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11話:電流ほとばしる、夜目起きざるを得ず

 傾いた建物(部屋だけ)に恐る恐る足を踏み入れる。

 その暗さに躊躇したが、副隊長がどんどん進んでいったため、置いて行かれないように駆け足で追いかける。


「そこ気を付けて、斜めになってるせいでほとんどの物品が散乱してる。踏むとこけるよ。」

「おっと、あぶね。真珠も気をつけろよ。そこの棚出っ張ってるから。」

「え、あた!もうちょっと早く言ってくださいよ。」

「お前の前方不注意だろ。」


 俺と真珠はあたふたしているのに対して埃一つ被らない副隊長には憧れる。


 来た道の方からだと一部屋に見えたこの建物は奥にもう一部屋あった。

 その部屋にはヘッドや収納棚などの家具があり、以前入った施設の様に行業しい装置もないため、最初の部屋と合わせて普通の住居だと予想できる。


「さっき入って来る時に本来壁があるだろう部分の断面を見たんですけど、中にいくつか配線されていたので断面の先にも繋がっていたのは確実です。」

「そう、でもその続きが見当たらないから不気味。一回外に出てもう少し奥まで探索しよう。」


 副隊長の指示で建築物内の調査をやめ、外に出る。

 相変わらず光が沈黙を貫く空間がそこにはあったが、少し、ほんの少し違和感を覚えた。

 洞窟を進んでくるときは気が付かなかったが、素通りした岩の根元に小指ほどの黒い粒がいくつも転がっているのを見つけた。

 粒が目についた時、背後で副隊長が声を上げた。


「あ、藍そこから離れた方がいいかも。」

「なんでですか?」

「マスター、今は黄鈴の言うことを聞いた方がいいかと・・・」


 振り返ると二人して天井を見上げていたので、つい俺も見上げてしまった。

 後になって思ったが見上げてなんかいないでさっさと離れればよかった。

 副隊長がライトで照らす先には想像の三倍は大きいコウモリが四十匹ほどぶら下がっており、彼らと目が合った瞬間、彼らは俺に向かって飛び掛かってきた。

 落下運動を利用した移動は俺の初速より早く、間一髪のところで一匹目をよけ二人の居る方へ駆ける。


「こんなに居るなんて聞いてないんだけどー!」

「とりあえずこの中に退避。幸い奥の部屋の扉が動く。」

「マスター!急いでー!」


 先に避難した二人がドアをいつでも閉められるように待機し、そこに全速力の俺が飛び込む。

 俺が入ると同時にドアが閉まり、背後で衝突音が響く。

 上がった息を整えながら、状況を整理する。


「なんですかあれ、あんなに居るなんて想像もしてなかったですよ。」

「任務では何が起きるかわからない。常に不測の事態に警戒した方がいい。藍はこれでまた一つ賢くなった。」

「良かったですねマスター、これで私も賢くなりました。」


 貴重な実体験の場なんだろうけど、この任務から無事に帰らなければその学習も意味を成さない。

 次回に生かすためにもこの場を乗り切らなければ。


「じゃあこの状況を乗り切るための作戦会議をしようか。」

「はい!マスターに伝えたいことがあります。」

「なんだ?」

「接続レベルが上がったことでもう一つできるようになったことがあります。なんと周囲の精心の流れを視認できるようになれます。」

「・・・まじ?」

「短時間ですけどね。今のままでは私の補助でマスターが死にかねないので当分の間は視力支援で補完します。」

「藍と真珠はこれから先、チートコンビって呼ばれそう。」


 呑気に言ってる場合か。というツッコみはさておき、もう少し早くに伝えてほしいものだ。

 選択肢の幅が広がったと考えれば作戦会議の意義があるので文句はまたの機会にしよう。


「副隊長、あいつら全員討伐するんですよね?あれどう見ても荒レ狂ウ飢餓(スタヴェシアス)ですし。」

「うん、そう考えてた所。見た限りでは全員の大きさが同じくらい大きかったし、普通のコウモリより爪と牙が発達してた。飛翔速度も明らかに早かったから藍や私ならともかく一般人じゃまず逃げ切れない。市街地に出る前でよかった。ここで全部仕留めるよ。」


 副隊長は余裕そうな顔をしているが、ここは彼らのホーム。地理適正は確実に向こうの方が上だ。

 幸いにも武器を装備してきているので応戦は可能だがあの数を相手にはしたことない。

 真珠を守り切れるか、副隊長の足を引っ張らないかなど心配事が多々ある。

 具体的な行動案を出してからでないとグダって取り逃がしそうだな。


「で、どうするんです?私は支援専門なので直接戦闘には参加できませんし。マスターは広域殲滅なんてできませんよ?」

「そこは大丈夫。私が一気にやるから。そのために藍にはあいつらの注意を集めて時間を稼いでほしい。できる?」

「・・・それが一番効率よさそうですね。出来なくてもどうにかしますよ、副隊長。」


 このまま放置して帰ることもできるが、一国衛隊員としてそんなことはできない。

 一対多の経験はないがぶっつけ本番でもどうにかなることがハワイで分かった。

 集中しよう、そうすれば勝てる。


「よし、行きますか。副隊長何分稼げばいいですか?」

「3分、3分あれば万全を期せる。」

「分かりました。真珠、ここからでも視覚支援できるか?」

「15mくらいまでならできます。」

「じゃあ合図したら頼む。」


 深呼吸を一度挟み、拳と掌を突き合わせ精神を研ぎ澄ませる藍。

 その隣で真珠が髪を淡く発光させながら藍と同じポーズをとる。

 それを見た黄鈴も得物を手に取りアルカナを流し込む。

 扉の外からはこの洞窟の住人たちが甲高い声を上げ我々に警告をしてくる。


 各々の準備が最終段階に入り、この場にいる全員の集中力と緊張感が最大になった同時に藍がドアを開け放つ。



 扉寸前まで接近していた個体が俺に気が付き、噛みつきを仕掛けてきた。

 生身であれば毒や細菌を警戒したかもしれないが拳足鎧装を着けていれば関係ない。

 握りしめた右の拳を大きく開いた口めがけて押し込み、殴り飛ばす。


「はあぁ“ぁ”ぁ“ぁ”!」

「キェェェ!!」


 コウモリは拳の勢いを引き継ぎ、部屋の外まで吹き飛ばされる。

 鎧の重さも相まって予想以上に飛んでいったため力強く踏み込み外に駆け出す。

 先ほどのコウモリが地面でのた打ち回っているところを見るにある程度のダメージを与えることができたのだろう。

 今度は少しだけアルカナを拳足鎧装に流し込み、再度拳を握り振りかぶる。


「喰らえ!」


 地面のコウモリに当たると同時に流し込んだアルカナを開放する。

 拳足鎧装の機能で爆発へと変換されたエネルギーがコウモリごと地面を打ち砕き、直径60cmほどのクレーターを生む。

 拳の重さに爆発の衝撃が加算されコウモリの胴体は粉々になっていた。


「さっきは驚いて逃げたけど、今度は真っ向勝負と行こうか!」


 頭上より殺気に満ちた眼を向けてくる彼らへ宣戦布告を叫んだ。



 











 入隊したばかりの後輩が飛び出していくのを見送り、彼が開いた道をゆっくりと歩いていく。

 建物の外では藍が啖呵を切っているのが見えた。作戦通りほぼすべての個体が藍に釘付け状態となった。


「そろそろ行こうかな、真珠はここで待ってる?」

「はい、ここからならマスターへの支援もできますし声も届くのでおとなしく隠れ

 小さな後輩から元気な返事をもらいその場を後にする。

 私の仕事は藍が引き付けている間に準備を済ませ、敵を一網打尽にすること。

 地形の把握、敵性生物の配置確認、装備の用意を三歩刻む間に行う。

 左肩に着けているマントをたなびかせながら腰にある得物を握りしめる。


「作戦行動開始。」


 己にしか聞こえない声量で呟き躰性能向上(パフォーマンスアップ)を発動する。

 私の専製装備(オーダーメイド)3号「(せん)(どう)御雷(みらい)(わたし)」は本体のトンファーと子機の継雷針(けいらいしん)で構成されてる。

 そこに私の極化技能が合わさることで色々できるのだけれど、今回は大技で一気に討伐したいため、準備が必要。


「・・・邪魔」


 藍を中心に円形上に走りながら壁や床、天井に継雷針を打ち込んでいく。

 時たま藍のヘイト管理を抜けた個体が向かってくるがトンファーに雷撃を纏わせ対応する。

 一体一体の強さはそこまででもないため、気分を害す程度で準備の支障にはなり得ない。


「思ったより早く終わった。藍は引き付けるのが上手い。」


 集雷針を一周設置し終わり最初の位置である建造物の正面に戻って来た。

 藍は相変わらずコウモリ達の真ん中で回避に徹している。

 少し距離があるし、コウモリ達の声がひしめき合っているので普通に読んだんじゃ声が届かない。

 せっかくだから通信機を使うことにした。


『藍、聞こえる?』

『あ、副隊長、そっち終わりました?そろそろ避けるの飽きて来たんですけど。』

『うん、藍を中心に設置し終えたから、最後技を決めるときの隙も任せる。』

『じゃ一旦そっち戻りますね。』


 会話の終了と同時に藍に襲い掛かった個体が藍になぎ倒される。



 











 目の前の個体を二、三発殴りのけ反らせる。

 軽く殴ったつもりが拳足鎧装のおかげで思ったより攻撃として成り立った。

 殆どのコウモリがホバリングしながら様子を伺い、その中から何体かが体当たりなど近接攻撃をしてくるので囲まれていると言えど抜け出すのは簡単だ。

 なるべく今の集合状態が変わらないように副隊長が作った円エリアのギリギリで止まる。


『真珠、今だ!』

『りょーかいしましたー!視覚支援開始!』


 真珠の返答と同時に視界に青白い(もや)が映り始めた。靄が薄い膜のようにコウモリの体を包んでいて、床や壁に紫にところが点在している。

 紫に光ってる点は副隊長の継雷針だろう。おそらくアルカナの属性変化によって見える色が変わるようだ。


『この効果何分持つ?』

『3分くらいです。』

「副隊長、始めてください!」


 少し後ろでアルカナ解放のため貯めている副隊長に声をかけると、文字通り余裕そうな返事が返ってきた。心なしか普段変化があまり見られない表情も緩くなっているように見えた。何で緩くなっているのかはわからないけど。


 なんて考えていると一体のコウモリの靄、体表のアルカナが膨れ上がった。


「何か来る」


 身構えた次の瞬間、耳をつんざくような咆哮が放たれた。

 洞窟全体が揺れる程の咆哮。コウモリと聞いて想像する甲高い声よりも低く、狼や犬の遠吠えを連想させる。依頼内容の異音の原因はこいつだ。

 見た目こそほかのコウモリと変わらないが、視覚支援を経てよく分かった。

 体内に秘めているアルカナの量が多い、この群れのボスだ。


「ボスが前に出てくる・・・部下じゃ俺に勝てないのを分かったのか。よし!副隊長の準備が終わるまでだ。いざ尋常にってな!」


 ボスコウモリのアルカナが両翼に集中するし、より濃い青になる。

 対抗するように俺も両手両足の拳足鎧装にアルカナを籠める。

 数秒の沈黙が生まれる。先に破ったのはボスコウモリの方だった。

 アルカナを込めた翼による推進力は今まで以上で、警戒していたはずなのに一瞬で遅れてしまった。

 急降下から地面すれすれを通ってすれ違いざまに翼で殴られ、とっさに両手でガードするが止めきれず二歩後ろに下がった。


「くっ、さっきより多い。」

「キュェェェェェ!」

「今はコウモリ声なのかよ!」


 叫びながら旋回してきたボスがもう一度翼で仕掛けて来た。

 勢いを回復したボスコウモリは縦横無尽に飛び回り何度も仕掛けてくる。


「最初の攻撃で少し態勢を崩してから絶妙にタイミングが合わない。全部ギリギリで避けてるけど、相手のテンポに嵌められた。」


 反撃をしようにもボスコウモリが壁に跳ね返るたびに少しずつ速くなっている。

 どうやってこのジリ貧の状況を抜け出そうか考えているとテレパシーで真珠が話しかけて来た。


『マスター!アルカナの流れる先を見るんですよ!いいですか原理は置いといてあなたには流れる先、つまり若干の未来予知ができる素質があるんです!』


 何言ってるんだこいつは?という感想はさておき今は相棒の言うことを信じるしかない。

 集中することを意識した結果自然と目が閉じた。感覚を研ぎ澄ませ、アルカナが流れる先を感知することだけに神経を使う。

 目を開くと先ほどまでと一つ違いが生まれていた。

 どんどんスピードを上げていてどこから来るか間近までわからなかったのが薄い残像の様な影が見えるおかげで軌道を予測できる。

 来る方向とタイミングが分かれば俺でも戦える。

 見えるようになったところでちょうど正面からボスコウモリが突っ込んできた。


「もう一発も当たらないぞ」


 正面からの翼攻撃は最初より速度が上がっている。しかしアルカナの流れとその先が見えていることでカウンターのタイミングが簡単に分かる。





 正面から突っ込んでくるところを上に跳び、背中にめがけて踵を落とす。ついでに鎧装の爆発機能を使い威力を倍増する。

 ボスコウモリはまだ当たると思っているようで一切スピードを緩めず突っ込んでくる。

 ここぞとばかりにアルカナを鎧装に籠め右足を半歩引き、正拳突きの構えを取る。

 そしてボスコウモリの翼がわずか30cm先に来た瞬間、全力で右腕を突き出し、右膝を蹴り上げる。

 前腕と右膝で翼を挟み受け止められたボスコウモリは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたのでカウンターは成功したようだ。

 そのまま空いた左手で顔面を掴み少し上に持ち上げたら、全力の右アッパーをお見舞いする。当然爆発機能のおまけ付きだ。

 ボスコウモリは吹き飛び天井の尖った岩が貫通して絶命した。


「藍、準備終わった。そこ出て。」


 群れのボスと討伐すると同時に副隊長の準備も終わったらしい。

 すぐに飛びのき紫の”線“が作る円から出る。

 ボスを殺された恨みかコウモリ達が俺に突撃してきたがもう遅い。

 次の瞬間には紫の円はコウモリを閉じ込める“檻”となり、全方位から火花散らす紫電が降り注ぐ。

 出ることのかなわない電撃の檻の中で一匹残らず息絶えたのだった。


「ふー。終わりましたね副隊長、お疲れ様です。」

「うん、おつかれ。真珠もこっちおいで。」

「はーい、お二人ともお疲れ様です。」

「藍も真珠も怪我がなくてよかった。後片付けは今度にしていったん帰ろうか。異音の正体も分かったことだし。」


 無事に戦闘を終えたので洞窟を出る。

 時刻は午後2時過ぎ、入ったのは午前10時過ぎだったので気が付けば4時間も潜っていたことになる。

 その間想像以上に疲労がたまったのだろう。車に戻るとすぐに眠気が襲ってきた。

 膝の上の真珠はすでに俺に体重を預け寝ている。


「眠いなら寝てもいいよ。まさかあんなに居るなんて想像もしてなかっただろうし、それに思ったより厄介なタイプだった。ここで疲れて寝るのは正当な権利。」

「それじゃあお言葉にあま…え…て…」


 二人の後輩の寝顔を横に屋敷への帰路についた黄鈴が何を思ったのかはわからないが、それでもその顔は充実した表情をしていた。

 予想外なことがいくつかあったが無事に依頼を達成できた三人の未来には素晴らしい休暇が待っているのであった。





 ・・・・・・そのはずだった。


(/・ω・)/黄鈴さんは結構おっとり喋るというか、端的に喋るのも相まって人によっては不愛想に見える。前回の後書きでも書いたかもだけど。

(/・ω・)/ハワイでの戦闘とはまた違た種類の敵を相手した藍くん。今回はだいぶ苦戦したようで、相手ペースに飲まれてしまいました。そこから引き揚げてくれた相棒こと真珠ちゃんには感謝ですね~。

(/・ω・)/結構分かりにくい文章になってしまったので質問は大歓迎です。

(/・ω・)/私自身の成長にもつながりますゆえ待ってます。


第11話完読ありがとうございます。

感想・☆等々でやる気が激増しますので良ければお願いします。

引き続き読んでもらえるよう頑張ります。

それではまた次回~

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