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第三話① 誰が何のために(前編)


 モデレート達に追い付かれ、一騎打ちを提案され。


 プリメラとトーダは、彼等と共に村長宅に戻った。足がすくんで立つこともできなかったプリメラを、トーダが背負って歩いた。


 村には、五十名ほどの兵が残っていた。残りの兵はどこに行ったのだろうか。また近くの村の侵略に向かったのか。もしくは、フロンティアへの攻撃に戻ったのか。


 モデレートは約束通り、正々堂々とした一騎打ちを宣言した。他の兵士達に、十メートル以上離れるよう指示した。さらに、魔術を使える者達には、決して妨害しないよう命じた。加えて、プリメラを背負ってきたトーダに対し、疲労具合まで確かめていた。


「問題ねぇよ。それより、約束は守れよ」


 モデレートの気遣いに対し、トーダは、憎々しげな声で応えた。


「ああ。言っただろ。騎士の誇りに懸けて約束は守る。それと――」


 モデレートは、トーダの剣を指差した。


「――お前の剣、斬った奴等の血で切れ味が落ちてそうだな。交換してやる」


 モデレートはそう言うと、周囲を囲む兵士達に近寄った。兵士の一人から剣を受け取る。大きさも形も、トーダが持っている剣と類似していた。トーダのもとに戻り、その剣を手渡す。


 トーダは素直に剣を受け取った。握り具合、重量などを確かめている。さらに、刃こぼれの具合や剣の頑丈さまでも。モデレートのことを完全には信じていないからだろう。


「どうだ? 別の剣の方がいいか?」

「……いや」


 トーダは、自分の剣を投げ捨てた。モデレートに渡された剣を素直に使うようだ。


 向かい合うトーダとモデレート。彼等から距離をおいて取り囲む兵士達。


 兵士の輪の中に、プリメラはいた。二人の決闘が最前線で見られる場所。周囲を取り囲む、サウスウェストの兵士達。


 トーダは一瞬だけ、プリメラの方を見た。少しだけ微笑んで、頷いて見せた。「必ず守るから、安心しろ」と、無言で伝えてきたのが分かった。


「では、始めるか」

「ああ」


 その言葉を合図にしたように、トーダは一旦、モデレートから距離を置いた。両手で剣を持ち、構える。


 トーダは強い。村に常駐していた兵士達も、彼の力を認めていた。プリメラを助ける際、不意打ちとはいえ、サウスウェストの兵を十人も斬った。


 二人の戦いが始まるまで、プリメラは、体を震わせながらも希望を抱いていた。助かるかも知れない。トーダが助けてくれるかも知れない。


 ――お願い、トーダ。助けて。


 だが。

 戦いが始まると、プリメラの希望はすぐに打ち砕かれた。


 トーダは確かに強い。

 けれど、モデレートはさらに強かった。あの大きな戦斧を、軽々と扱っていた。トーダよりも遙かに速い動き。余裕のある表情。表情に(たが)わない、余裕のある戦い。


 モデレートには自信があったのだ。トーダを相手にしても確実に勝てる自信が。でなければ、こんな決闘など提案してくるはずがない。


 モデレートが振る戦斧は、トーダの体を少しずつ傷付けている。薄皮一枚を斬り、出血させる。浅い傷を、無数に負わせていた。


 トーダは致命打を食らわない。だがそれは、紙一重で回避しているからではない。


 モデレートが手加減しているのだ。彼の、余裕が混じった下品な表情。自分より弱い者を嬲る、残酷な強者。ひと思いに殺さず、トーダをじっくり痛めつけている。


 恐怖に包まれながら、プリメラは、モデレートが決闘を提案した理由を理解した。どんなに浅い傷でも出血はする。いつか出血量は限界に達し、トーダは立つこともできなくなるだろう。


 正々堂々とした決闘でトーダを打ち破り、彼の自尊心も誇りも打ち砕く。そのうえで、彼の目の前で、彼が守ろうとしたプリメラを弄ぶつもりなのだ。まるで、十人の兵を斬られた報復のように。


 自分の未来が見えて、プリメラの震えは大きくなった。もう間もなく訪れるであろう、地獄の時間。トーダが戦えなくなったら、あの男に嬲られる。何度も何度も犯される。村長の家から連れ出された女達のように、正気を失うような目に合う。もしかしたら、途中で殺されるかも知れない。


 絶望の足音が、プリメラの耳に届いた。ゆっくりと近付いてくる足音。怖くて怖くてたまらない。


 プリメラの恐怖を煽るように、周囲の兵士達が顔を近付けてきた。


「お嬢ちゃん、まずいなぁ。ナイト君がやられそうだ」


 嘲るような、いたぶるような兵士達の声。


「モデレートさんはなぁ、あんなデカい図体して、若い――まだ幼い女が好きなんだよ」

「そうそう。しかも、あんな図体だから、()()もデカくてな」

「まだ男を知らない若い女に、一気に突き刺すんだ」

「んで、男を知らない女がモデレートさんの()()を突き刺されたら、どうなると思う?」


 プリメラは何も答えられなかった。唇までもが震えていて、歯がカチカチと音を鳴らしていた。言葉など喋れない。胸中で、ただ「助けて」と繰り返すことしかできない。


 兵士達も、答えなど期待していなかったのだろう。そのまま話を続けた。


「一昨日モデレートさんにやられた女は、泡吹いて失神してたな」

「昨日やられてた女は大声で泣いてたな。『痛い、痛い』ってな。メチャクチャ血が出てて。それでもあの人、手加減なんてしないでな。結局その女、『許して』って言いながら最中に死んじまってたな」


 そんな結末が、自分の未来。あと少しで降りかかるであろう、自分の未来。


 プリメラの目の前では、トーダが傷付けられている。全身に浅い傷を負い、出血し、明らかに体力を奪われてゆく。


 無意識のうちに、プリメラの呼吸が浅くなってきた。呼吸が浅いから、息を吸う回数が多くなる。ハァハァと必死に空気を吸い込む。血の気が引き、体が冷たくなってゆくのを感じた。全身から力が抜けてゆく。


 ふいに、プリメラの股間のあたりが生温かくなった。(ぬる)い液体が股に広がった。


「あーあ。小便漏らしちまって。そんなに怖いのか。可哀相になぁ」


 兵士達の下劣な声。


「まあ、気にすんなよ。モデレートさんは、小便漏らした女でも平気だから。ブスッと突っ込んでくれるぜ。ブスッとな」

「ブスッと?」


 誰かが、効果音を疑問形で復唱した。声の種類が、周囲の兵士達とは明らかに違っていた。兵士達が煽るような口調だったのに対し、その声は、どこか淡々としていた。


「ああ。ブスッとだ。あのデカいモノを、一気にな」

「こんな感じか?」


 再度、淡々とした声が発せられた直後。


 プリメラに語りかけていた兵士の一人が、ビクンッと体を震わせた。


 明らかに奇妙な挙動を見せた兵士。プリメラは、体を震わせた兵士の方に、ゆっくりと顔を向けた。


 兵士の尻には、大きめのナイフが刺さっていた。柄の部分まで、深くざっくりと。


「は……え? え? え?」


 尻にナイフを刺された兵士が、間の抜けた声を漏らした。彼の尻に血が滲んでゆく。


 兵士のすぐ隣りに、一組の男女が立っていた。サウスウェストの兵とは、武装も雰囲気も明らかに違っていた。


 男の方は黒髪黒目。トーダやプリメラと同じ歳くらいの少年。背中に剣を背負っている。身長は、トーダよりも低い。


 女の方は金髪に長耳。エルフだ。澄ました顔をしている。おそらく、プリメラ達よりも少し年上だろう。十七、八くらいだろうか。前ボタンのローブを着ている。


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