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夢の手

作者: あまね

「指 綺麗」


 そう思ったのは、37歳。


 人目もはばからずに泣けた小学生の低学年の頃から数えれば、30年ぶりぐらいにはなるのだろう。


 そこまでさかのぼるぐらい、異性の指など縁遠く、浮いた噂など立たぬぐらい、注目など集めたこともない、悲しい人生である。


 小学生の低学年の頃に教室にあったピアノを、放課後に弾いていた、同級生の女の子の指が、すごく早く、そして軽やかに跳ね、鍵盤を叩き、普段快活な、鬼ごっこやドッジボールが得意な少女だったもので、本当に同じ人かと疑いながら指を見ていたときに抱いたものだ。


 うすらぼんやりとした記憶であったが、綺麗な指というものを意識し、思いをはせたのは、今日の朝方に、目が覚める前にみた夢のせいかもしれないし、ソレを思い出せという事なのかもしれない。


 目が覚めて半日は経過するというのに、あんなにも鮮明に、記憶にあり続けるものだから、慣れない思考の末にに、夢に意味を見いだそうとしている哲学者のようなものかもしれない。


 夢でみたのは、勉強机に自然に置かれていた女性の左手だ。

 白い肌に細長い指先で、爪もきれいではあるが、マニキュアなど塗られてはおらず、左手だけなのにそう判断した。


 美しいというだけで、女性の左手だと判断したのだが、夢を思い返してみれば、子供の左手ではなかった。

 美しい左手を触り、手に取ったのだから重さも大きさも小学生の頃にみた少女のものではあり得ないことに今更ながら気づく。


 淡い恋心を思い返す為に見た夢ではないということだ。


 それもそうだ。

 どうせ思い出すなら、顔や声のほうが、ソレらしい理由ではないか。


 未だに縁遠い指や女性の左手を見て綺麗だということと、初恋が、どうやったら繋がるのだと、自問自答しながらあきれてしまう。


 取り敢えず夢の左手のことをもう少し思い出しみる。


 スケッチブック代わりの大学ノートを取り出して、鉛筆を走らせる。


 美術面に才能などのない自分が、左手の美しさを描けるわけもないのだが、何せ夢の中の左手を写真におさめることなど出来ないし、画像検索をしたところで出てくるはずもモデルも出るはずもない。


 夢の中で触った感触や感想を覚えているうちに描き残したほうが、幾分もましだというものだ。


 触った感触は、ひんやり冷たくかんじスベスベしていた。

 高齢による皺などはない、指は長く細く、手の平の大きさ等から子供ではない。

 タコなど特徴的な傷もない、何もしてこなかった人のようだ。


 そして何よりも、思い返すならやはりその左手だけで完成しているかのように綺麗に存在していた。

 何かの暗喩のように、思いを馳せたくなる

 綺麗な左手だ。


 ノートに描いた左手は綺麗とは程遠く、美化も出来ないものになるのは明白ではあったが、描いたほうがマシだと思って描いたはずなのに、それを破り捨てゴミ箱に捨てた。


 描かないほうがマシだった。

 気づかないほうがマシだった。


 唯 綺麗な女性の左手の夢を見た。

 それだけにしておけばマシと言うものだ。


 綺麗な左手だけの女性

 冷たく感じたのは夢のどこかで死体だと思ったからではと。


 死体を美しいと感じるなんて。


 淡い恋心みたいだなんて。


 本当に イヤになる。


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