悪魔の秘密
再び隠し部屋の中を探索する2人は、
今しがた読んだ冊子は間違いなく重要であると判断し
失礼とは思いながら持っていくことにした。
「うーむ……
他に情報を探すならやはり
冊子のようなものを探すのが一番か?」
「あとは書庫の本にも大事なものがあったりしないかな?
結局何だったかわかんないけど、
呪文の書かれた本だってあったわけだし」
「そうだな。
よし、お前は本を調べてくれるか?
余はここをもう少し探してみる。
もうなさそうならそちらに行くぞ」
「わかッた!
さッそく探してみるね!
探すとしたら悪魔の召喚のこととか、
あとは操る術についてだよね?」
ロインに頷いて見せたミザリーは、
それぞれに分かれて探す作業に戻る。
あの強さのゼクルヴィッス相手だ、
できれば戦わずに説得ないしは戦意喪失させるだけの
何かが欲しい。
そう思いながらミザリーが紙の山から
一枚引き抜いて読んでみると──
『ランシエーヌに日記帳を渡した。
ゼクルヴィッスの専属メイドにしたオートマタだが
なかなかどうしてうまくやっているらしい。
書庫の〝悪魔召喚〟に関する本は
もう必要はないかもしれない。
私の妻もすでにこの世を去った、
あとはお迎えが来るのを待とう』
──どうやら当たりを引き当てたようだった。
その周りにあった紙も読んでみると、
バラバラになっているが日記の様だ。
──なぜこんなところで日記がバラバラになっているのか
とも考えたが、
今は時間が惜しいとその考えは捨てることにした。
しばらく読んでみてから要点をまとめると、
・ランシエーヌがこの屋敷にやってきたのは
つい最近のこと
・悪魔召喚に関する本が書庫にあること
・書庫に本を取りに行かせたゼクルヴィッスの様子が
最近おかしいこと
・つい先日ローブを着た者がとある本の解読を
頼みに来たらしいこと
というものだった。
どうやらローブ姿の者が屋敷に来たというのは
事実のようだ。
だがそこに書かれてある〝らしい〟というのは
なんだろうかとミザリーが思っていると、
書庫の方から声がかかった。
「姉ちゃん!
気になるものいくつか見つけたよ!!」
「こちらもいくつか見つけたぞ。
そちらに持っていく!」
ミザリーはロインのもとに向かい、
どんな情報が手に入ったのか尋ねる。
「それで、何が見つかった?」
「たぶんドンピシャッて感じかな。
〝悪魔召喚学〟、
〝催眠道具一覧〟、
〝秘宝・財宝について〟
ッていう感じだよ」
「いいぞ!
探していた内容が……
この財宝についてという本は必要か?」
ミザリーの指摘に、
ロインは「俺の直感的に!」と
朗らかな顔で答える。
「むぅ……
確かに直感は馬鹿にできないからな。
よし、調べてみよう」
とりあえず〝悪魔召喚学〟という本を開き、
内容を読んでみる。
専門用語なのかいろいろと難解な言葉が
踊っていたが、
その中で注目すべき一文があった。
『悪魔を召喚するためには
魔法を使える必要があると言われるが
それは誤りである。
すべての者が持つ精神力、
これを媒介にして悪魔は召喚することが
可能である。
魔法が使えるものだけが悪魔を召喚できるという
風説が流行ったのは、
召喚した後に悪魔を従える方法が
少なかったゆえに広まったものである』
「これを読む限り、
誰でも悪魔は召喚できるようだな」
「ホントだ……
悪魔ッて仕事に飢えてんのかな?」
「なんだその感想は……?」
ともかく悪魔を呼び出すことに魔法が必要ないとなれば、
ゼクルヴィッスが悪魔を連れていた理由にはなる。
ならば呼び出された悪魔がアバティであることにも
何か関係はあるのかと思ったが、
本の中にアバティの名前は一度も出てこなかった。
「ふむ……
悪魔を呼び出せたことはわかった。
剣でも死ななかったアバティを
どうやって殺したのかだが、
それについてはおそらく槍の力だろうな」
「〝悪魔殺しの槍〟だね」
「問題は〝なぜ殺したか〟だが……」
さらに本を読み進めていくと、
また気になる一節が書かれている。
『悪魔がそばにいる場合には
魔法が使えないものでも
悪魔が魔法の発動を肩代わりしてくれる。
もしも魔法を唱えたいが
魔法の才能がない、
という者がいれば
悪魔を召喚するのも1つの手かもしれない』
「なるほど、
これを読んでゼクルヴィッス殿は
魔法を使うために
悪魔を呼び出したのだな」
「姉ちゃんをよみがえらせるためか……
俺も同じ状況になッたら、
あいつと同じ道に走るかも……」
ロインの実感のこもった言葉に
確かにこやつならやりかねないなと
ミザリーは少しばかり怖くなった。
ほかに何か情報はないかと読み進め、
本の後ろあたりまで来たときに
その文章は目に飛び込んできた。
『悪魔を召喚したからと言って
魔法が使えるようになったと驕らないこと。
もしも悪魔を隷属させて
従えてしまうと、
悪魔は抵抗し自死しようとするだろう。
死んでしまっても悪魔は解放されるだけであり、
受肉しない限りはいつでも異界に
戻ることができるためである。
決して悪魔を自分の思い通りにしようと
しないことだ。
その行く末には必ず破滅が待っている』
その文を読んだ2人は、
しばらくの間沈黙した。
やがてミザリーが口を開く。
「なぁ、アバティが呪文を唱えてくれと
言っていたよな?」
「うん……」
「もしかしてその呪文、
解放されるためのものだったのではないだろうか?」
「〝いましめを脱し、敵を逃れよ〟ッて呪文だッたから、
すごいその可能性ある」
「悪魔を操っても
しっちゃかめっちゃかになったと
言っていたのは、
抵抗されていたからという可能性が高いな……」
「おまけにその悪魔はいたとしても
自分でコロしちゃったと……」
「もしかしたら殺した理由は
抵抗が長引いて、操るのが
面倒になってきたからかもしれないな……」
ミザリーたちの間を冷たい空気が流れる。
「ゼクルヴィッス殿の計画は、
自分でご破算にしてしまった感が強いな……」
「うん」
欲望に駆られて行った結果、
まさか足元をすくわれているとは
思いもよらないのだろうな、と
ミザリーは今も自分たちを血眼になって
探しているだろうゼクルヴィッスを思い、
うっすらと涙をにじませた。
ミザリー「余ら、どれくらいここにいる?」
ロイン「結構長い間いるけど平気かな……?」