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9話:新生活が始まる…始まるよね?

(/・ω・)/いっぱい人が出てきます。

 飛行機の中で眠気と共に過去を振り返っていればあっという間に日本についていた。

 諸々の手続きを終えロータリーまで降りる。そこには一台の真っ黒なスポーツカーと紅華さんの姿があった。

 その姿を見た瞬間、この後どうなるかが分かった。


「やぁやぁ藍くん。ずいぶんお疲れのようだね~?なんでかな、私は君に休暇を与えたはずだ。なのに随分と“古めかしいお土産”を携えて中型を殺ったそうじゃないか。」

「そ、それはその、ね?色々あったんですよ。別に意図的に探し回った訳じゃないんですって。それに怪我無く帰ってきたわけだし。」

「はぁーーーーー。詳しい話は車で聞こうか。ほら乗れ。」


 表情筋は微笑みを作っているのに目とその奥にある心は一切笑っていない紅華さん。

 こんな彼女を見たのは二度目である。

 あれは紅華さんとの稽古に1時間遅刻したときだったな。

 その時は静かに、俺の心を追い詰めるように1時間みっちり説教され、稽古どころではなくなってしまった。

(まぁある意味“心の稽古”にはなったのか。)

 今回も同じようになると分かっていても溜息から発せられる圧には勝てず助手席に乗り込む。

 発進してからしばらくすると紅華さんが口を開く。

 先ほどの笑みは消え、真剣な横顔が見える。


「なぁ藍。」

「は、はい」

「私が藍のことを弟のように思っていると前に言ったな。」

「旅行前に言ってましたね。」

「あぁ、だから藍を危険にさらすようなことはしたくないんだ、本当はな。だがお前が特象隊に入るからにはそうもいかない。もしもの時私が近くにいれば守るなり助けるなりできる。でもハワイみたいな状況じゃそうはいかない。藍、いくら自信があっても一人で戦うなよ。」

「・・・はい、すみません。少し調子に乗っていました。今後は気を付けます。」

「分かってくれればいい。まだ中級なんぞを相手させる予定はなかったんだからな。」


 しばらく沈黙が続く。

 確かにハワイでは自分の実力を過大評価していたかもしれない。

 結果的に無傷で勝てたとはいえ危ない場面は何度かあった。そのどれかで一度でもミスをしていれば今頃ここにはいなかっただろう。紅華さんの心配ももっともである。

 そう考えると少し寒気がした。


(あーそうか。この感覚を忘れないようにしよう。)


 心の中で反省を述べていると気まずかった沈黙を一つの声が打ち破った。


「すいませーん。そろそろ出てもいいですよね。マスターだけが説教を受けるのは違うと思いまーす。」

「お、そういえば忘れていたな。藍、この重い空気も終わりにしよう。お前が反省していることくらい分かるから、そうしょげた顔をするな。」


 いつもの明るい表情に戻った紅華さんに慰められる。

 別にいい年してしょげた顔なんかしてませんよーだ。

 というこれまた幼稚な反抗心は置いておいて、後部座席のリュックを取る。

 中に手を突っ込むと声の主はすぐに見つかった。


「ぷはー!さすがに息が詰まりますね。へーここがマスターの故郷ですか。」


 ダッシュボードの上からきょろきょろと周りを見渡す真珠。

 今は空港から都心へ向かっている最中なので比較的背の高い建物が多い。

 だからなのか目がいつもより輝いている気がする。


「は!すいません、物珍しさに見とれていました。私は相互成長型観測補助人工製命、銘は“真珠”です。マスター共々よろしくお願いします、紅華隊長。」

「おぉ、ずいぶんしっかりした子じゃないか。こちらこそよろしく頼む。特に藍のことをな」

「はい!それはもちろん!」

「おい、お前に心配されるほどバカでも無謀でもないぞ。」


 ない・・・はずだ、大丈夫だよな。

 ダッシュボードの上から真珠を回収し、膝の上に乗せる。

 紅華さんも「にかっ」と笑って言っているが、そんなに心配なのか。

 傲慢さに気づかされたあとは自信がなくなる一方だ。


 真珠と紅華さんの面会はこのままのテンションで進行した。

 ときどき俺が標的になることがあったが上手いこと流して真珠に回しておいたから最初のあれ以外ほぼノーダメで雑談を終えることができた。


「さて、雑談もほどほどにしよう。ほら二人とも着いたぞ。」

「なんだか随分久しぶりに来た気がします。」

「へぇー、ここが・・・」


 何度も来ているのについ見上げてしまった。

 それが仕方のないことであると思えるほどここは荘厳なのだ。

 比較的閑静な住宅街に位置しているが、周りとは別物の雰囲気を纏った門があり、それをくぐればだだっ広い庭と武道場、迷路のような廊下が続く巨大な屋敷が鎮座している。


「これが武家屋敷ってやつですか・・・」

「真珠、口が開きっぱなしになってるぞ。」

「ふっ、藍が初めて来たときのようだな。」

「ここまでじゃありませんよ。というかどこで覚えたんだ武家屋敷なんて。」

「航空機で移動中に映画とアニメーションを何個か見まして、その中に時代劇?というジャンルがあったんですよ。そんなことより早く行きましょうよ」

「おい、分かったからこめかみを引っ張るな。」


 目を輝かせながら俺を急かす真珠を見て、またもや紅華さんが笑いを零す。

 目配せと軽いハンドサインで入る許可をもらったので玄関から上がらせてもらう。

 初めて来たときはとんでもない所に来てしまったとビビっていたが、今では第二の実家の様な安心感を覚える。

 それと同時に苦い思い出もあるのだが、そんなものは真珠の好奇心に満ちた顔を見ていれば忘れることができた。


「二人とも先に“下”に降りておいてくれ。今いるメンバーを呼んでくる。」

「分かりました、行くぞ真珠。」

「えーもう少し日本建築とやらを見たいんですけど。」

「後でたっぷり見れるから。それに“下”に行くとそれはそれで面白いと思うぞ。」

「下?地下室でもあるんですか?」

「それは見てからのお楽しみってことで。」


 あえて説明を濁して会話を終える。

 真珠を肩に乗せたまま入り組んだ廊下を進んでいき、突き当りの襖を開ける。

 その先には4畳ほどの茶室があり、部屋の中央辺りの床に茶釜が設置してある。

 一段沈んでいる茶釜のそばに手を触れると、入って左の壁がシャッターのように上に開く。

 壁の中に下へと続く螺旋階段が現れた。


「おー!ロマンのある入り口ですね!」

「だろ?初めて見たときは滅茶苦茶に感動したよ。」

「早速行きましょう!」


 真珠の新鮮な反応を見てかつての自分を思い出したため、俺自身もテンションが少し上がった。

 童心をくすぐる仕掛けを通しすぎ螺旋階段を下っていく。

 二周ほど回転したところで下からぼんやりと光が見えた


「地上の建築とは随分雰囲気が違いますね。スパイ映画の秘密基地見たいです。」

「そうだな、上は日本屋敷、下はモダン建築という部類らしい。上下でここまでギャップがある建築をよくやろうと思ったよな。」


 床はコンクリの打ちっぱなし、壁はシックなグレーを基調とし所々にウッドタイルがあしらわれている。温かみのある色の照明や家具のおかげもあってか地下室特有のジメジメした雰囲気はなく長時間居ることに抵抗を感じさせない空間になっている。


「ここが俺の席だ。この春から正式に所属することにはなるが前から使わせてもらってた。ってあれ、一席増えてるな。」

「ということは・・・!」

「もしかして・・・!」

 二人で目を見合わせていると、俺たちが降りてきた方とは反対側の階段から複数の足音が響いてきた。


「どうかな真珠、これから君たちにはここを拠点に職務に励んでもらう。藍と共に頑張っていけそうか?」

「はい、クビにされないよう精一杯頑張ります。」

「はっはっは!大丈夫、君がクビになる時は藍がクビになる時だけだ。」

「何が大丈夫なのか俺には分かんないんですけど。」


 車中とはまた別の寒気を感じた。

 とんでも職場ではあるけれど入社したばかりに退職のことを考えるなんてしたくないんだが。

 なんて考えていると紅華さんの後ろからメリハリのある声と少し高揚した声、それとは逆に落ち着きのある声が響いてきた。


「紅華、あまり新人に気を遣わせるな、あと揶揄いすぎると嫌われるぞ。」

「隊長!この子が新人さん?きゃー!かわいいー!」

「姉さん・・・初対面でその勢いはまずいよ、ほらその子も面喰っちゃってる。」


 三者三様の言葉を述べ、真珠との対面を終える。

 どうにも一人の印象が強すぎたようだが、それにも慣れるだろう。


「気を使われている様には見えないし、藍に嫌われることは絶対にないぞ黄鈴。」

「いったいその自信はどこから湧いてくるんだか。ほら紫雪、日々輝、私たちの自己紹介するぞ。」


 自信満々に宣言する紅華さんに対して額に手を当てる副隊長。

 そんなしっかり者の副隊長の指示で三人が改まって話始める。


「まずは私からだな。私は眠目(さっか)黄鈴(こすず)、この隊の副隊長をやっている者だ。隊ではまとめ役をしている。これからよろしく頼むよ真珠。」

「はいはーい、次はあたしー!あたしは紫雪(しゆき)梔子(くちなし)紫雪(しゆき)、双子の弟と一緒に特象隊で頑張ってまーす。よろしくね、真珠ちゃん!」

「僕の番か。さっきは姉さんがごめんね。どうもテンションが上がると周りが見えなくなるみたいで。では改めて、僕は梔子日々(ひびき)、紫雪姉さんの双子の弟だよ。一応隊では火力担当・・・かな?」


 随分緩く三人の自己紹介が終わった。

 真珠のそれぞれへの反応を見る限り良好な関係を築けそうだ。

 元々人見知りな正確ではないのだが、以前石榴(せきりゅう)さんに見せた事務的な、無機質な表情が記憶に残ってしまいどうしても気になる。

 今度それとなく聞いてみるか。


「本当はあと二人いるんだがちょうど出払っていてな。黄鈴、翠斗(あきと)風空(ふく)はいつ頃戻って来る?」

「ネコ探しの依頼だったからな、正直分からん。あの二人の野生の勘がうまく働けば夕飯までには戻って来ると思うが。」

「ならひとまず、私たちだけで昼食にするか。今週の当番は・・・紫雪と日々輝だったな。」

「はーい、ちゃちゃっと昼食作ってきまーす。行こう日々輝。」

「了解、姉さん。」


 薄い菫色のツインテールと蜜柑色のショートヘアがキッチンへと消えてゆく。

 キッチンの方から二人の話し合う声が聞こえ始めた頃、真珠が疑問を口にした。


「紅華、質問です。なぜ“ネコ探し”を特象隊がしているんですか?」

「まぁ気になるよな。俺も最初は驚いたよ。」

「それはだな・・・少し長くなるから一旦席に着くか。」


 紅華さんに促され三人でリビングにある大テーブルにつく。


「ネコの話をする前に、なぜ特象隊に私たちの様な人材が集められていると思う?」

「特殊事象突破部隊、国衛隊の一般的に知られるような部隊では対処が難しい出来事を解決するため。ではないのですか。」

「そう、正規の国衛隊員では解決できないようなことを担当するために量より質を重視した編成になっている。この際の質とは“個人の有する戦闘力”の高さだ。この質を求めたことが功を奏したことで解決できたことも過去にはある。しかし我々ほどの戦力が必要な事象がそうポンポンと湧いて出るわけもなく、大抵は時間を持て余しているのさ。だからこの屋敷を拠点に何でも屋みたいなことをしている。その一例が先ほどのネコ探しだ。」

「なるほど、でもそれなら一時的に隊を解体して一般隊員に戻って訓練に参加するなどすればよいのでは?」

「“群”を構成して戦力とする場合、個人の突出した力はかえって邪魔になる。全員が足並みを揃えてこその団体行動だからな。上級荒レ狂ウ飢餓(スタヴェシアス)の討伐を想定した訓練だったら時々敵役で手伝うが、それも頻繁にではない。」

「必要ないとも言えず、かといって四六時中仕事があるかと言われるとそうでもない。何でも屋になるのも頷けますね。」

「てことは、風空(ふく)のやつは初仕事がネコ探しか。俺とは大違いだな。」


 俺は旅行で訪れたハワイで真珠と出会い、調子に乗って中級に挑むという暴挙に出た。

 まだ下級の討伐も一人でしたことなかったのにだ。

(そりゃ怒られるわな。)

 初仕事はもっと穏やかに達成したがったが、意図せず中級討伐という形になってしまった。

 風空へのうらやましさが口から洩れるとテーブルの反対側から厳しい言葉が飛んでくる。


「藍の体質は異変を感じ取るだけだから、不用意に近づかなければ大事にはならないというのに。」

「黄鈴、真珠の件は結果オーライじゃないか。それにもう移動の合間に反省の色を確認している。成長するいいに機会だったじゃないか。」

「まぁ今後の行動に期待するとしよう。」


 副隊長にも絞られるかと思っていたが、難を逃れたようだ。

 そんな会話で時間をつぶしていればいつしか食欲をそそる香りが漂ってくる。

 どうやら梔子姉弟が昼食を作り終えたようだ。


「みんな―!できたよー!」

「今日はちょっとおしゃれなピザをつくってみました。」


 エプロン姿の二人が大皿にのったピザを運んでくる。

 ピザで両手が塞がっているため、その他の食器類は俺たちが運ぶ。

 今いる面子で楽しく昼食をしていればあっという間に針が進んでいく。


 何はともあれ無事に日本に帰ってくることができた。

 それに真珠もここでならやっていけそうだ。

 数日間印象に残ることがたくさんあったおかげで忘れていたが、書類上今日から特象隊所属になる。ということは今日からこの屋敷で共同生活することになるのだが今は一旦頭の片隅に置いておこう。

 これから新しい生活が始まるのか、楽しみだな。


(/・ω・)/今回新登場の人物はこちら!

(/・ω・)/頼れる副隊長!:眠目黄鈴<サッカ コスズ>さん

    特象隊の頭脳担当・・・というより”まとめ役”という側面が強い人。

    この隊の人たちは頭が悪いわけじゃないんだけど、どうにも協調性がないというかなんというか

(/・ω・)/みんなの心の安定剤!:梔子紫雪<クチナシ シユキ>ちゃん

    二卵性の双子のお姉ちゃん。

薄い紫のツインテがトレードマークで、その明るく寄り添える性格で多くの人の心を癒した実績がある。

(/・ω・)/姉のことを支えるのが得意!:梔子日々輝<クチナシ ヒビキ>くん

    自分以外に意識が行きがちな姉をそれとなく支える弟君。

その髪色と髪型からヤンチャしてそうと思われがちだが、姉と同じく心優しい、落ち着いた性格。

(/・ω・)/藍くんは正式所属前から面識があるので三人とも慕っていて、憧れてたりもする。


(/・ω・)/やっと日本に戻ってこれて作者も一安心。これでやっと特象隊の絡みがかけるからちょっとうれしい。

(/・ω・)/作中では少し分かりにくいので補足すると、この地下室は隊員全員分のデスク(職員室みたいなやつ)と会議室、男女それぞれの更衣室にキッチンとダイニングテーブル、ソファーにテレビと色々詰め込まれています。

(/・ω・)/地上の屋敷には一人一部屋が用意されていて、敷布団かベッドか選べるくらいには部屋数がある。

(/・ω・)/一つ屋根の下、特象隊の面々での共同生活が始まるので次回もお楽しみに。


第9話完読ありがとうございます。

感想・☆等々でやる気が激増しますので良ければお願いします。

引き続き読んでもらえるよう頑張ります。

それではまた次回~

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