助太刀に駆けつけて
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──…ちゃん、起きて■■リーお姉ちゃん!!
体をゆすられて少女は目を覚ます。
起き上がると、すぐそばには小柄な少女が
笑顔をこちらに向けている。
寝ぼけ眼をこすりながら少女は何事かと尋ねた。
──■ニョ?なにか、あったの……?
──もう朝だよ?
朝ごはん冷めちゃうから
食堂に行こう!
──もうそんな時間?
じゃあ行かなきゃね……
少女は大きなあくびをしながら服を着替えて、
小柄な少女についていく。
さらわれてきてからしばらくたつのだが、
男や怪物は何か手を出してくることもせずに
ただ普通に過ごしていろというのだから
不思議な話であるとは思う。
そのうえ生活には何不自由なく、
食事も着替えもすべてが支給されている。
誰かが気が付いたらいなくなっていた、
などということもなく、
ともすれば村での生活よりも豪勢なものである。
家族を殺した相手と1つ屋根の下で過ごすなんて、と
言っていた女性たちも
この状況に少しづつだが慣れてきたらしく、
不平不満は初めよりも少なくなってきていた。
少女はふかふかのじゅうたんが敷かれた
廊下を歩きながら、
小柄な少女に小さな声で問いかける。
──あれからは何もないよね?
──うん、大丈夫。
でもなんで■■リーおねえちゃんだけ
寝る部屋が別なんだろうね?
さらわれた初日に寝室に通されたときに、
少女だけがほかの女性たちと別の部屋に
寝かされることになった。
そのことに初めは不安の声が上がったが
その後は何も起きることなく過ぎ、
出入りも特に制限されるでもなかったので
徐々にその声はなくなっていった。
通された寝室はごく普通の部屋であり、
どこか少女の家にも似た造りである。
そのおかげか居心地は悪くなく、
眠りにつくことにも問題はなかった。
──別に特別扱いされてるってわけでもないみたいだし、
ベッドの数が足りなかっただけだったりしてね。
──そうだったら連れ去る人の数くらい
ちゃんと数えておいてほしいよね!
眠る前にお姉ちゃんとお話しできないし!
──ふふっ、そうね。
小柄な少女のふくれっ面に少女は
思わず笑みがこぼれる。
食堂につくと皆思い思いに
食事をしながら談笑しており、
ここが得体のしれない場所だということを
忘れさせる光景があった。
少女たちも提供台の前に並び
食事を受け取ると、
近くの食卓に向かい腰を落ち着ける。
──さてと、いただきましょうか
──うん!
2人は食事に手を合わせて食べ始めた。
食事は魚、肉、野菜と日替わりの献立で
栄養配分も考えて作られており、
このような場所と状況でなければ
もっと美味しく食べられるだろうに、と
少女がぼんやり思っていると、
その腕を小柄な少女がツンツンとつついた。
──ん、なあに?
──実は昨日の夜思ったんだ。
ここのご飯美味しいんだけど、
あの怪物たちが作ってるのかなぁって。
渡してくれる人は普通の人だけど……
小柄な少女の疑問に、
言われてみればそうだと少女も気が付いた。
出される食事はいたって普通であり、
受け渡しをする人物も
自分たちと何ら見た目も変わらない
者がしている。
だが怪物たちを引き連れていた男も
気配こそ恐ろしかったが、
普通の人間と何ら変わらないように見えた。
──もしかしたら、
あの怪物たちだけが
何か特別なんじゃないかしら……
──あっちが特別?
──そう思うってだけなんだけどね?
だからご飯は普通の人が作ってるんだと
思うな。
小柄な少女はその答えに満足したらしく、
何度か頷くと笑顔になった。
──やっぱり■■■ーおね■ちゃんは
もの■りだね!
──ふふっ、ありがとね。
なぜだか聞こえる音がだんだんと不明瞭になってくる。
いったい何だろうかと思っていると、
食堂の扉を開けてあの男が中へと入ってきた。
──申し訳■■ません、お嬢さ■方。
1つお願いを聞■■はください■せんか?
これが終われ■お嬢さん方は
解放されると約束い■しましょう。
男はそう言って、
ざわめく女性たちに一言提案をしてきた。
──お■さん方の中で、
子■■に詳しい方■を募り■■のです……
──なんだってそ■なものに詳しい人を?
さらわれてきたときに男に対抗していた女性が
怪訝な顔で聞き返す。
そうだ、それは村の女性たちなら
したことがあるものは多いだろう。
それが狙いだったのだろうか?
──お嬢さん方に怪物の子を■■■ほしいのです……
その言葉を最後に意識が遠のいていく。
待て、最後に何と言っていたか
思い出したい。
あの男は何と言っていたのだった──?
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「──……ちゃん」
どこかから声が聞こえる。
しかしあの記憶の声とは違うような……
うっすらと目を開けると、
見知らぬ天井がそこにあり──
「……姉ちゃん、大丈夫!!?」
直後ロインが息のかかりそうな距離に
顔を滑り込ませてきた。
「あびゃぁぁ!?」
驚きのあまりにミザリーはその顔を
思いっきりひっぱたいてしまったが、
ロインは顔に手形を残しながら
ほっとした笑顔をこちらに向けた。
「よかッた……
あの野郎は絶対にコロす……」
そうかと思えば鬼の形相になり
ぶつぶつと何かをつぶやく姿を見ながら、
先ほどの状況を思い出し
ミザリーは慌てて飛び起きた。
「そうだ!!
あの男、アバティだったかはどうした!?
それにゼクルヴィッス殿の姿も
見えないが……」
周りを見て姿の見えない人物の名を口にすると、
ロインは床を指さした。
「あいつならあの野郎を追ッて
1階の書庫に向かッたみたいだよ。
部屋の外から『罠の起動した後から見て
1階にいるだろうから先に向かう』ッて」
なるほどと納得したミザリーは、
しかしようやく気が付く。
今、周りを見回したときに、
もう1人いない人物がいた。
「ランシエーヌ殿はどうした?
ゼクルヴィッス殿についていったのか!?」
その問いに、
ロインは首を横に振った。
「俺たちが起きた時には
あの野郎もあの娘もいなかッたんだ」
その先は聞かずとも理解できた。
ゼクルヴィッスはそれを知り
すぐさま飛び出していったろうことは容易に想像できる。
となれば、
自分たちもこんなところで
ぼんやりしているわけにはいかない。
書庫に行って助太刀するべきだと
考えたミザリーは、
立ち上がって体に何も異常がないことを確認し
ロインを促した。
「こうしてはいられない、
余らも行くぞ!!」
「わかッた!!
でも姉ちゃん、俺たちが行ッて
何かできることあるかな!?」
ロインの言葉にぐっと詰まったミザリーは、
それでもと己に喝を入れた。
「足手まといにならなければ
何かできることは必ずある!!
そしてそれは実際に行ってみなければ
わからないことだろう!?」
「なるほど確かにッ!!
さすが姉ちゃんだ……!!
今すぐ行こう!!」
とは言ったものの、
アバティの手のひらから放たれていた
冷気のような何かを使われたら、
太刀打ちできるかはわからない。
だがそれでも何か方法はあるはずだと
ミザリーはロインの後に続いて駆けだした。
主人の部屋の近く、
廊下の一角が扉のように開いており、
その中に階段が続いている。
「ゼクルヴィッスが、
『廊下に隠された階段があッて、
そこから下りれば罠はない』ッて
言ッてたよ、
たぶんこれだ!!」
「うむ、行くぞ!!」
階段を降りきった先の廊下はやはり薄暗く、
右を見ればミザリーたちが難儀していた
玄関口に通じる廊下が見える。
左に進むと小さな扉が連続して並んでおり、
その向こうに一等飾り付けられた扉が
開け放たれている。
中からはすさまじい轟音が響き、
激しい戦闘が起きていることを物語っていた。
「では突っ込むぞ、
覚悟はいいな?」
「任せといてよ姉ちゃん!!
俺が先に突ッ込んでいい!?」
「ええい、
どっちでもいいから行くぞ!!」
ロインとほぼ同時にその扉をくぐった
その先で見たものは──
「死にさらせぇぇぇっっ!!!」
叫びながら両手に槍を振り回す
ゼクルヴィッスの姿と、
「ぎゃああああああああ!!
死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
つーかマジでやめろよなぁ!?
いつかお前のお姉ちゃん巻き込むぞ!?」
涙を流しながら部屋中を飛び回るアバティの姿。
そして──
「坊ちゃん!!
ここで暴れてはご主人様の
蔵書の数々が紙くずになってしまいます!!」
部屋の中央で椅子に括り付けられているにもかかわらず、
本の心配をしているランシエーヌの姿だった。
「こ、これはずいぶんと……
混沌としているな……」
「これさ、俺たち入ッたら
間違えて叩ッ斬られそうなんだけど、
どうしようか?」
本当にどうしようかと
ミザリーたちがまごまごしていると、
ランシエーヌがこちらに気付き、
ほっとした顔を向けた。
「ああっ、よかった。
お2人ともご無事でしたか!
申し訳ありませんが、
この縄をほどいていただくことは
できませんでしょうか?」
「マジでかぁぁぁっ!!
ここで敵の援軍とかマジでやめて!?
オレいい加減死ぬよ!?
何の情報も吐かずに終わるよ!?
明らかになんかお前ら勘違いしてるけど
いいのか!!?」
絶叫しながら命乞いなのか説得なのか
わからないことを言うアバティは、
ミザリーたちのほうに向かって駆け寄ってくる。
──それはすなわち、
追っているゼクルヴィッスも
一緒に向かってくるということであった。
「やぁぁぁっぱり貴様ら
仲間かぁぁぁぁ!!
まとめて細切れにしてやるぁぁぁぁ!!!」
「あびゃああああ!!?」
巻き込まれる形で目標にされたミザリーは
悲鳴を上げ、
対してロインは向かってくるゼクルヴィッスに
敵意をむき出しにしていた。
「なんだてめェ姉ちゃんに手ェ出そうッてか!?
上等だ相手してやるよオラァァァ!!」
「うおっマジで!?
絶好のチャンス到来ぃ!!
悪魔をロリポップ並みになめやがって!!
なけなしの力使って
まとめて葬ってやるぜぇ!!」
かくして、
加勢に来たはずが
アバティ、ゼクルヴィッス、ミザリーとロインという
三つ巴の戦いが勃発したのだった。
ミザリー「あびゃあああこっちに来るなぁぁ!?」
ロイン「やッてやんよオラァァァ!!!」
ゼクルヴィッス「うるぁぁぁぁぁ!!!」
アバティ「ぜひゅー、ぜひゅー……おらぁー!」
ランシエーヌ「えーと、私はいつ解放されるのでしょう?」
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