暴走機関車〝ブルゴーニュ・アレゲニー〟
ミザリーたちの乗る機関車の後ろに
だんだんと迫ってくる真っ赤な機関車は、
すさまじい威圧感を放っていた。
「本当に化け物みたいな相手だ……!
こいつにお2人はやられたって言ってましたが、
どうやってこいつから生き延びたんです?」
ゼクルヴィッスの問いに
ミザリーはあまり思い出したくはない
記憶を掘り返した。
「どう助かったかというか、
そなたらの言う〝せんろ〟の上に
余らが立っていた時にあいつが
突っ込んできてな。
そのまま弾き飛ばされたのだ」
「……なんで生きてるんですか
あなたたちは……」
唖然とした様子で聞き返すゼクルヴィッスのもとに
1人の自警団員が駆け寄ってきた。
「フリカッセ指揮官!
あの機関車を知っている者が1人いました!
名前は〝ブルゴーニュ・アレゲニー〟!
最近になって帝国が作り上げた機関車らしいんですが、
とんでもないバケモン機関車です!
石炭車を含めたら500トン超える超重量で、
あんなのに追突でもされたら
貨車なんか一発で吹き飛ばされますよ!」
「なんだってそんなものを
一介の妙な集団なんかが持ってるんだ!?」
「わかりません!
でも最近の新聞で
その新開発の機関車が一両、
行方不明だって書かれてて……!」
「新開発の機関車を
ポケットに入れてたキャンディみたいに
簡単に無くさないでほしいな!!」
ゼクルヴィッスたちがやり取りをしている間に
〝ブルゴーニュ・アレゲニー〟と呼ばれた機関車は、
貨車1両分までの距離にまで近づいていた。
「どうしようか姉ちゃん!
俺はどうしたらいいかな!?」
ロインはすでに臨戦態勢になっているらしく、
ミザリーが一言でもいえば
すぐにとびかかっていくだろう。
ミザリーはロインを手で制すると、
ゼクルヴィッスを見つめた。
「ここでの指揮官はゼクルヴィッス殿だ、
彼の言葉に従うべきだろう。
何より余らはあの〝キカンシャ〟とやらについて
知らなさすぎる。
あちらの方がよく知っているだろうからな」
「な、なるほど姉ちゃんの言うとおりだ!
……でも今さ、新開発がどうとかッて
言ッてなかッた?」
ミザリーはその言葉に返す言葉を探す。
そしてしばらく考えた結果、
出てきた言葉はひとつだった。
「…………
多分、大丈夫だ!」
「なら大丈夫かな!」
ミザリーはゼクルヴィッスの指示を待つ、
まだ何か話し続けているが
おそらく対策を考えているのだろう──
「新開発の機関車ってことは
情報は何もわからないってことか!?」
「わかっているのは重量と幅くらいです……!
幅なんて見りゃわかるんで
何の解決策にもならないんですが……
結論を言うとほぼ何もわからないです!!」
「そんなのを相手にどうしろっていうんだ!?」
……聞こえてきた言葉にミザリーは
どうしたものかと汗が止まらなくなってきた。
どうやら名前と大きさと重さくらいしか
わからないらしい、
つまり相手の弱点もなにもわからない。
「なぁ、お前」
「何、姉ちゃん!!」
「あの化け物に突っ込めと言われたら、
お前は立ち向かえるか?
例えば余以外の者がそう言った場合だ」
「全力で歯向かうね。
何も情報教えてもらッてない状態で
突ッ込むとか正気の沙汰じャないよ」
普段狂気じみた発想を返してくるのに
こんな時には正論をぶつけてくることに、
ミザリーはこやつはそういうやつだったと
自身の記憶力の悪さに呆れた。
「そういえばそなたは
こういう時には的確な判断を
下すのだったな……」
「うん?」
首をかしげるロインにかまわず、
ミザリーはゼクルヴィッスに申し出る。
「すまない、ゼクルヴィッス殿。
何か対策は決まっただろうか?
なければ余から提案がある」
議論が行き詰っていたらしく、
ゼクルヴィッスはその言葉に笑顔を向ける。
「本当ですか、助かります!
何の情報もなしに対策は打てないので。
それで、どんなものになりますか?」
「うむ、それはだな──」
ミザリーの言葉に周りが耳を貸し、
その説明を聞いて顔をしかめていた。
「本当にやる気ですか、
そんなこと……」
「仕方がなかろう、
これしか対策は打てないのだ」
周りは判断を渋っているが、
ゼクルヴィッスはこちらの提案に
乗り気らしく、
決意をみなぎらせた目で言った。
「……やりましょう。
そうでもなきゃ
このままやられるかもしれない」
「やられるってなんです?
大体から確かに同じ軌道上を
追いかけてくるなんて尋常じゃないですが、
実際に攻撃されているわけでもないんですよ。
もしかしたらローブの連中とは
関係ないかも──」
自警団の1人がなおも食い下がったその時、
貨車に激しい振動が走った。
「うおおっ!!?
いったいどうした!?」
「〝ブルゴーニュ・アレゲニー〟です!!
あの野郎こっちのケツに
かじりついてきやがった!!」
後方にいた1人が吐き捨てるように叫ぶと、
再び貨車を衝撃が襲う。
〝ブルゴーニュ・アレゲニー〟はこちらを
弾き飛ばすつもりなのか、
何度となく追突を繰り返してきているようだ。
「……彼女の意見に異を唱える者は?」
ゼクルヴィッスの言葉に
首を横に振るものはおらず、
全員が決心を固めたようだった。
「──では決まりだな!
〝|ブルゴーニュ・アレゲニー(やつ)〟に
乗り込んで内部から制圧するぞ!!」
『了解しました!!』
自警団の何名かとゼクルヴィッス、
そしてミザリーとロインは
なおも追突しようとしてくる
〝ブルゴーニュ・アレゲニー〟の前に立ち、
それぞれの得物を手にとびかかる体制をとる。
「次に追突しようとしてくる時が
チャンスだ!!
飛び移り損ねたらミンチになるぞ!
気合い入れろ!!」
トルションが周囲に気合を入れ、
自警団員が裂ぱくの声で答えた。
「それにしても姉ちゃん!
姉ちゃんにしてはずいぶん
攻撃的な策を考えたよね!!」
ロインがミザリーの隣で叫ぶと、
ミザリーは確かになと叫んだ。
「今回に限っては
先手必勝が最善策と考えた!!
余らが初めて会ったときに
あの化け物は全く止まる気配が
なかったからな!!
人が乗り操っているものだとすれば、
良心から少なくとも
止まる気配のひとつは
見せるはずなのだ!」
「だからあいつには
そういうものが何もないッてこと!?」
「そうだ!
そんな連中が相手だとしたら
四の五の言ってはいられないからな!
お前も絶対に油断するな!!」
「任しといてよ姉ちゃん!!
姉ちゃんに敵対する奴は
1人残らず叩っ切るよ!!」
本当に大丈夫かとミザリーは疑ったが、
次に聞こえてきた声に体を硬直させる。
「また迫ってきたぞ!!
タイミングを間違えるなよ!!」
そして〝ブルゴーニュ・アレゲニー〟の
追突が決まるその瞬間、
トルションが叫んだ。
「飛び移れぇぇぇぇ!!!」
ミザリーたちは跳躍し、
そのまま相手の機関車部分へと飛び移る。
「全員着いたか!?
ならこのまま制圧するぞ!!
全員突撃ぃぃぃっ!!」
『了解!!』
全員が気合いを入れなおして突入する、
〝ブルゴーニュ・アレゲニー制圧作戦〟が、
ここに始まった。
ミザリー「落ちるかと思った……!」
ロイン「一瞬母さんが川の向こうで手を振ッてた……」