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最初の目的地


  目的のゼクルヴィッスの部屋へやに向かう途中

 何度かわなに引っかかり、

 剣山に落ちそうになったり

 炎を浴びせられたりしながらも、

 ミザリーとロインはなんとかたどり着く。


 ここまで五体満足ごたいまんぞくで来られたことが

 奇跡きせきといえるようなわな数々かずかずだったが、

 強運きょううんとしか言えないほどに

 かすり傷で済んでいた。


 

  「ずッと思ッてたけどさ……

   ホントこの屋敷やしきわな考えたやつ、

   性根しょうねがひん曲がッてるよ絶対!!

   〝願いをかなえる石〟で作ッたとか言ッてるけど

   それはつまり願ッたやつが

   そういうやつだッたッてことでしョ!?」

  「はぁ……はぁ……?

   何のことを言ってるのかよくわからないが、

   その点はお前に同感だ。

   このわな数々かずかずは相当ひねくれたやつが

   作ったのは間違まちがいないな……」

  「ここにあッたはずの壁まで引ッ込んでるし……

   下の廊下ろうか回ッてきた俺たちの苦労は

   一体何だッたんだよッて思うし……」

  「壁?……ああそういえば

   最初にここに来た時にランシエーヌ殿どの

   んでわなが動いたのだったな……

   ああそういえば……

   わなの場所をすべて把握はあくしているはずの

   ランシエーヌ殿どのが、

   むわけはなかったのだな……」


 

 息をととのえながらミザリーが廊下ろうかを見る。


 言われてから気づいたことだったが、

 時間がつと引っ込む仕掛しかけになっているのか

 最初にここに来た時に

 飛び出してきたはずの壁は姿を消している。

 

 ロインが1かい廊下ろうかを回っていこうと言っていたが、

 壁のことを覚えていたのかとミザリーは

 ロインの記憶力に感心していた。

 ……自分の記憶力がお粗末そまつすぎるだけかも

 しれないが。

 

 

  「なんにせよここまで来たのだ……はぁ、

   とにかく部屋へやに入ろう」

  「姉ちゃん大丈夫?

   息上がッたままだけど……」



 ロインの気に掛ける言葉に大丈夫だと

 答えようとするが、

 確かに息が上がったままでは

 できることもできなくなるかもしれないと

 今日何度目かの深呼吸をして

 息をととのえる。



  「すぅ、はぁ……

   すまない、落ち着くべきだったな」

  「まァ姉ちゃんなら大丈夫だろうけどね!

   さて、中を調べてみようよ!」



 扉をひらいて部屋へやに入ると、

 中はごく普通に見える。


 正直意外だなと思いながら

 ミザリーは室内へと足をみ入れた。

 ロインも続いて中へと入り、

 部屋へやの奥へと向かう。


 

  「何があるのかさッそく

   調べさせてもらおうかァ?」

  「いつもなら止めるところだが、

   場合が場合だからな。

   かたぱしから探せ、

   どんな些細ささいなことでもいい」



 ミザリーも何か探してみようと

 部屋へやの中を見回す。

 ロインはベッドの横に置かれている

 引き出し付きのたなにかじりついており、

 そこは任せることにしておく。


 他に部屋へやの中にあるのは机と2きゃく椅子いす

 あとはランプくらいだろうか。


 このランプは大きな足がついており、

 持ち運びはできそうもない。

 おそらくこれは〝魔法のランタン〟とは違うだろう。


 机の上にはティーセットが置かれており、

 カップはせられて使われていないことがわかる。


 ──そして気が付いた。

 ここには服をしまう場所がないのだ。

 毎日の着替えがないなど

 さすがに考えられないので、

 どこかにあるはずと

 ミザリーはさらにまわりを詳しく調べる。


 すると壁の一か所に隙間すきまがあることに気が付き、

 よく見れば取っ手もついている。

 

 

  「……中から変なものが出てきたりはしないよな?」



 ミザリーは固唾を飲み、

 思い切ってけてみる。


 ──その先は、

 ミザリーの想像とは全く違った空間が

 広がっていた。



  「ここは……

   隣の部屋へやか?

   しかしこんなところに入る扉は

   廊下ろうかにはなかったぞ?」



 ミザリーは部屋の中に足を踏み入れる

 前にロインに声をかけておく。



  「おい!

   こっちに変な部屋へやがあるぞ!

   そこでの調べものが終わったら

   こっちに来てくれ!

   先に調べ始めてるからな!」

  「うん、ちョうどこッちも調べ終わッ──

   うわ、何そこ……

   また隠し部屋べや?」



 ロインがおどろきながらこちらにやってくるのを

 振り返って確認したミザリーは、

 ゼクルヴィッスの部屋へやと比べて

 ベッドと収納戸クローゼットしかない殺風景さっぷうけい部屋へや

 見回す。


 ベッドはシーツがぐちゃッとしており、

 誰かが寝ていたことがわかるが

 それ以上のことはわからなかった。

   

 

  「この収納戸クローゼット、開けていいかな?」

  「む?

   まぁけないことには調べることも

   できないからな」



 ミザリーがそちらに歩み寄り、

 一緒に収納戸クローゼットける。

 そこにはある服が大量にかけられていた。


  

  「これは……」

  「女中メイド服、みたいだね?」

  「むぅ?

   余の予想ではここにはゼクルヴィッス殿どの

   着替えがあると思っていたのだが……」



 ミザリーが首をかしげていると、

 ロインがメイド服をかき分けて奥をのぞく。



  「多分奥にあるこの服じャないかな?

   ほら、奥に男物の服があるよ!」



 それを聞いてミザリーもメイド服をかき分けてみると、

 なるほど一見して女性の着る服ではないものが

 多くかかっている。


 しかしなぜメイド服が手前にあるのだろうか?

 そう思ってふと上を見上げてみると、

 何やらからくり仕掛じかけらしきものが 

 服が掛けてあるはりに取り付けられている。



  「……もしやこれはからくり仕掛じかけで

   前後が入れ替わるのでは?

   ほれ、上を見てみろ」

  「マジで!?

   ……ホントだ、何か仕掛しかけがある!

   そこに気付くとかさすが姉ちゃんだ!!」

  「それは別にいい。

   お前は何か気づくことはないか?」



 調べてみてほしいと言われたロインは

 張り切って収納戸クローゼットの中へと進んでいくが、

 やがて意気消沈いきしょうちんしながら戻ってきた。



  「どうだった?」

  「何もわかんなかッた……」

  「そうしょげるな。

   調べてくれただけでもありがたい、

   すまなかったな」



 ロインはたちまちひまわりのような笑顔になって

 「うん!!」とうなずいた。


 なんにせよ、

 ここで他に調べられそうなこともないと

 ミザリーとロインは謎の部屋へやを後にする。



  「謎の部屋へやはこの程度か……

   いや、おそらくあそこは

   ランシエーヌ殿どの部屋へやなのだろうな」

  「女中メイド服たくさんかかッてたしね。

   そうなると出てきたのはこれだけか……」



 ロインはそうつぶやくと、

 腰の袋の中から小さな手帳らしきものを取り出した。



  「ふむ、それは?」

  「あいつのベッドのたなで見つけたものだよ。

   読んだ限り日記じャないかな?」

  「日記か。

   何か手掛てがかりが見つかればいいが……」



 ロインが手帳を開くと、

 そこにはどこか雑な文字で

 何かつづられている。

 それが手掛てがかりになると信じて

 ミザリーたちは読み進めた。


 『姉さんがしんだ

  俺のだいすきなひと

  だいじなひと

  すべてだったんだ

  俺のいきてるりゆうだった

  かなしくてくやしくて涙がでる

  俺は姉さんがかえってくるなら

  なんでもする

  


  父さんの実験室を見つけた

  魔法の実験をしてたらしい

  その中に人形を人に変えるという

  とんでもない魔法を見つけた

  魔法だなんてと昔なら馬鹿にしてたかもしれないが

  今はこれだけが俺の生きる理由りゆう



  姉さんにそっくりなオートマタを

  父さんが購入してきた。

  悲しみをやわらげられるならと

  言う理由りゆうで買ってきたらしいが、

  ある意味ではとても都合つごうがいい。

  だが姉さんの代わりはいない、

  姉さんの得意なブルーベリーカスタードパイを

  オートマタが作った、

  正直すごく美味うまくておどろいたが

  姉さんの方がもっと美味うまかったはずだ。

  このオートマタを利用すれば 

  姉さんが帰ってくる。

  姉さんの代役だいやくを作ろうとした父さんを

  許すわけにはいかないが、

  ともかく礼を言っておこう。

  


  魔法のランタンなんてものが

  この屋敷やしきにあるなんて思いもしなかった。

  姉さんを取り戻すために

  父さんもいろいろ手をくそうと

  したのだろうか?

  ともかくこれで支度したくととのった、

  いよいよ決行する時だ。

  待っててね姉さん、

  俺が必ず助けてあげるよ』



 ──ロインが手帳を閉じると、

 2人ふたりは大きくため息をついた。



  「こう見れば姉ちゃんを生き返らせたいだけの

   ちョッとおかしいだけの男なんだけどな……」

  「それで済ませていいのか?

   ……ふむ、これだけ読めば

   決意は固いように見えるが、

   魔法のランタンの情報を重ねると……

   うむ。

   ゼクルヴィッス殿どのを引っ張り出すために

   必要そうなものはわかったな」

  「えッ?

   何かあッた?」



 あらためて手帳を読み返し

 何かあったかと探すロインに、 

 ミザリーは指を立てた。



  「いいか?

   古今東西ここんとうざい

   こういう手合いにくのは

   思い出の品だ。

   そしてこの手帳の中で

   ゼクルヴィッス殿どの

   思い出の品を1つげている!」

  「……もしかしてこれ?」



 ロインは手帳に記されていた、

 ある文字をした。



  「その通りだ。

   ゼクルヴィッス殿どのの気を引くために、

   これから〝ブルーベリーカスタードパイ〟を

   用意するぞ!!」

  「料理で解決するの!?

   でも考えてみればほかに

   手もないね……

   わかッた!!

   俺も手伝うよ!!」



 かくしてゼクルヴィッスを呼び寄せて

 〝魔法のランタン〟をうばうために、

 2人ふたりは思い出のパイを作ることに決めたのだった。






ロイン「姉ちゃんどうやッて作るか知ッてるの?」


ミザリー「魔王をなめるなよ?料理なら任せておけ!」

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