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6Ⅰ9~4回目の黒電話~(仮)  作者: 笹丸一騎
【オカルト研究第七支部編】2章【致壊事変】(ちかいじへん)
35/42

35,事理

「さて、空き巣の君たちは、此処へ何しに?」


3人の予期した事が当たってしまった。

家主であるヴィヴィアンの言葉は、怒っている訳でも悲しんでいる訳でもなく。淡々と言葉を口にしつつも、軽蔑けいべつの眼差しが3人★に向けられた。


「申し訳ない。黒坂 和樹から貴女宛てに手紙を預かっていて―――」


美幸は鞄から一枚のハガキを取り出してヴィヴィアンに差し出す。


「ふむ」


彼女は黙ってそれを受け取り、ハガキの内容を読み始める。


「あのハガキは?」


桜は響鼓きょうこの耳元でささやいた。


「もしもの時の為、和樹さんが用意したモノよ。中身は―――私も知らない」


「な、成程」


ハガキの内容を読み終えたのか、彼女の視線はハガキから私たちへと移る。


「あの子が死にかけている。だから、賢者の石が欲しいと?」


「ええ。彼とは昔、交流関係があったと聞いています。だとしても、留守の間にご自宅へ侵入した事はお詫び致します」


美幸は深々と頭を下げ、ヴィヴィアンに謝罪した。それに続き響鼓、桜の順に美幸と同様に頭を下げた。


ヴィヴィアンは深い溜息をつき、目頭を抑える。


「本当に、死にかけているのかしら?」


「どういう事でしょうか?」


ヴィヴィアンの発言でようやく頭を上げた美幸は、彼女に質問の意図を尋ねた。


「一般的に“賢者の石”と総称されてはいるものの、本当にそれは“石”なのかしら?」


「「「っ!」」」


「本当は液状かもしれない、本当は粘着物かもしれない。誰が勝手に石と言ったのだか―――」


「まるで、本物を知っているような言い方ですね?」


「桜ちゃん」


響鼓は桜が身を乗り出しそうになったのを察し、彼女の肩を掴んで抑えようとする。


「もし、知っているのであれば、父を助けて頂けないでしょうか?」


しかし、それでは抑えられないと、響鼓は自身の体を壁にして彼女の歩みを止める。


「お願いします!」


懇願する桜に対し、ヴィヴィアンの視線は彼女の持つ本に向いていた。


「賢者の石について、とある昔話が御座いまして―――」


唐突に、口調が敬語に変わる彼女に、3名は戸惑いつつも、状況が状況だけに彼女の話を聞く他、選択肢はなかった。


「遠い遠い昔。フランス近辺に「ガリア」という名の国があった時代。国と言ってもその実、様々な部族が跋扈ばっこする無法地帯のようなモノでした。


私はその部族の一つ、ネルウィ族という部族の長の娘でした。当時ガリアは、カエサル率いるローマ軍に敗退。それまで最強の部族であったにも関わらず、敗退した原因の一端は“とある人物”を追放した為――」


ヴィヴィアンは右の本棚に近寄り、一冊の本を取り出し、ページを捲り始めた。


「その人物は古くからネルウィ族を支えた人物で、我等に酒の無意味さと、優秀な人物を敬う道徳心の大切さを解いておりました。


その人物は知識だけではなく、我等が戦になると“木の棒”を戦士に軽く叩くという不思議な儀式を行い、我等に勝利をもたらしていた。


しかし、愚かな私の父は、何を血迷ったのか。その人物から木の棒を奪い、追放した。その時期が丁度、ローマ軍と対峙した時。結果は先程言った通り、父はその戦で死に、我が部族もローマに吸収された。


私はというと、その人物を師と仰いでいた為、部族の誰にも告げず、師と共にガリアを後にした。そして、ガリアを離れた私たちが向かった先はブリテン島。そう今のイギリスです」


目的のページに辿り着いたのか、ヴィヴィアンは、ページを捲るのを止める。


「この一件について、桜様に問います」


「わ、私ですか?」


自身を指差す桜に、ヴィヴィアンは無言で頷く。


「何故、父たちは負けたのでしょうか?」


彼女が言った事を必死に思い返した桜は、「木の棒を叩く儀式が効かなかったから?」っと、答えた。


「正解です。では何故、効かなかったのでしょうか?」


「ヴィヴィアンさんの師匠でしか、効力を発揮しないから―――ですか?」


「その通り。つまり、誰“に”使うのではなく、誰“が”使うのかが問題なのです」


困惑する一同に、ヴィヴィアンは手に持っていた本を3名に見せた。そこには長い白髭を蓄え、青い衣を身に纏った老人の姿が描かれており、その上部には『Ambrosius(アンブロシウス) Merlinus(メルリヌス)』と記されていた。


「その本の冒頭を読まれましたか?」


桜の持った本を指差すと、桜は首を縦に振った。


「では、この人物に心当たりがある筈」


その発言に頭を抱え、「嘘でしょ?」っと、嘆いたのは響鼓だった。


「近代的な知識を持ち、木の棒を操る人物。日記の冒頭は、アーサー物語。そして、その本の青い衣を着た老人。アーサー王に次ぐ有名人。それは―――



―――魔法使いマーリン」



「正解だ、鬼塚 響鼓」


「いや、いやいや。ちょっと待って、貴女の師匠がマーリンは凄いけど、賢者の石と何が関係しているの?」


「正解した割に、察しが悪いな」


不服そうな顔で本棚に本を戻し終えたヴィヴィアンは、自身の胸元を開けだした。


「え、ちょっ、一体何を―――」


赤面しながら慌てて声を発する響鼓だったが、それもすぐに収まった。


「どういう事?」


美幸が彼女の胸元を見て愕然がくぜんとし、桜は声を失ったままその場に座り込む。


3名がこのような反応した理由。それは、ヴィヴィアンの胸元に、“薫と同じ”異物が埋め込まれていたからだった。


「“私たち”はもう、“人”ではないという事だ」


「待って下さい!私たちって、それは父さんもですか?」


涙を堪える桜を見て、彼女の視線から目を背けるヴィヴィアン。


「賢者の石というのは、現代でいう無尽蔵の電池。一昔前までは円柱の鉄だったが、今では液状のモノもあれば、粘着物のモノもある。その形に決まりはない」


「つまり、薫君は既に賢者の石によって生かされていた?でも、ずっと、昏睡状態のままはどうして?」


「真田 美幸の発言には誤りがある。“しもべ”は昏睡状態ではない」


ヴィヴィアンはその言葉を発した瞬間、右手で自分の口を抑えた。それを聞いた桜は、うずくまってしまった。



「僕?それってイングランドとフランスに出て来た人物の事?確か、変装の得意な」


響鼓の質問に口を紡ぐヴィヴィアンは、階段のある方向へと歩き出した。


「申し訳ないが、これ以上は言えない。そして、自身の失言とはいえ、今の情報を持ったままこの部屋から退出する事は、許さない」


ヴィヴィアンは3名に背を向けたまま、発言すると同時に、彼女の周囲には、紅い稲妻のようなモノがビカビカと光りはじめた。


「自分で自滅した癖に、それはないでしょ?」


「響鼓、桜ちゃんの状態は?」


響鼓はしゃがんで桜の様子を確認する。


「嘘よ、嘘よ、嘘よ、嘘よ」


「ダメみたいです、脳がキャパオーバー状態になって参っているみたいです」


「その方がいいかも、下手に彼女に殴りかかるよりかは―――」


響鼓はその場で立ち上がり、右手を白いスーツのポケットに突っ込んだ。


「そうですけど、まずくないですか?」


「ええ。かなりまずいわ」


「悪いが真田 美幸の能力は、既にこちらは把握している。そして、この狭い空間では貴様の能力は使えない」


「あら、知ってくれて光栄だわ。でも、何故かしら?」


「主が教えてくれた」


「あれ?そう言えば、あの人物さんは、いつから“か“師”から“主”にジョブチェンジしているようだけど、何かあったの?」


響鼓の発言にヴィヴィアンのまゆがピクリと動いた。


「あら?聞いちゃまずかった?」


左で口元を隠し、おどける響鼓。


「まずいと言った割に、随分と余裕があるみたいじゃないか?」


美幸の視線が一瞬だけ、階段の出口に向けられたのをヴィヴィアンは見逃さなかった。


「成程、時間稼ぎか」


それを知った途端にヴィヴィアンは、美幸に向かって突進する。


「あらバレた、残念」


美幸の表情は笑いつつも頬には汗が滴る。しかし、彼女はその場から動かない。


「逃げないか、いい度胸だ!」


そう言って、ヴィヴィアンは拳になった右手を、美幸目掛け、突き出した。しかし―――。


パ―――ン。


彼女の拳は何か高速で動くモノに当たり、彼女の右手は後方に弾かれた。


「くっ!」


ヴィヴィアンは直撃した右手の甲を庇いつつ、その何かを放った人物を睨みつけた。


「鬼塚選手。1球目はストレート(まっすぐ)のストライク」


彼女の目線の先には、何かを投げた響鼓が実況口調で喋りつつ、笑みを浮かべていた。


「さて、2球目は何でしょうか?」

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