慰労会の情報
ロインは昨日使ってしまった
目つぶしの香辛料を補充すると、
「お待たせ!」と言って
ミザリーのそばに戻った。
「オ~ゥ!
オセワニナッタオフタリニハカンシャシキレマセン!
ナニカホカニチカラニナレルコトハアリマセンカ?」
「はは……ありがとう、
余らは特には大丈夫だ。
……ふむ、ひとつ言うなら
ここの品を食べたことがないので
それをいただきたいとは思うが、
あいにく持ち合わせがな……」
卑しいとは思いつつも油の張った鍋に目を向けると、
中年の男性は大笑いした。
「HAHAHA!
オヤスイゴヨウデ~ス!
ミセヲテツダッテクレタオンジンカラ
オカネハトレマセ~ン!
オートマタチャン!
サッソクデナンデスガ、
〝フィッシュフライ〟フタツオネガイシマス!」
男性が屋台の裏手に声をかけると、
奥で作業をしていた1人の少女がこちらにやってきた。
目の覚めるような美少女とは彼女のことを言うのだろう、
ミザリーはやってきたオートマタの少女を見て
そう思った。
ランシエーヌもオートマタであるが、
その容姿は美しくはあるが現実的なものであり
人間味があった。
それに対してこの少女は
どこか〝人間離れした〟美しさを持っており、
その深紅の瞳に思わず目を引き付けられた。
「はい、承知いたしました。
お客様、少々お待ちくださいませ」
少女はにこりとこちらに笑いかけると
料理の用意をてきぱきとこなしていく。
「はぁ……とても美しい少女だな……
ため息が漏れるような美しさとは
こういうものを言うのか……」
「そう?
俺的には姉ちゃんのほうが
きれいだと思うけどな?」
「HAHAHA!
オフタリハゴキョウダイデスカ!
ナカガヨイミタイデナニヨリデス!」
周りに姉弟として認識されていくことに
いつの間にか慣れきっていたミザリーは、
最後に否定したのはいつだったかなと
思い返しながら愛想笑いを返した。
「ははは……!
仲のいいご姉弟でいいですよね……!
あ、それと店長……
ちょっとこのお2人と
お話がしたいんですが
少し時間いいですか……?」
「オ~ゥ!
カマイマセンヨ!」
少年は屋台の隅に
2人を呼ぶと、
昨日の情報の収穫を報告し始める。
「それで聞いてみたんですが、
結構皆さん目撃しているみたいですよ……
化け物と言えるかはわかりませんが
赤い機関車のこと……!」
「うーむ……
それであっているのかもわからない……
だが、聞いておいて損はないかも知れないな」
「そうだね。
そんじャ話してもらおうか?
どんな話が聞けたんだ」
ミザリーたちが話の続きを促すと、
少年はつらつらと話し始めた。
「はい……!
聞けたのは3つ、
まずひとつが〝さかな〟を卸してくれる
ところです……
町の外周を線路が回っているんですが、
その上を真っ赤な機関車がとんでもない速度で
走り抜けていったそうです……
普通の機関車と比べると
まさにその速さは〝化け物〟と呼ぶに
ふさわしいものだったそうです……!」
ミザリーは腕を組んで考え込んだ。
確かにその情報は気になるものではある、
だがそれは見たことのないと枕詞はつくが、
〝キカンシャ〟という知っているものの
情報の様である。
「うーん、
なんとも言い難い情報だな。
化け物みてェッてところは気にかかるが、
どうにも正体を知ッている物みたいだしな」
「うむ。
だが覚えておいて損はないかもしれないな」
「そうだね!!
しッかり覚えておくよ!!」
ロインがぱっと顔を輝かせると、
ミザリーは頼むぞと言って
次の話をせがんだ。
「では次の話を頼む」
「えーと、
次の話は昨日の朝方に見たっていう
〝チリポテト&ナゲット〟の店主さんからですが……
ここ最近オートマタが増えてるのは
話したと思うんですが、
どうでしたっけ……?」
「む?どうだったかな……?」
考え込むミザリーの横で、
ロインが「そういやそうだッたな」と
手のひらをポンと打った。
「確か嫁さんにする奴らも増えてるとかッて
言ッてたよな?
でもそれとこれがどう関係あるんだ」
少年は頷くと、
聞かれるのをはばかられるように
顔を寄せてきた。
「それが……
さっきの真っ赤な機関車から、
ぞろぞろと人が降りてくるのを
見たっていうんです……
実はオートマタが納品される瞬間を
見た人は少ないんですが、
降りてくる人たちの表情が
全くの無表情だったことを思うと、
あれはオートマタだったんじゃないかって……
そしてなんとなく気になるんですが……
その中に、昨日話した
〝スイートマッシュ〟っていう屋台の
店長さんがその機関車から
下りてきたらしいんです……!」
「〝すいーとまっしゅ〟?
なんだか聞き覚えが……
そう、そうだ!
たしかローブの者たちの話を聞いて
正義感を燃え上がらせていた者だったか?」
少年は頷き、話を続ける。
「そうです……
その人がなんであの機関車から
降りてきたんだろうって話してて……
ここから見えますか……?
斜向かいの屋台なんですが……」
少年が指さす先には
確かに〝スイートマッシュ〟と書かれた屋台と
そこで元気に呼び込みをしている男性の姿が見える。
「あの人がもしかしたら
オートマタになってるのかなって……
でも朝方だったし見間違いかもしれないって
言ってましたから、
大した情報じゃないかも……」
「うーむ、
何やら怪談めいてきたな……
気が付いたら知っている人が
人形のようなものに変わっているとは……」
「そうだね……
相手は人形で、
今までの人とは記憶も
違うってなったら完全に
別人だもんね……
あの娘がそうだったし」
「はい……
お2人も気を付けてくださいね、
気が付いたら隣の人が
見た目同じの別人に変わってたなんて
怖いなんてものじゃ済みませんから……」
少年が体を震わせながら警告してくるので
ミザリーもなんだか怖くなりながら頷いた。
「それで、これが最後の情報なんですが……
まさに昨日の夜、
慰労会の前に屋台の営業を終えて
鉱山の方に景色を見に行った方がいたんですが、
その時に見たらしいんです……!
線路の上を一つ目を光らせながら
すごい速度で突っ走る、
変なものがいたって……!」
「大当たりだ!
おそらくそれだろう、
余らが出会ったのは!」
「ようやく見つけたわけだな!
とはいえ何の準備もなく挑んだら
前と同じになっちゃうからね……
自警団に協力してもらうしかないかなァ?」
悩むロインに、
ミザリーはそれよりも前にと意気込んだ。
「ともかくいる場所がわかったのだ、
ピントに伝えてやらなければ!
……しかしゼクルヴィッス殿の
やったことを言い含めてやらねばとも思う……
どうしたものか……」
「そうか、確かにそうだね……
どうしよう……」
ロインと頭を突き合わせて悩んでいると、
少年は何かを思い出したように声を上げた。
「あっ……
そういえばその情報を欲しがっている人って
記者さんなんでしたっけ……?」
「む?
うむ、そうだが……」
少年はそれを聞くと、
どういったものかという顔をするが、
意を決したらしく立ち上がって歩き出すと、
屋台の裏手に置いてあった紙を手にして戻ってきた。
「あの、多分ですけど……
その記者さん、ピントさんでしたっけ……?
もうその情報必要ないと思いますよ……?
ここに書いてあるもの読んでみてください……」
そう言いながら紙を広げて見せてくる。
「なんだ?
……〝夜の線路を走る謎の化け物機関車、
当社記者が激写〟……?」
「〝ついに正体が判明、
機関車の内部に人影を複数確認、
その中には巷を騒がせるローブの姿も!?〟
……おいアイツ自分で解決しやがッた!!」
「ま、待て待て!!それはいいことではないか、
そうだろう?
余らがこれ以上情報を集めずとも
済んだということでだな!
ははは……はぁ……」
情報収集が徒労に終わったことに
ひどい疲れを感じたものの、
ミザリーは何となく違和感のようなものを感じた。
あのピントがこれほどの特ダネを
手に入れたのは別にいい、
だがその情報を自分たちも集めているのは
知っている、
そのことについて何も言ってこないということは
あるのだろうか……?
しばらく思考したミザリーは
ピントが集合場所を伝え忘れていたりしたことを
思い出し、
うれしさのあまり忘れている可能性はあるか、と
考え直した。
「そういえばピントは
そういう者だったな……」
「姉ちゃん……
今日帰るときにあいつやッぱり
一発殴ろう!!
姉ちゃんもやッたッて許されるよ!!」
「いや、そういう意味で
言ったわけではないのだが……」
大きなため息をついたミザリーとロインのもとに、
先ほどのオートマタの少女がフライを持って
やってきた。
「お待たせしました。
出来立てなのでやけどに気を付けてくださいね」
「む?
ああ、ありがとう」
「おう、ありがとさん。
こうなッたらやけ食いだ!」
ロインがかぶりつくのを見たミザリーは、
確かに美味しいものでも食べて気分を
切り替えることも大事か、と
フライにかぶりついた。
「うむ!
昨日味見はしたがやはり美味しいな!
もぐ……ふむ、余の揚げたものと比べると
揚げ具合が違うか?」
「ああ、確かに違うかもですね……
お姉さんの揚げてくれた方が
カラッと揚がっている気がします……
オートマタに伝えた方がいいかもですね……」
「それでも姉ちゃんと同じ完璧には
揚げられないだろうけどな!!」
なぜかロインが胸を張りながら
言ったことにおかしくなってきたミザリーは、
腹を抱えて笑った。
ピントが目的を果たしたのなら
残るこちらの目的はただ1つ、
ゼクルヴィッスへの説教だけだった。
ミザリー「サクサク具合がたまらないな!」
ロイン「確かに美味い!でも姉ちゃんの揚げたやつの方が
絶対美味いね!」