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事情聴取


  部屋へやの外で静かに待つミザリーとロインは、

 どうなっているのかと時々ときどきゼクルヴィッスの

 部屋へやをのぞいてはまた立ち尽くすということを

 繰り返していた。



  「余らに手当てする

   心得こころえがあればな……

   ゼクルヴィッス殿どのが手伝っているとはいえ、

   ランシエーヌ殿どの1人ひとりで手当てをしている……

   どこか大きな病院なりに

   運ぶべきなのだろうが、

   そうなればどうしてこうなったのか

   説明しなければならないな……」

  「変な洗脳せんのうみたいなモン受けてましたッて言ッて、

   それだけで納得してもらえるならいいけど、

   詳しく話せッて言われたら

   俺たちとのドンパチも

   話さなきャならないね……」


 

 ことが終わって冷静になってみると、

 ミザリーたちのしたことは

 どう考えてもフリカッセの家に忍び込み

 メイド長を傷つけるという、

 おなわ待ったなしという

 状況じょうきょうに置かれていることに気付いた。


 そうなればまず、

 自分たちは傷害しょうがいの罪で

 引っ立てられることになるだろう。

 

 そうなったら拘束こうそくされるのは間違まちがいない、

 ともすれば牢屋ろうやかどこかに入れられる可能性かのうせい

 十分にある。


 異世界いせかいにやってきた結果、

 まさか凶賊きょうぞくと呼ばれるはめに

 なるとは思ってもいなかった。



  「そうなれば余らは間違まちがいなく

   自警団じけいだんに出頭することになる。

   明日には戻れるはずだったが、

   それは無理かもしれないな……」

  「わかんないよ姉ちゃん。

   もしかしたら光がピカァーッてなッて、

   気が付いたら俺たち元の世界に戻ってるかもだし!

   俺がここに来た時だッて、

   光に包まれて気が付いたら

   すごい高いところにいたんだし!」

  「……そうだな。

   そうとでも思っていた方が

   気は楽だな」

   


 ミザリーは微笑ほほえみ、

 ロインに笑いかける。


 

  「今日は本当に助けられてばかりだった。

   礼を言うぞ」

  「へへッ、

   何言ッてるのさ姉ちゃん!!」



 ロインは鼻の下を指でこすりながら、

 なんてことないとばかりに答えた。



  「俺は姉ちゃんの弟なんだからさ!

   何かあッたら力になるなんて、

   腹が減ッたら飯をくくらいに当然だよ!!」

  「ふふっ、例えがわかりづらいなお前は……」



 そんな話をしていると

 ランシエーヌが部屋へやから出てきて、

 血で汚れた手を布でぬぐっていた。



  「女中メイド長はどうなった?

   かなり傷つけてしまったが、

   容体ようだいは……?」



 ミザリーがあせりながらたずねると、

 ランシエーヌはにこりと笑ってミザリーを見た。



  「簡易的かんいてき応急処置おうきゅうしょちほどこしましたが、

   肩の傷や脇腹わきばらの傷はすごいですね!」



 ミザリーは青くなった。

 実行犯はロインではあるが

 指示したのは間違いなく自分である。


 もうおりの中に放り込まれることを

 覚悟したミザリーは、

 ランシエーヌに答えた。



  「……そうか。

   そんなに傷は深かったか……」

  「はい?

   いえ、違います。

   どの傷も深手ではなく

   早ければ2月ふたつきもせずに

   治るのではないのでしょうか!」

  「……はい?」



 ミザリーは耳をうたがった。

 

 そんなすごい腕前は聞いたことがない、

 できたとしても剣の達人か、

 それこそ剣聖けんせいと呼ばれるような人物しか

 できないと思っているのだが、

 

 ……ロインがそうだというのだろうか?

 信じられない思いでロインを見ると、

 無邪気むじゃきそうな笑顔を向けてきた。



  「どうしたの姉ちゃん?」

  「ロイン様の剣の腕に

   おどろかれているのではないでしょうか?

   わたくしはお医者様ほどの知識は

   持ち合わせていませんが、

   それでももう二度と使えないというような

   斬り方はされていませんでしたし、

   脇腹わきばらの傷もしばらくしたら

   あとも残らないようなものでした!」

  「姉さん、

   そこまで詳細しょうさいにわかるのは

   ふつうお医者様くらいだよ?」



 あとに続いてゼクルヴィッスが

 部屋へやから出てくる。


 その顔には疲労の色が見えるが、

 まさに〝ものが落ちた〟ような

 晴れやかな顔をしていた。



  「そ、そうかぁ……

   よかった……しかしそれでも

   余らが引っ立てられるのは

   間違いないな……」

  


 ミザリーはほっとしながらも

 これからのことを考えて

 沈んだ気持ちになる。 

 それを見たゼクルヴィッスは、

 ぽん、と手のひらを叩くと

 ミザリーに話しかけた。



  「それなんですが、

   今妙案みょうあんを思いつきました!

   ちょっとばかりうそを交えることには

   なりますけど、いいですか?」

  「自分で演技苦手ッて言ッてたが、

   大丈夫かお前?」



 ロインが懐疑的かいぎてきな目を向けると

 ゼクルヴィッスは一瞬いっしゅん言葉に詰まったが、

 すぐに笑顔を取り戻した。


  

  「大恩人のお2人ふたりのためです。

   一世一代の大舞台おおぶたい

   えんじきって見せますよ!!」

  「……ふむぅ、

   うそか……余もへたくそだが、

   それでもいいか?」



 ゼクルヴィッスはそれに「大丈夫です!」と

 胸を張ると、

 どうするのか説明を始めた──



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 アーヴ・ラーゲィの中でも一番大きな病院、

 〝ブールダルー記念病院〟に、

 1人ひとり患者かんじゃが担ぎ込まれた。


 肩に大きな切り傷、

 両脇腹りょうわきばらにもそれぞれに傷を作った

 フリカッセ家につかえるメイドが患者かんじゃだった。


 傷の出来具合からして

 ただ事ではないと、

 自警団じけいだんのアランが事情を聴くようにと

 派遣はけんされる。


 アランはメイドの運び込まれた病室の前で

 椅子いすに座り込む4人組が関係者らしいと

 病院のナースから聞き、

 ふところから手帳を取り出して

 話を聞くことにした。



  「あ~、どうもこんばんは。

   自警団じけいだんのアランと申します。

   今晩そちらのメイドさんが

   こちらに運び込まれたと聞いて

   少しお話を聞かせていただきます。

   この情報は自警団じけいだん精査せいさして、

   犯人が逃亡中でしたら

   直ちに町に自警団じけいだんを配置します。

   何があったかお聞きしても?」



 アランが手近にいた身なりの良い

 青年にまず話しかける。

 青年はこちらを見ると、

 疲れた顔で話し始めた。



  「はい……

   今日の夕方のことです、

   俺は父さんとけんかして、

   思わず、思わず……

   首をめてしまったんです……!」

  「あ~、待った待った……

   確かにその話は

   大変ですし後でうかがいましょう。

   でも今はメイドさんがなぜああなったのか

   教えてくださいませんか?」



 アランは突然の告白にひどく戸惑とまどった。

 メイドの怪我けがの話を聞くはずが、

 まさか父親殺しの話を聞くなんて。

 今日の当番になったことを誰ともなしに恨んだが、

 ともかく話を聞き続けた。



  「は、はい……

   父さんの首をめてしまった後に、

   下の階で物音がしたんです。

   気が立っていたのと

   恐怖心から下の階へ降りてみると、

   知らない男が書庫しょこの中を

   荒らしていたんです……!!

   いったい誰だって叫んだら、

   その男はいきり立って

   俺におそかってきたんです……」

  「あ~、なるほど……それで?」

  「そのとき折悪おりわるく、

   うちの……メイドの1人ひとり

   町でお世話になったそこのお2人ふたり

   連れて帰ってきたんです……

   その時、メイド長が……

   今入院しているメイドがメイド長です。

   ともかくメイド長が出てくれたんですが、

   おそかってきた男は

   その声におどろいたみたいで、

   ナイフを手におそかっていったんです……!」

  「あ~、そんなことが……

   恐ろしかったでしょうに」



 アランは紹介されたメイドと

 2人ふたりの男女に会釈えしゃくをしながら

 話しかける。


 

  「その時です、

   メイド長は果敢かかんにも 

   『お客様に手は出させない』と言って

   立ちはだかったんです……!

   その結果、ナイフで斬りかかられた

   メイド長は、

   あれほどの傷を負って……!!」

  「あ~、なるほどぉ……

   手に怪我がなかったのは、

   どうあっても引かなかったからだった、

   ということですかな?」



 2人組ふたりぐみに話を振ると、

 女の方は目元を手でおおい、

 しくしくと泣き始めた。


 

  「……あのも、かたは、

   果敢かかんにも悪漢あっかんに立ち向かい

   わ、私たちを守ってくださいました……

   斬りかかられた時にも少しも

   ひるむことなく、

   私たちを守り切ってくださったのです……」

  「そうです……

   あの女性は、本当に勇敢ゆうかんな方でした。

   本人も恐ろしいに違いないのに、

   それでも立ち向かい続けたんです。

   男の俺が言うのもなんですが、

   本当に素晴らしい方でした」

  「メイド長は本当にお手本のような方です……!

   私もあの方のように立派なメイドになるべく

   精進しょうじんしているところだったのです……

   それがあんなことになるなんて……!」



 隣の男も、

 メイドの1人も同じように言っており、

 多分うそではないだろうし

 うそをつく理由りゆうもないと考えたアランは、

 再び身なりの良い青年に話しかけた。



  「あ~、それでどうなりました?」

  「……俺も勇気をふるい立たせなきゃ、

   あのメイド長が死んでしまうと思って……

   書庫しょこの中の隠し部屋べやに置かれていた

   槍を取って、

   男に向かっていったんです……

   追い払えたらって思って。

   そしたら男はわけのわからないことを言いながら

   俺に突っ込んできて……

   槍に突き刺さったんです、自分から……!」 



 目元をおおって青年はさめざめと泣き始めた。


 アランは本当に恐ろしい体験をしたのだろうと

 青年の肩に手を置いた。

 そんな勇気ある青年が父親を手にかけたとしたら、

 相当そうとう理由りゆうがあったに違いない。


 

  「あ~、ありがとうございます。

   そんな恐ろしい体験をして

   よくぞ話していただけました。

   また怖い話で申し訳ありませんが、

   男はそのまま死んだんですか?」



 アランがたずねると、

 青年は涙でぬれた顔を上げてうなずいた。



  「はい……

   血の海の中にたおれて……

   今も屋敷やしきに死体があります……」

  「あ~、わかりました。

   よくぞご無事ぶじに生き残られました、

   メイド長さんはこの病院にお任せしましょう。

   大丈夫、

   男は大した腕ではなかったんでしょう。

   どちらも2ヶ月もすれば完治するそうですよ」



 アランは4人組をはげましてから

 家に帰らせることにした。


 この後青年から聞いた屋敷やしきに向かって

 死体を確認しなければならない。

 だが犯人がすでに死んでいるなら

 対して人手ひとでかずに済むだろう。


 アランは被害者たちの命が

 せめて無事だったことを神に感謝し、

 病院の外に出て

 煙草たばこに火を点けたのだった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






ミザリー「み、水が欲しい……口の中が乾いて……!」


ロイン「水!?水は……無ェ!!くそッしまッた!!」

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