魔王城最奥の扉
『「ロインっ!!」
ロスの声にも耳を貸さず、
ただひたすら扉をたたき続けているロインに
3人が駆け寄ります。
「お前何考えてっ……!!」
ロスが無理やり扉から引きはがすと、
ロインはうつろな表情でつぶやき続けていました。
「姉ちゃんねえちゃんネエチャンまってていまいくからおれがまもれなかったからおねがいだから
ぶじでいてまたわらってよおかえりっていってよただいまっていわせてよだいじょうぶだっていって
かいぶつはおれがころしつくすから姉ちゃんねえちゃん──」
扉をたたき続けていた手は皮膚が擦り剝け、
血がだらだらとたれ流されていました。
ロスは肩をわななかせると、
こぶしを握り締めて
ロインの顔を殴り飛ばしました。
「ロス殿っ!?」
「ロスさん!!」
驚愕するジョミノとシャトをしり目に
ロインの胸倉をつかみ、
「馬鹿野郎がっっ!!!」
と叫びました。ロインはその声に反応すると
ゆっくりとロスと目線を合わせ─
形容しがたい叫び声をあげて襲い掛かろうとします。
しかしロスは素早く身を捻ると
ロインを背負い投げて床に組み伏せ、
そのまま馬乗りになると
ロインの顔を再度殴りました。
「ジョミノ、抑え込んでくれ!!」
「お、おう! 何か策があるのか!? ならば!!」
ジョミノはその巨体で覆いかぶさり、
暴れるロインを完全に封じ込めます。
そして再びロインの胸倉をつかんだロスは、
そのまま叫ぶように言いました。
「てめぇふざけんじゃねぇぞ!!
さっきオレを励ましてくれた奴が、
あとちょっとのところでイカれちまってどうすんだよ!!
まだ間に合うかもしれねぇんだろ!?
あきらめるには早いんだろ!?
今までの頑張りを神様は決して見ぬふりはしねぇ、
ここまでやってこれたお前には
必ず幸せな結末が待ってるはずなんだからよ!!
こんなところであきらめんなよっ!!」
その目にはうっすらと涙が浮かび、声も震えています。
暴れていたロインはだんだんと動きを
緩慢にしていき、
やがておとなしくなりました。
それを見たロスは目をこすると、
ロインに微笑んで見せます。
「もうひと踏ん張りだぜ。
行こう、ロイン」
その全力の激励に、
ロインの目にも光が戻ったように見えます。
そして一言、
「……ああ、わかったよ」
と、はっきりとした声で答えました。
ほぅ、とため息をついた3人は額の汗をぬぐいました。
「……そろそろどいてくれねェかな」
下からの声にロスとジョミノは慌てて体をどかし、
ロインを助け起こしました。シャトは
すぐに治癒魔法を使い、
ロインの傷を回復させます。
「シャトの治癒魔法があるとはいえ、
ちと危ない橋だったな」
「まさしく。
顔面を殴り飛ばしたときはどうしたのかと思ったな!」
「……はい、終わりましたよ!」
治療が終わり4人は立ち並ぶと、
さてどうするかと腕を組んで考えました。
「ロインはただ扉をたたいていたって
わけじゃないと思いてぇけど?」
「……ああ、扉を開けようとはしたんだ。
鍵でもかかってるのか開かねェんだけどな」
「鍵、か。
ここにくるまでにそんなものあっただろうか?」
「それも確認しないとですが、
いなくなった少女の行方も探さなくてはですね」
シャトの言葉にそうだな、と頷いたロスとジョミノは
八方塞がりだなと頭を抱えました。
シャトが扉に触れながら何とはなしにつぶやきます。
「何か解決法がパッと出てくればよいのですが…」
その時、扉から“ガチャリ”と何かが動く音が聞こえました。
ヒッと息をのんだシャトが慌てふためきながら後ずさります。
「えっ!? えっ!? わたし何かしましたか!!?」
豪華に装飾された扉は
重い音を響かせてわずかながら動き、
そこには腕一本が通る程度の
隙間が空いていました。
「……マジか?」
「お手柄だぞシャト!!」
「何をされたのかな!? 後学のために知っておきたい!」
「盗賊の頭に教えるわけねぇだろ!」
3人はめいめいにシャトを褒めると、
扉に手をかけます。
我に返ったシャトもそれに加わり
扉に手をかけた瞬間、
その目が見開かれました。
「? どうした、シャト?」
それに気づいたロスが尋ねると、
シャトは震える声で答えます。
「この先に、少女が消えた場所と同じ魔力を感じます、
けれど……何か、とてつもない魔力も感じます。
いえ、魔力とよく似てますが、何か違う……
すごい威圧感です……」
「……用心して行こう」
扉を手前に大きく開きその先へ踏み込むと、
そこにあった光景に4人は絶句しました。
──そこにはおよそ20人ほどの女性たちが床に座り込み、
全員その腕に赤ん坊を抱えています。
抱かれていたのは、あの怪物の赤子。
そこにいた女性たちは、村からさらわれた娘たちでした。
「──。」
「な、んと。こんな人数が……」
動けずにいた一行から、ロスが歩み出て
一人の少女の前でひざまずきました。
「──ミニョ……」
その少女はロスの妹、ミニョでした。
先ほどの少女のように体を震わせ、
どこか遠くを見つめています。
「……ごめん、ごめんなミニョ……
兄ちゃん……間に合わなかった……」
ロスは泣き崩れ、その場でうずくまりました。
その姿を見ていたミニョはふと目の焦点が合い、
「…ぉ…ぃ、ゃ……ぁぅ……」
小さく何事かをつぶやきましたが、
その言葉はロスの耳には届きませんでした。
そして女性たちの顔を見ていたもう2人が、
それぞれに気付きます。
「…あっ、さっきの少女もいます」
「うぅむ、ロス殿にはなんだが、
彼女の行方が分かったのはせめてもの救いでしたな」
行方知れずになっていた少女が見つかったことで
1つ肩の荷が下りた思いのジョミノとシャトは
人知れずため息をつきます。
そして一瞬の沈黙が流れたことで、
その一言は自然と耳に入ってきました。
「……いない」
『……えっ?』
ジョミノとシャトが同時に声を上げる中、
ぼそり、と聞こえるかどうかという声で、
ロインが言いました。
「……姉ちゃんが……いない……」