19,宿謀
二〇一二年七月十七日 午前五時半
新横浜駅前 改札口前―――。
自称神様の言伝により、
ここ最近の俺は、疑心暗鬼になっていた。
サークルに入って、約1ヶ月。
既にサークルメンバー全員と対面。
構成は男性4名、女性5名の計9名。
※自分も含め
学年別で言えば、
4年が2名、3年が3名、
2年が3名、1年が1名。
※自分も含め
皆、異能者だからなのか※和樹さんは除く
偶然そうなのかは分からないが、
癖が強く、「コイツは神ではない!」
っと、言える人物は、いなかった。
一旦、男性を除くかと、
思った時期もあったが、よくよく考えると、
女性陣の中でも、背丈や体形、声質など、
省く事ができる処はいくらでもある。
それに、計2回会ったが、
若しかしたら、女装趣味の男の神という
可能性も否めない。
なので、俺の中では一旦、
「犯人捜し」ならぬ「神探し」は、
保留にする事に決定した。
では、次の問題。
今俺は、朝早く新横浜駅の改札で、
サークルのメンバーを待っている。
いや、正確には、あと一人を待っている。
「希ちゃん、大丈夫かな?」
「起きているのは、確認済みなので、
大丈夫ですよ、鷲さん」
今、話した二人。
前者は「陳 鷲」さん。
中国人のお名前だが、
生まれも育ちも日本人で、父親が台湾の方、
母親が日本人の方でハーフ。
学年は、4年で時々フラッと来る。
面倒見が良い人で、既に何度かご飯に
連れて行ってくれた。
勝手に、俺の心の中で、
「眼鏡先輩」っと、
綽名をつけている。
次に、後者は「氷鷹 仁」。
俺と同じ学部学科で、
大学1年からの付き合い。
その整い過ぎる顔立ちで、
大学内外関わらず、女性ファンが沢山。
因みに、本人は嫌がっている模様。
学年は、俺と同じなので2年。
綽名は、俺は言ってないが、
周囲からは「青髪の貴公子」っと、
呼ばれている。
その他のメンバーには、
黒坂 和樹さん、近衛 護さんの二人が、
一緒に希ちゃんを待っている構図となる。
で、肝心の理由なのだが、
簡単に言えば、あの「黒電話」にある。
初めての全体集会で、俺きっかけで、
黒電話の話題となった。
その時に、黒電話の“特性”のような事が判明した。
要約すると、以下の通りである。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
1:その存在を認知しにくい
2:触れた異能者は、能力を行使出来ない。
3:部屋から出すと持ち上げる事も出来ない。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
1に関しては実際、電話の話題になって、
初めて認知したと言ったのが、
俺を除く、2年、1年の全員。※3名
認知していたが、気にしていなかったが、
黒坂さんを除く、4年、3年の全員。※4名
2と3の事項については、
護さんが実践してくれた。
自身の能力を駆使して、
電話ごと別の場所へと移動を試みるも、
能力が発動する事はなく―――。
次に、自力で電話を動かそうとしたものの、
電話は、微動だにしなかった。
護さんの名誉の為に言うと、
ベンチプレス100キロを挙げる事が出来る
剛腕の持ち主である。
実際に俺は、大学内のジムで、
直で見たので、間違いない。
一方で、ベンチプレスのバーのみ※20キロ
ですら挙げる事が困難であり、
皆が待っている人物「久遠 希」ちゃんが、
護さんの後に、電話を軽々と持ち上げた。
それから、うちの店に同じモノが
ある事を話すと、
和樹さんが、何故か興味を持ったらしく、
夏休みを利用して、
行ってみたいと言い出した。
で、興味を持った連中が、
今回のメンバー計6名となるのだが―――。
「え?今回って、強制参加じゃないの?」
「えぇ、そうですよ」
急に声を出して、
和樹さんに訴えだす鷲さん。
「そうですよって、アンタ。
あの時、私にはっきりと“強制”って」
「だから、今謝っています」
どうやら、希ちゃんだけでなく、
他のメンバーが居ない事を、
和樹さんに問いただした為、
現在に至ったようだ。
「相変わらず、言葉と行動が伴わないわね」
「赤の他人なら、上手くやります」
「そういう事じゃなく―――て」
鷲さんが、言い切る前に、
彼女の耳元で何かを呟く和樹さん。
「それ、ホント?」
「はい」
「なら、交渉成立」
交渉が成立した二人は、
互いに不敵な笑みを浮かべ、
右手をグットの形に―――。
何か、見てはいけないモノを
見た瞬間だった。
「皆さ―――ん!遅れて、
すみま、せ、ん、でした」
甲高い声と共に、
こちらへ走り抜け、息を乱す彼女が、
先程言った「久遠 希」ちゃん。
メンバー唯一の1年生で、
マスコット的な存在。
寒がりで年中、長袖を着ており、
今日も白いウェアーを着ていた。
「大丈夫大丈夫、時間まで20分近くある」
護さんは、そう言って、
携帯の画面を見ていった。
「寧ろ、悪かったな。昨日も深夜まで
バイトだったのに」
そう、彼女が遅れた大きな原因が、
昨日の居酒屋の深夜バイトでの
タイトなスケジュールでの寝坊。
「いいえ、サークルのイベントは、
全部参加したい。という、
私の我儘なので―――」
何て、イイ子―――。
恐らく、此処にいるメンバー一同が、
そう思って感動したのか、
泣いてもいないのに、一同共に
目頭を抑えていた。
こうして、集まった計6名で、
俺の地元、島根県は江津市へと、
向かうのだった。
二〇一二年七月十七日 午前九時四十五分。
広島駅 新幹線口 付近―――。
「次は高速バスだ、約2時間だから、
今のうちにトイレ、済ませておくように」
「「「「は―――い」」」」
まるで、引率教師と生徒の図。
引率は勿論、和樹さんだった。
「氷鷹、すまんがバック頼むわ」
俺はトイレがある方を指さした。
「おぅ、時間まだあるけど、
遅れんなよ」
「あぁ」
小走りでトイレの方角へと駆け、
数分後には、トイレを終えた。
腕時計を見ると、バスまで十分程度―――。
スッと、薫の前に大きな黒い物体が、
通り過ぎた。
「で、デカ」
その通り過ぎ黒い物体は、
2メートルを超える金髪の大男だった。
黒かったのは、
季節外れの黒いタートルネックが
原因だったようだ。
金髪の大男は、色付きのサングラスを付け、
はっきりと顔を確認出来ないが、
その身長に相反する小顔の持ち主。
高身長に伴う、
長い両腕で何かを探す素振りをしていた。
助けてあげたいけど、
俺英語出来ないからな―――。
あ、和樹さんなら、話せるかも―――。
そう思った薫は、
急いで皆の方に、駆けて行こうとした矢先。
「―――オマエが、鹿島 薫か?」
「えっ?」
先程まで、数十メートル離れた場所に
居た筈の金髪の大男は、次の瞬間。
薫の右腕を掴んでいた。
「は、はい。そうですが―――」
条件反射で応答する薫だったが、
すぐ否定すれば良かったと、後悔する。
「ようやく見付けた」
金髪の大男は、肩を震わせ笑いながら、
自身が装着していたサングラスを外し、
薫の顔、ギリギリまで近づけ、
一言、こう言った。
「―――賢者の石は、何処だ?」
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