VSゼクルヴィッス 2回戦
「姉さんから離れろぉっ!!」
ミザリーに向かって突進してきたゼクルヴィッスは
頭上高く槍を振り上げ、
そのままミザリーへと突き立てようとしている。
ミザリーは恐怖と戦いながら
横っ飛びに避けようとするが、
ゼクルヴィッスはこちらから視線を逸らすことなく
体をひねって狙いを定めている。
やはり避けることは無理なのだろうか、
ここで自分は終わってしまうのだろうか。
ミザリーは目じりに涙が浮かぶのを感じたが、
そのとき救いの神とも呼べる声が聞こえた。
「坊ちゃん!
その方はミザリー様ですよ!
私をここまで連れてきてくださった
恩人ではありませんか!」
ランシエーヌの声が響き、
ゼクルヴィッスの動きが少しばかり
鈍くなる。
「……姉さん……でもっ!!」
しかしそれでも槍は振り下ろされたが、
どうやら声をかけた甲斐はあったらしく
狙いがそれてミザリーは間一髪で避けることができた。
「うおぉ……!
助かったぞランシエーヌ殿!!」
ランシエーヌがミザリーに向けて
親指を立てると、
ミザリーは戦闘用籠手をきしませながら拳を握り、
ゼクルヴィッスめがけて殴りかかる。
「すまないゼクルヴィッス殿、
少しばかり眠っていてもらえるか!!」
その拳はゼクルヴィッスの腹部へと
一直線に吸い込まれ、
そのまま直撃することになった。
──が、
「っっあびゃあああ!?」
ミザリーは手を押さえて叫びながら後ずさる。
確かにゼクルヴィッスの腹をとらえたはず、
しかしミザリーの腕に伝わったのは
肉体を傷つけてしまった感触ではなく、
まるで鋼を殴りつけたようなものだったのだ。
当然手は無事であるはずもなく、
ジンジンとした痛みが走る。
「~~~っ!!
この戦闘用籠手、
鉄製なのだが……っ!!
なぜこんな損傷が腕に……っ!?」
「御大層なことを言って
その程度のパンチとか……
そこまで強くはないらしいな、
お前は。
しかし姉さんに近づいた以上
脅威として──」
ゼクルヴィッスが一歩踏み出し、
再び構えなおす。
今その槍を振るわれれば、
ミザリーは今度こそ命を失うだろうことがわかった。
「坊ちゃん、
いい加減にしてください!!」
ランシエーヌの叫びが書庫の中に響きわたり、
ゼクルヴィッスの動きが止まる。
彼はゆっくりと
ランシエーヌへと顔を向け、
悲しげな表情を見せた。
「……ごめんなさい姉さん、
でもわかってほしいんだ。
こいつらはたぶんあの化け物と共謀してて、
俺たちの父さんを殺してる。
そんな奴らを生かしてちゃ
いつか姉さんにも危害が及ぶんだよ」
「なぜそんなことを言うのです!?
何か確証があるのですか!?」
必死の呼びかけにゼクルヴィッスは
しばらく顔を伏せていたが、
再び鬼の形相になると
槍でミザリーの服をひっかける。
「似たような服を
そろって着ていて、
こいつらが書庫に入ってきたときに
あの化け物は真っ先にこいつらのところへ
向かったんだ。
それは十分な理由になるよ」
「それは──」
ランシエーヌは言葉に詰まっったように
顔を伏せると、
ゆっくりと顔を上げて
ゼクルヴィッスを見つめた。
「それは坊ちゃんが
あまり周りのことに目を
向けていなかっただけなのではないですか?
このお洋服、
先ほど町のお店で似たようなものを
見かけましたよ?」
「……え?」
ミザリーは目を丸くした。
ミザリーがこの服を手に入れたのは
ブルーマン・ショップであり、
趣味で作った一点ものだと言われた。
おまけにランシエーヌがあの店に入ったときに
自分たちと同じくふらふらになっていたことを
思い出す。
ブルーマン・ショップに初めて入った人は
あの症状が出るとピントが言っていた、
すなわちランシエーヌがこの服が
店に並んでいるところを
見ているわけがないのだ。
とどのつまり、
ゼクルヴィッスを説得するために
ランシエーヌは嘘をついているのだろう。
ミザリーはそれに全力で乗っかることにした。
「そ、そうだぞぉー!
今町で流行し始めている
最新の意匠なのだぞぉー!
まだ知らないとはそなたも
遅れているなぁー?
余らはこの町で生まれて詳しいからなぁー?」
「さっき魔法のある世界から来たって
言ってたじゃないか」
ミザリーは先ほど発言した自分を呪った。
どうすればいいかわからず
ミザリーはランシエーヌに助けを求めて
目線を向けると──
ランシエーヌは滝のような汗を流して
こちらに助けを求めるような目線を向けている。
もう駄目だということだけは
しっかりと理解できた。
「姉さんをだまして同類じゃないって
言わそうとしたのか……?
やはりお前らはあの化け物の仲間だなっ!!」
完全に火に油を注いだ結果となり、
ミザリーはその場からほんの少しでも
距離を取ろうと駆けだそうとし──
──落ちていた本に足を取られて
盛大にスッ転ぶことになった。
「あびゃっ!!?」
振りむいて顔を上げると、
ゼクルヴィッスが槍を振り下ろそうとする姿が見えた
まさにその時だった。
「 凍り付きやがれ!!」
「危ねッ!!」
妙な声とともに
青白い光がゼクルヴィッスの顔を直撃し──
光が収まるとその顔はひどく青ざめ、
ゼクルヴィッスは像が倒れるように
ドサリとその体を床に仰臥させた。
ミザリーは何が起きたのか
目をしばたたかせていたが、
あたりに漂う冷気と
先ほどアバティがしたことを思い出し
背後を振り返る。
そこには
「あ……やべ……」
と青ざめた顔をしたアバティと
「やっちまったな」という顔のロインが
へたり込んでいたのだった。
ミザリー「助かったが、この様はなんだ……?」
ランシエーヌ「あ、あの時私は何と答えればよかったのでしょう……?」