠斗さんを職務に送り出すとフヨフヨと真珠が漂ってきた。


「マスター、お話終わりましたかー?」

「あぁ終わったぞ。」

「なんか悪いな藍、俺の尻ぬぐいをさせたみたいで。」

「まったくだ、今後は一発勝負で決めてくれよ。あのネガティブモードが尾を引くと大変だぞ。」


 二人が勝負に本気なのはいいが、それで職務に支障を来すようなら放っては置けない。それを風空も理解したのか、反省してま~すと返答してきたので今回はこれで終わりにしようと思う。

 その後風空とは分かれ真珠を連れて自室に戻る。今日は正真正銘の休暇なので、部屋でゴロゴロしながら積みゲーを消化しようと思う。買うだけ買って一切手を付けていない名作たちが呼んでいる気がしたのだ。最初に手を付けるのは、世界各地の都市を巡り資産を増やすすごろくゲームだ。これなら真珠でもコントローラーを使って一緒にプレイできると言う理由での選択だ。ちなみに舞台は2000年ごろなので循環崩壊で人類都市圏が半減する前となる。そのため名前も知らない国がいくつも出てくるからとても楽しみだ。


「あ!マスターずるい!その土地の所有権狙ってたのにー!」

「はは!悪いな真珠!この世界は早い者勝ちなのだ!」


 白熱した資産争いは空の色が変わるまで続いた。

 最終的にどっちが勝ったか、敗者の強い要望で第二回戦が始まりどのような結末を迎えたかはまた別のお話。


(/・ω・)/ちょっと短め回…いやだいぶ短いわこれ。

(/・ω・)/ぶっちゃけるとほのぼの日常回改め、残りの人員紹介なんです。次回からはもう少し長くなりますし、毎話文字数を均等にしようと思います。


第12話完読ありがとうございます。

感想・☆等々でやる気が激増しますので良ければお願いします。

引き続き読んでもらえるよう頑張ります。

それではまた次回~

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