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今朝の出来事


  一階の食堂におりてきた

 ミザリーとロインは席に着き、

 料理の到着を待つ。


 待っている間することもないなと

 ミザリーは思い、

 何気なく今朝けさ見た夢の話を

 ロインにしてみることにした。



  「いきなりだが、

   お前は夢を見るか?

   余はここ最近妙な夢を見続けているが」

  「夢?

   俺は……

   そうだな、姉ちゃんが遠くに行っちゃう夢を

   見たことがあるよ。

   あの時はとんでもない悪夢を見たッて

   思ッたけど、

   夢の終わりになんだかいい気分に

   なッた気がしたなァ……」

  「ふむ、

   悪夢のようなそうでもないような、

   そんな夢か……

   余の夢も似ているかな。

   なぜか余ではない、

   どこかのだれかの視点で

   夢は進んでいくのだが、

   今朝けさ見た夢は最後には

   大活劇だいかつげきじみたものになっていたぞ」

  「活劇かつげきじみた夢かァ、

   なんだか楽しそうだね!」



 ロインがうらやましそうな顔をしていると、

 扉をひらいて亭主ていしゅが料理を運んできてくれた。



  「……よぅ、おはようさん。

   今朝けさはよく眠れたか?」

  「うむ、ぐっすりと眠れたぞ。

   ……気のせいか、

   何かあったような言いぶりだが?」



 ミザリーは亭主ていしゅの言い方に

 妙な引っかかりを覚えた。

 〝昨日きのうは〟ではなく〝今朝けさは〟。

 まるで早朝そうちょうに何かあったかのような言い方だった。



  「……なに、大したことじゃねぇ。

   起きなかったならそれでいいのさ。

   さぁ、メシを済ませちまってくれ、

   食器を洗いたいんでな」

  「うむ……

   そうか、わかった」



 今日の朝食である

 塩漬け肉の薄切りと〝おむれつ〟なるものに

 舌鼓したづつみを打ちながらも、

 ミザリーは亭主ていしゅの反応が気にかかっていた。

 ロインもそれに気づいているようで、

 黄金色こがねいろ汁物スープを飲みながら

 ミザリーに話しかけてくる。



  「あの男ていしゅの言ッてたこと、

   気になる?姉ちゃん」

  「うむ……なんだか気になってな。

   今朝けさがたと言うと、

   やはりランシエーヌ殿どのらの

   ことかと思ってな」



 ミザリーはもそもそと食べながら

 気になることをべる。


 自分たちもあの場にいたのだから

 もしかしたらと言うことも考えたが、

 どうにも違うような気がしていた。



  「じャあさ、

   飯食べ終わッてから聞くのが一番だよ!

   美味うまい飯を食うんなら何も気にしちャダメだッて!」



 ロインの一言にミザリーは一瞬いっしゅん呆気あっけに取られ、

 それもそうだと笑った。

 そうだ、これだけ美味おいしい食事を前にして

 味がわからなくなるような悩み事をする方が

 間違っている、

 美味おいしい食事を前にしたのなら

 まずはご飯のことだけを考えるべきなのだ。



  「ふふっ、確かにそうだな!

   ご飯を前にして、

   一番の礼儀知らずに

   なるところだった」

  「へへッ、

   役に立てたんなら何よりだよッ!!」

  「うむ!

   それにしてもこの〝おむれつ〟は美味おいしいな、

   卵がふわふわに焼かれていて、

   赤いたれの甘みと酸味が抜群ばつぐんだ!」

  「俺はこの塩漬け肉がまた出てきたから

   うれしくてさ!

   これマジで美味うまいんだよッ……!」



 2人ふたりが食事を済ませ

 亭主ていしゅがこーひーを持ってきてくれると、

 ミザリーは意を決して話を切り出した。


 

  「なぁ、亭主殿ていしゅどの

   今朝けさ何があったのか

   よければ教えてはくれないか?

   どうしても気になってしまってな……

   余らに関係ない話と判断すれば

   それ以上かかわることもしない」



 ミザリーの言い分に

 亭主ていしゅは考える様子を見せたが、

 やがて観念したように話してくれた。



  「……そこまで言うならな。

   今朝けさがた自警団じけいだんの連中がここに来てな」

  


 ミザリーは身構えた。

 やはり自警団じけいだんがかかわっていた、

 となれば昨日きのうのフリカッセ家での一件で

 来た可能性かのうせいが高いだろう。


 ──だが話の続きを聞くと、

   それはいささか間違いであることが分かった。



  「……それがな、

   町の外周がいしゅうに走っている線路せんろ

   見たことのない真っ赤な機関車が

   走っているのを町のやつが見かけたらしいんだが、

   そこに乗っていたのがローブの怪しい連中だったらしい。

   おまけにフリカッセ家の警備連中や

   メイドまで乗り込んでたらしくてな。

   そのフリカッセ家にゃあ昨日きのう

   ぞくが入って人が死んだってんで、

   無関係とは思えねぇと

   あちこちに聞きまわってたんだと。

   昨日きのう起きた事件が事件だっただけに、

   討伐隊とうばつたいが結成されるって話もあったな」

  「……っほう、そんな、ことが」



 ミザリーは自分の声がふるえないよう、

 必死に気にしながら言葉を紡いだ。


 フリカッセ家に関係あることには

 間違いないことだったが、

 どうやらことはかなりの

 大ごとになっているらしい。



  「それで、

   当のフリカッセ家ッてのは

   今何してるんだ?」



 ロインがごく自然なていで話を聞く。

 こやつも相当にきもわっているか、

 役者だなとミザリーは思った。



  「……ああ。

   そこの現当主の

   フリカッセ・オー・ゼクルヴィッスってぇ

   ぼっちゃんがよ、

   前当主のドゥ・ヴォーを殺しちまったらしい。

   だが話を聞く限り、

   どうやらローブの連中と結託けったくしてた

   ドゥ・ヴォーを止めようとしたって

   ことらしいからな。

   おそらくは情状じょうじょう酌量しゃくりょうで解放、

   それどころか今回の討伐隊とうばつたい指揮しき

   任される可能性かのうせいすらあるらしいぞ」

  『なんだって!?』



 ミザリーはおどろきを隠せなかった。

 昨日きのう起きた出来事の真相を知っている身としては

 さすがに看過かんかできそうもない。


 

  「すまないが亭主殿ていしゅどの

   本日の昼食、昨日きのうの〝さんどいっち〟だったか。

   あれのようにして持ち運べるようにしては

   くれないか?」

  「……ああ、お安い御用だ。

   2人分ふたりぶんでいいな?」

  「うむ、頼むぞ」



 亭主ていしゅがさっそくとばかりに厨房ちゅうぼうへと戻っていくと、

 ロインがこちらに顔を突き出してきた。


 

  「あいつとんでもねェ大嘘おおうそこきやがッたね!!

   よりにもよッて殺した親父を犯人に

   でッちあげるとか!!」

  「さすがに余もそれは看過かんかできないな。

   少々おきゅうをすえてやらねばならない」

  「そうだね!!

   でも俺たちの攻撃あいつに

   全く通じなかッたけどどうする?」

  「それは当然、

   ランシエーヌ殿どのを味方につけて

   しかってもらうのだ!」



 我ながら結構情けないことを

 言っている自覚はあった。


 だが実際問題、

 げんこつの一発も通らないのでは

 精神的に追い詰めるしかないのだ。



  「なるほど、

   その手があッたね!!」



 ロインの「さすが姉ちゃん」の言葉を

 軽く流しながら、

 ミザリーはパンフレットを取り出した。


 地図上には昨日きのう行った〝ブールダル―記念病院〟の

 文字が書かれている場所があり、

 大通りを挟んで向かい側に大きな屋敷やしきらしき

 場所が描かれている。

 前回はランシエーヌの先導せんどうで行けたが、

 今度は自分たちで向かわなければならない。



  「食事の用意をしてもらったら

   すぐに出発しよう」

  「わかッたよ姉ちゃん!!」



 そうして今日の行動を決めた時、

 「あッ!!」とロインが声を上げた。



  「うぉっ……!?

   どうした……!?」

  「忘れるところだッたよ!

   屋台の、えーと……そう!

   〝タルタルフィッシュ〟!!

   あそこで情報受け取らなくちャ!!」

  「む……?」

   


 ミザリーは考え込んだ。

 何かそんなものを

 頼んだことがあったろう──



  「ああっ!?あそこか!!」



 そういえば化け物の情報を

 集めてもらうために、

 慰労会いろうかいに参加してもらったはずだ!


 屋敷やしきでの出来事が衝撃的過ぎて

 完全に忘れてしまっていた。



  「そうだった、そうだったな!

   よし、まずはそこへ向かおう」

  「できればそこで手に入れたいものも

   あるしね」



 ロインが腰に手を当てていると、

 食堂横の扉がひらき、

 亭主ていしゅが大きなかごげて入ってきた。



  「……待たせたな。

   今日は〝ローストビーフサンド〟と

   〝ベーコンレタストマトサンド〟、〝ホットドッグ〟が

   入っているぞ。

   スープは蓋付きのしっかりした容器に入っているから

   そうはこぼれないはずだ」

  「うむ、感謝するぞ亭主殿ていしゅどの!」



 ミザリーはかごを受け取ってロインと共に連れ立ち

 宿やどを出る。

 

 外は快晴かいせいで気持ちのいい日差しがさしている。



  「さて、向かおうか。

   フリカッセの屋敷やしき

   〝タルタルフィッシュ〟の屋台やたいへ!」

  


 ロインは力いっぱいうなずくと

 ミザリーに続いて歩いていく。


 なぜゼクルヴィッスの父親が

 ローブの者たちと結託けったくしたことになっているのか、

 問いたださなければならない。


 ミザリーの足に迷いはなく、

 力強く石畳をみしめていった。






ミザリー「こんな立派な籠に昼食を入れてくれるとは、

     さすがだな}


ロイン「にしてもデカすぎない?この籠」

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