隠し部屋の遺産
背後にも気を配りながら書庫へとたどり着いた
ミザリーたちは、
音を極力立てないように扉を開けようとし──
ギィィ、と甲高いきしむ音が響いてぎょっとした。
「しまっ……!!」
慌ててあたりを見回すが、
誰かが来る様子はない。
ほっと胸をなでおろして
開いた扉の隙間から書庫の中へと入った。
中は先ほどと何ら変わりなく
あちらこちらに本が散乱しており、
気を付けなければまた足を取られそうだった。
そして問題の書庫の奥、
隠し部屋の壁も開いたままになっており
中に入ることはできそうである。
「さてと……
このまま入ッて大丈夫そうかな?
ここにも罠が仕掛けてあったらどうしよう?」
ロインが慎重に足を踏み出すが、
ミザリーは少し考えてから
ずかずかと部屋の中へと足を踏み入れた。
「ちョ、ちョッと姉ちゃん!?
確認もせずにそんなこと……!!」
「いや、おそらく大丈夫だ。
ここでゼクルヴィッス殿は散々に
暴れまわっていただろう?
つまりここでは気兼ねなく
どこを踏んでも大丈夫というわけだ。
それに隠し部屋になっているということは
ここには踏み入られる可能性は低い、
つまり罠を仕掛ける必要性もないはずだ」
だがもしも床を踏んで罠が作動したら、
末代までの笑いものになる。
さらに屋敷に仕掛けられていたものを考えると
間違いなく死ぬだろう。
ミザリーは隠し部屋の中ほどまで歩き
立ち止まると、
ここまで罠が1つもなかったことを確認し、
振り返って笑って見せた。
「ほ、ほらぁ!!だ、だ、大丈夫だったろう!?」
「膝が笑ッてるよ姉ちゃん!!?」
ほっとした瞬間汗が吹き出し、
膝ががくがくと震える。
その足を殴りつけ、
震えが収まるのを待ってから
ミザリーは大きくため息をついた。
「へ、平気だ、うむ。
とにかく、調べてみようじゃないか。
……言っておくが決して考えなしに
足を先に動かしたわけではないぞ!?」
「大丈夫!
信じてるから、大丈夫だよ!!
よし、俺も調べよう!!」
そそくさとロインがミザリーに続いて
隠し部屋の中に入り、
あたりを物色し始める。
ミザリーもようやく動けるようになると、
隠し部屋の中を回ってみることにした。
最近まで出入りがあったらしく、
部屋の中の物に埃が積もっている様子はない。
おそらくゼクルヴィッスが
使用していたのだろう。
おまけに何かが掛けてあったのか、
壁には武器などを飾っておくような突起があった。
「見てみろ、
ここに掛けてあったものをゼクルヴィッス殿は
持って行ったらしい。
おそらくあの槍だろうと思うが……」
「飾られてたものを使ッてるッてこと?
もっと実戦的な武器を使えよなッて俺は思うけど」
ミザリーは、そう言われてみればそうだと気が付いた。
確かに、なぜわざわざここに飾ってあっただろう槍を
持ち出したのだろう?
ここには護衛の黒服たちもいた、
その者たちに渡すものでなら武器は必ずあるはずなのに。
「うーむ……?
あの強さだから武器はいらないのか?
いや、だとしたらなぜ槍を持ち出した……?」
ミザリーが頭を悩ませていると、
ロインがミザリーを呼び手招きした。
「姉ちゃんこれ見て!
さッきあいつが持ッてた槍と
同じものじャないかな?」
ミザリーが歩み寄ると、
大量の器具の並ぶ机の上で
ロインが何かを広げている。
見てみるとそれは紙束でできた冊子の様だった。
そしてその中の1頁に
ゼクルヴィッスが持っていた2振りの槍と同じ絵が
描かれており、
絵のそばに〝神殺しの槍〟、〝悪魔殺しの槍〟と
物騒な名前が書かれていた。
「悪魔殺しはまだわかるが、
神殺しとは穏やかではないな……」
「というか姉ちゃん今魔王なんだッけ?
この〝悪魔殺しの槍〟、
姉ちゃんに効いたりしないよね……?」
ロインが不安げな顔をこちらに向けると、
ミザリーはそれに対して笑って見せた。
「ふふっ……安心しろ」
「そう、よかった……」
「あんなもの食らったら悪魔だろうが
そうでなかろうが、
一撃で死んでしまうことは間違いない」
「あァ、なるほど……そうだよね……」
ロインがうなだれている横で、
ミザリーはほかに何かないかと
机の上を探す。
なぜこれほどまでに散らかっているのかと
雑多にものが置かれた机の上には、
硝子の小瓶や小さな壺、
紙切れなどが置かれている。
ミザリーがケガをしないように慎重に
ものをかき分けてみると、
紙切れの山の下から
ロインが持っていたような冊子が出てくる。
「おい、こんなものがあったぞ」
ミザリーがロインを呼びつけて
冊子の表紙をめくると、
そこにはこのように書いてあった。
〝魔法研究記録 ×〟
〝ゴミくずめ!!〟
「なんだ、これは……?」
「魔法の研究してたみたいだけど、
なんでかバツ印が書いてあるね?」
もう一度表紙をよく見てみると
〝フリカッセ・ドゥ・ヴォー〟と記されてあり、
これを書いたのはゼクルヴィッスの父親のようだった。
「見てみるか?」
「うーん……見るしかないよね?」
二人で頷きあうと、
頁をめくり何が書かれているのか読んでみる。
〝これは私の記録であり、
娘の復活劇が書かれた奇跡の書である〟
そう書いてある文の下にやはりバツマークが書かれており、
その横に文章が乱暴に書きなぐられていた。
〝何が復活劇だ、これらはただのガラクタだ。
何の意味もこれには存在しなかった!!〟
「これッてさ……どういうことなんだろう?
だッてあいつ、あのランシエーヌッて娘を
姉さんッて……」
「……読んでいくしかないな」
ミザリーたちは頁をめくり、
さらに読み進めていく。
そこには、
ある1人の男が絶望の底に落ちていくさまが
書かれていたのだった。
ミザリー「そういえば書庫の前にも罠はなかったな?」
ロイン「それはただ単に主人が面倒だッたからじャないのかな?」