20,詐謀?
急な出来事の連続に、
薫の思考は、停止寸前だった。
賢者の石?何故、それを?
いや、その前に、「何処だ?」
さも、俺が持っているような口調だった。
どうする?何て言う?
「賢者の石?何の事やら?」
超棒読みの薫の返答に、
金髪の大男の顔は、苦笑する。
「何だよそれ?いつものオマエなら、
もっと、狡猾で、卑怯で、いつも
屁理屈を言うのに、調子でも悪いのか?」
「えっ?」
この人と俺って知り合いだっけ?
だけど、そんな言い方だったよな?
「若しかしたら、人違いかも」
「あぁ―――?」
「ひぃ―――」
メンチを切る表情で、
再び、顔が当たるスレスレの距離で、
金髪の大男は、薫の顔に近付けた。
「そんな訳ないだろ?
さっきから“場の支配”を展開しているのに、
テメェは動けるし、話せている―――」
場の支配?
「そんな事が出来るのは、同格の“神”か、
耐性のある異能者だけだ」
今この人、神って言った?
まさか、自称神の知り合い?
「つまり、貴方は神様?」
「マジかよ、コイツ」
金髪の大男は、薫の言動に呆れたのか、
ようやく、顔を遠ざけ、
掴んだ腕も解いた。
そして、左手は顎に触れ、
右手は腕を組んだ状態で、何かを考えだす。
今が逃げるチャンスと薫は思ったが、
ほんの数分前の事を思い出した。
あの時、どうみても20メートル。
いや、最低でも15メートルくらいは、
離れていた。
それを一瞬で詰められた。
逃げた途端に捕まるのがおちだ。
じゃあ、どうする?
一番良いのは、携帯で連絡―――を、
あ、あれ、ポケットに携帯がない。
「あっ!」
「あ?」
氷鷹に預けたバックの中だ―――。
ドジ、マヌケ、俺―――!
「んだよ?」
「い、いや、何でも―――」
「ふん、本当に別人っぽいな、オマエ」
いや、絶対別人だろ?
狡猾?卑怯?屁理屈?
何一つ、俺と合致してないじゃないか。
出来そうな人に、心当たりはあるが―――。
薫の脳裏には、不敵な笑みで静かに笑う、
黒坂 和樹の顔が浮かんでいた。
「じゃあ、この話を聞いても、
オマエは、誤魔化すつもりか?」
「話?」
「オマエの身内―――
白髭のジジイの話」
え、爺ちゃんの―――。
「一体、何を―――」
「あのジジイを殺したのは―――俺だ」
「―――」
「確か、“事故死”で片づけてくれたみたいだが、
あの日、今のオマエと同様、
賢者の石の在り処を問い詰めたら、
バイクで逃げだしてな―――」
「―――」
「バイクチェイスごっこをしていたら、
曲がり切れず―――ボン!」
金髪の大男は、両手をグーにして、
「ボン!」っと、言ったタイミングで、
パーにする事で、爆発したジェスチャーを
薫に見せつけた。
「正直、拍子抜けだったぜ。
あのじん―――」
金髪の大男の言葉を遮り、
薫は、彼の胸ぐらを掴んだまま、
互いの額が触れるところまで顔を近づけた。
「ふざけんな」
「は?何だって?」
「ふざけんな―――――――――!」
薫の声と共に、彼を中心に、
突如、突風が発生した。
「おいおい、マジかよ」
突風は、稲妻をまとい、
ビカビカっと、鈍い光を帯びていた。
「俺は―――オマエを―――許さない」
周囲にいくつもの渦巻く雷風の中、
金髪の大男の頬に、何故か水滴が触れた。
「オマエ―――泣いているのか?」
先程まで、煽っていた金髪の大男は、
彼の反応に冷静になり、水滴の元を指摘した。
「―――」
しかし、薫には何も聞こえない。
怒り、苦しみ、切なさ、虚無の感情が、
グルグルと入れ替わり続け、
冷静になる事は、不可能だった。
「―――はぁ、君は“また”余計な事を」
―――ドス。
「うぐっ!」
聞き慣れたような少女の声の主が、
薫の後頭部に一撃を与えた。
薫は気を失い、それと同時に周囲の雷風は止む。
地面に倒れる直前、一撃を与えた少女が
彼を受け止め、ゆっくりとその場で寝かせ、
怪我がないかを確認する。
「何だよ、居たのかよ?性格のわる―――」
少女は、金髪の大男に向かって、
無言で睨みつけ、彼の言葉を妨げた。
「君は、ルールの1つも守れないのかい?」
「あのジジイが急に、日本なんてド田舎に、
移動したのが悪い!」
「知っているよ。だから、それは黙認した。
だけど、この子は君の管轄外の筈だ―――」
「は?管轄外な訳ないだろ?そいつは―――」
「聞いていた?
今は―――“ルール”の話をしている」
「チッ!分かったよ」
金髪の大男は、苛立ちを抑えきれず、
頭を掻きむしりながら、少女と薫に背を向けた。
「今回は退く。だが、ソイツの存在が
日本に居る事は、“上”に報告する」
「好きにすればいい」
「そうかよ」
その言葉を最後に、金髪の大男は、
跡形もなく消えていた。
「はぁ―――」
「これは、想定外。―――いや、
想定内なのかい?愚者―――」
二〇一二年七月十七日 午前十時十五分。
高速バス 石見銀山行き バス内―――。
意識を取り戻した時、俺は既に、
バスの中だった。
意識がはっきりした後、
心配して来てくれた氷鷹が、
倒れているところを発見。
男性陣が俺を担ぎ、
バスに放り込んだとか―――。
メンバー全員に、謝り倒した後、
事の経緯を説明した。
因みに、メンバー全員は既に、
俺の不思議な体験について説明を終えていた。
また、俺の記憶の最後は、あの自称神?と、
思われる声で終わっていた為、
そこまでを皆に話す。
「成程」
和樹は腕を組んだまま、
目を閉じて瞑想を始めた。
和樹さんが、時折この状態になるところを、
何回も目撃した。そして、これを終えた時、
決まった台詞を言う。
「恐らく―――」
言葉では、“恐らく”とは言いつつも、
その推測は、その殆どが“事実”だった。
「その人物は、例の少女の仲間。
いや、若干、彼女の方が、地位が上―――」
「神に序列ってあるの?」
「鷲さん、もう少し宗教の勉強をしましょう」
頬を膨らませる鷲さんを無視し、
和樹さんは話を続ける。
「自称神は、君を助けた。
しかも、相手はすぐ退いた。
その証拠に、仁が、薫の処に向かった時には、
薫しかいなかった。
恐らく、地位が上。且つ、正当な理由で、
説得された可能性が高い」
「正当な理由?」
和樹の言葉を復唱する希ちゃんは、
見えはしないが、彼女の頭上に“?”マークが、
いくつもあるような「グヌヌヌ」っと、
眉間にしわを寄せていた。
「分かりやすい例を挙げれば、
“テリトリー”とか」
「成程な。人間と同じように、
自分の場所を荒らされたら、誰だって怒る」
護さんの説明に、和樹さんは無言で頷いた。
「でも、それだと、地位が上でなくても
いいんじゃない?」
不貞腐れ気味の声で、鷲さんが反論する。
「それは、薫から聞いた男の性格、
退くスピードから、
一切の反抗行動を見せていなかった。
薫を煽るような、“いい”性格。
同族でも、恐らく自分よりも低い地位なら、
同様な行動をする可能性が、高い。
但し、少女に何か弱みを握られていたら、
鷲さんの言う可能性も否定できない。
けど―――」
「弱みで説得すると、
男は逆上する可能性が―――高い」
「いいね、仁。その通りだ」
「成程」
不服そうな表情は、変わっていないが、
納得をするように、返答する鷲さん。
「正直、今すぐにでも帰った方がいいが―――」
「いいえ、行きましょう!」
「希ちゃん?」
「多分、お話を聞く限りだと、
襲ってくる可能性は、低いっと、思います。
仮に、襲ってきても、
自称さんが、助けてくれる!―――筈、です」
最初の威勢は何処へやら、
希ちゃんの声は段々、弱々しくなっていった。
しかし、その言葉で、
一同は賛同。いや、希ちゃんの言葉で、
「帰ろう」とは、言えなくなったのが
真実だろう。
こうして、俺たち五人は、
「鹿島商店」へと、足を進める事を決意する。
二〇一二年七月十七日 午後二時半。
島根県江津市 山中―――。
「鷲さん、もう少しですよ」
「はぁはぁはぁはぁ、もう―――帰りたい。
インドアには―――キツい」
バスから降りてから、そろそろ徒歩30分。
目的の場所まであと一息だった。
幸いに、道は一本道なので、
男性陣の3人は先行してもらい、
俺、希ちゃんと、鷲さんは、
ゆっくりのペースで進むのだった。
「あれ?」
もう、あと50メートルを切るあたりで、
男性陣の3人が、
その場で、呆然と立ち尽くしていた。
「皆、どうかしました?」
三人の視線は一つに集中していたので、
俺は、視線を移した先に、
合わせようとしたら
―――見知った女性が店の前に立っていた。
「え?―――母さん?」
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