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最後の決意


  フリカッセの屋敷やしきで聞いた討伐隊とうばつたい

 集合場所を目指し、

 パンフレットを片手にミザリーとロインは

 走り抜ける。


 その最中さいちゅうに集合場所の名前こそ聞いたものの

 肝心かんじんの場所自体がどこかわからずに

 立往生たちおうじょうしたり、

 道を行く人々にたずね歩きながら

 まるで人生初めてのおつかいに向かうように

 四苦八苦しつつも

 目的の集合地点、〝モーメン停車場〟にたどり着いた。



  「はぁ……はぁ……

   あまりにも初歩的過ぎる

   失敗を今更してしまうとは……」

  「〝急がば回れ〟ッて言葉はこんな時に使うのかな」

  「それを言うなら

   〝いてはことを仕損しそんずる〟じゃないか……?」

  


 目の前には十数人が集まっており、

 おそらく全員が自警団じけいだんだと思われる。

 討伐隊とうばつたいと呼ばれる割には随分ずいぶん

 人数が少ないとミザリーは思ったが、

 ブルーマン・ショップのダニエルや

 ゼクルヴィッスの強さを思い出して

 この人数でも十分なのだろうと納得した。



  「それで、肝心かんじんぼっちャんはどこいるんだ?

   おいそこのアンタ!」



 ロインが近くにいた男性を捕まえて

 ゼクルヴィッスの行方ゆくえを聞いている。

 ミザリーも近くの人に聞いてみようと

 そばにいた人物に声をかけた。



  「すまない、

   少々たずねたいのだが──」

  「あん?なんだい」



 そう言って振り返った人物の顔にどことなく

 見覚えがあることを感じたミザリーは、

 少しの間考え込み──


 

  「おおっ!

   あの時屋台やたいに来てくれた者か!

   そなたも自警団じけいだんだったのだな」

  「んん……?

   おぅ、あの時フライ揚げてた

   オートマタの姉ちゃん!

   ……いや、この時間にここに来ているってことは

   普通の人間なのか?

   オートマタなら専属せんぞくの仕事してるはずだからな」



 声をかけた人物は、

 屋台やたいで手伝いをしていた時に

 大量に注文をして、商品もほめてくれた

 中年の男性だった。

 来ている服がかなりきっちりして

 いたために全く気付かなかった。



  「いや悪かったな姉ちゃん、

   オートマタと間違えちまうなんて。

   だがここに来たってことは討伐隊とうばつたい

   志願しがんしてくれたのか!」

  「……む?

   いや、余らはゼクルヴィッス殿どの

   用件があってなのだが……」



 正確にはゼクルヴィッスのことに関して

 自警団じけいだんの責任者に話をつける必要が

 あるのだが、

 中年の男性は喜びを隠さない顔で

 ミザリーの肩をたたいた。



  「いやー助かったぞ!

   今回は機関車を持ってるような

   デカい組織相手らしいと聞いてな!

   ちょっとばかし人数が心もとないと

   思っていたところだったんだよ!」

  「えっ?ちょっ、待ってはくれないか!?

   何か勘違いをしては──」



 話をしようとしてもぐいぐいと

 引きずられていくミザリーは、

 ロインに助けを求めようと振り返る。



  「お前ぇ!すまないが助けては──」



  「姉ちゃァァァん!!

   俺なんか捕まッて引きずられて……

   あッ、姉ちゃんも同じところ行くの!?

   なら別にいいや。

   おいアンタ、さッさと行こうぜ」

  「おう兄ちゃんわかってくれたか!

   じゃあうちの大将のとこに

   案内するぜ!」


  

 ミザリーは、もう逃げられないことをさとった。



  「あびゃぁぁぁ……」









 集合地点からそう離れていない

 小屋に案内されたミザリーたちは、

 中で集まっている者たちから挨拶あいさつをされて

 礼を返す。

 

 

  「助かったぜ姉ちゃん!

   若い連中にも声をかけたんだが

   どうにもビビっちまってるみたいでな。

   姉ちゃんみたいな若いモンが

   頑張ってくれたら、

   今後は若い連中も勇気だしそうな気がするぜ!」

  「ここの連中そんなきもが小せェのか?

   そんな奴らには思えねェけどな」



 ミザリーはゼクルヴィッスのことを思い

 確かにとロインに同意する。

 あそこまですさまじい熱意と

 狂気をはらみながらも行動力を持った者たちが

 そんな意気地いくじなしとは思えないのだが……



  「そんな中じゃあフリカッセのとこの

   長男は格が違うな!

   今回の大将つとめる要請ようせいにも

   結局応じてくれたわけだしな!」

  「ああ。最初はしぶってたんで

   駄目かと思ったんだが、

   突然やってくれると決断して

   くれましたからね」



 椅子いすに座っていた自警団じけいだん1人ひとり

 笑顔で同意する。

 

 その話を聞いたミザリーは

 頭の中に妙なひらめきが走った。

 その考えはできれば真実ではないことを

 願っているが、

 ミザリーは確認するためにも

 ゼクルヴィッスへの顔通しを頼み込むことにした。



  「……わかった。

   協力することを前提ぜんていとして、

   その前にゼクルヴィッス殿どの

   お会いしたいのだがいいだろうか?」

  「おう、姉ちゃんあの長男ちょうなんぼう

   知り合いかい?

   なら話していきな、

   もうじき出発だからな」



 中年の男性は小屋の奥の扉をひらき、

 中へ進むようにうながしてくれる。

 ミザリーは礼をして進もうとし、

 中年の男性に話しかけた。



  「そういえば、

   そなたの名を聞いていなかったな。

   これから協力するのなら

   名前を聞いておきたい」

  「おう、そうだったな!

   俺の名はトルションだ、

   よろしくな姉ちゃん!」

  「うむ、よろしく頼むぞ

   トルション殿どの!」









 ひらいた扉の中にロインと共に入ると、

 中では1人ひとりの男が椅子いすに深く腰かけて

 手を組んでいた。


 その目に宿る光には強い意志を感じ、

 真一文字まいちもんじに結ばれた唇からは固い決意を

 感じる。


 昨日きのうまで狂気に包まれていたフリカッセ家の男、

 ゼクルヴィッスの姿がそこにはあった。



  「……あなた方がここに来るなんて。

   どうしましたか?」

   


 顔を上げたゼクルヴィッスは

 一瞬いっしゅんおどろいた顔をした後、

 ミザリーたちに問いかける。

 

 ミザリーは背後はいごの扉が閉まることを

 確認してから話を始めた。



  「ランシエーヌ殿どのに話を聞いて

   こちらにやってきた。

   そなたが父上殺しをいていること、

   自警団じけいだんの者たちが

   そなたの父上を悪魔崇拝者すうはいしゃだと

   誤解していること、

   そして余らに、

   それらをどうにかしてほしいと

   ランシエーヌ殿どのから頼まれた」



 ミザリーの言葉に

 ゼクルヴィッスは少しばかり笑う。



  「姉さんがそんなことを……

   ありがとうございます、

   姉さんの話を聞いてくれて……

   確かに初めは父さんを殺した俺が

   英雄みたいにたたえられるのが

   辛かったです、

   でも今回のローブ連中の討伐隊とうばつたい指揮しき

   依頼されて考えたんです」



 ゼクルヴィッスはどこか悲壮感ひそうかんの漂う目をすると

 ミザリーたちをまっすぐに見つめた。



  「これは俺に課されたばつだって。

   父さんを殺した俺が道化みたいに

   まつり上げられて、

   その先鋒せんぽうに立つなんて。

   姉さんを守り続けたかったけれど……

   多分これは、神様がそうしろって

   言ってるんだと──」



 ミザリーはゼクルヴィッスの顔面を

 力いっぱいになぐりつけた。


 みしり、という音と共が響くが

 ゼクルヴィッスの顔には傷ひとつなく、

 ミザリーの拳がじんじんと痛みをうったえている。



  「……え?」

  「痛いか?

   いや、痛くはないのだろうな。

   まるでこたえている様子ようすがない。

   ともかく!!

   貴様はこともあろうに、

   このまま死ぬ腹積はらづもりなのだろう!!」



 ミザリーの言葉が部屋中へやじゅうに大きく響く、

 外にも漏れているかもしれない。

 だがミザリーは内心を叫ばずには

 いられなかった。



  「ランシエーヌ殿どのを残して死ぬなどと、

   余は決して許さないぞ!!

   そなたの罪は確かに軽くはないだろう、

   自警団じけいだんの者たちが真実を知れば

   そなたは罪に問われるだろう!

   それでもそなたの帰りを待ってくれている

   者がいるのなら、

   命をして帰ってくることが

   そなたの罪滅つみほろぼしだ!!

   ここで死ぬことは許さない!

   余が決してそうはさせない!!」



 ミザリーが叫び終えると、

 ゼクルヴィッスはぽかんとした顔で

 こちらを見続けている。



  「俺はお前のしたことに

   とやかく口は出さねェよ。

   だがな、てめェの姉ちゃんを

   悲しませるッていうんなら

   俺はてめェを許さねェ。

   死ぬことは必ずしも

   つぐないになるとは限らねェんだぜ」



 2人ふたりの心からの声を聞いたゼクルヴィッスは、

 やがて顔をせてぽろぽろと泣き始めた。

 そこにはおそらく様々な感情が

 入り混じっているのだろう。


 ミザリーはゼクルヴィッスに歩み寄り、

 その肩をたたいた。



  「これから激しい戦いに

   なるかもしれない。

   だがそなたがいるのなら

   簡単にけりが付くかもしれない。

   いずれにしても、

   この場から必ず生きて帰るのだ。

   すべてを話してつぐなうことは、

   それからでも遅くない」



 ロインが反対側の肩をたたき、

 笑って言った。



  「姉ちゃんの言うことに間違いは

   ねえんだよ!

   信じて戦ッてよ、

   またお前の姉ちゃんに

   ブルーベリーパイでも

   焼いてもらッて、

   仲良く食うと姉ちゃんに約束しな!!」



 ゼクルヴィッスは大粒の涙を流しながら

 何度もうなずき、しゃくりあげる声で

 ミザリーに告げる。



  「俺、は……!

   必ずここから、生き、て

   帰ります……!!

   姉さんを、守るために

   絶対に……!!」



 その声には強い意志を感じ、

 確固たる決意が満ちていた。


 背後はいごの扉がひらくと、

 トルションが顔をのぞかせる。



  「機関車が到着したぞ、 

   いよいよ出発だ!!」



 ミザリーは再びゼクルヴィッスの肩をたたき、

 今度はかつを入れた。



  「さあ、時間のようだ!

   さっさと終わらせて帰るぞ!!」

  「そうだぜお前!!

   大将がいつまでもべそかいてんじャ

   ねェぞ!!」

  「……っ、

   はいっ!!!」



 3人は部屋へやから歩み出し、

 目的を果たしに向かう。


 ミザリーたちにとって

 この異世界での、

 最後になるだろう冒険が

 始まった。






ランシエーヌ「あっ!

       そういえばお2人に集合場所がどこか

       きちんとお話してませんでした!」


メイド「おやまあ。不慣れな場所だと言ってましたから

    大丈夫でしょうかね……」

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