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なきがらの部屋



  『「誰かって、敵か?」



 ロスにだけ聞こえる声で言ったロインは

 静かに剣を抜き、ロスもうなずいて

 戦闘態勢せんとうたいせいになりました。

 

 ゆっくりと部屋のすみに向かうにつれ、

 確かに何者かがそこにいることがわかりました。

 気づかれないよう忍び寄り、

 その姿が見えてくると……



  「おい、待て! 女の子だ、それも人の!」



 ロスの静止にロインも立ち止まり目をらすと、

 たしかに少女が一人、何かをかかえてふるえて

 いることがわかります。



  「すまん、怖がらせちまったな。オレはロス、こっちはロインだ」



 剣を抜いて近づいたことで怖がらせてしまったと思ったロスは、

 優しげに言いながら少女に歩み寄り──


 かかえているものを見たとたん、

 絶句ぜっくしました。


 

  「おい、どうしたんだロス」



 様子がおかしいロスにロインが近づくと

 ロインの目にもその正体がうつり、

 同じく黙り込みました。



  「……勇者様?」

  「ロス殿……?」



 残る二人も怪訝けげんな顔でロインとロスの近くへより、



  「……っ!!」



 少女の“何か”を目撃し、シャトは息をのみました。

 

 ──それはちいさな赤ん坊でした。

 しかし、その姿は人の姿をしていません。


 灰色の肌に2本角、赤くらんらんと輝くそのひとみは、

 この部屋に積まれた怪物とうり2つの姿をしていたのです。


 そのおぞましい姿を見たシャトは、なぜ少女が

 その怪物を守るかのように抱きしめているのか、

 理解できませんでした。



  「どうした、勇者殿?ロス殿に、シャトじょうまで……」

  「……ジョミノ、少し場所代わってくれ……」



 ロインの声が震えていることに気が付いたジョミノは、

 すぐに前に出てロインを後ろに下げました。



  「ロス殿、なにがあった?」



 うつむくロスにこくかもしれないと思いつつも、

 ジョミノは理由をたずねます。ロスはゆっくりと

 ふるえる指で少女をしました。



  「このこ、オレしってるんだ。むらでいもうとのミニョと、よくあそんでた」

  「なんと、知り合いとは。

   ならば無事が確認できてよかったとも言えるので──」

  「ここで死んでる化け物たちの目的はっ!

   女をさらってつがいにすることなんだっ!!」



 ロスの目からは大粒の涙がこぼれ落ち、

 その顔は悲痛ひつうゆがんでいました。



  「この赤ん坊の髪の毛とっっ…

   この娘の髪の毛が全くおんなじ色なのがっ!その証拠だっ!!」



 ジョミノは、なんと残酷ざんこくなことを言ってしまったのかと

 激しく後悔こうかいしました。


 ロスはその場にくずれ落ち、

 両手で顔をおおいました。



  「遅かったんだ……間に合わなかったんだ……

   ひと月はかかりすぎたっ……!!

   オレは……オレはっ……!!」

  「……妹ということは、まさか……」



 ジョミノはその先を口にすることはできませんでした。

 しばらくの間部屋へやには嗚咽おえつのみが響き、

 誰も言葉を発することはできませんでした。


 ──ややあってロスがようやく落ち着くと、

   ジョミノは頭を下げました。



  「申し訳なかったロス殿! 事情も知らず勝手な口を……」

  「いや、何も言わなかったオレたちにも問題はあったんだ。すまん」



 目をこすりながらロスはジョミノに

 頭を上げるよううながしました。

 

 顔を上げたジョミノの目には、

 弱弱よわよわしくも笑うロスの顔が目に入りました。



  「まだミニョを見つけてない、

   可能性かのうせいは捨てやしない。

   ロインも言ってたもんな」



 気丈きじょうにふるまうロスは痛々いたいたしくも、

 まだあきらめてはいないという闘志とうしを感じさせました。


 ロスはロインのようにほほをたたきます。



  「よし、このも被害者だ。

   連れて帰ってやらなけりゃ」

 


 そう言って少女に目を向けたロスは。



  「……え?」



 誰もいない虚空こくうを見て、言葉を失いました。

 部屋の中を見回しても、亡骸なきがらの山をぐるりと回っても、

 少女の影も形もありません。



  「いない!? どこに…」

  「わ、私たち、先ほどここにきてから誰も出ていませんし……!」

  「目の前でかこんでいたのだからどこにも行かないはず!!」

  「シャト!! 魔力の残滓ざんしがないか見てくれ!」



 ロスの指示にシャトが少女のいた場所を調べると、

 確かに微量びりょうながら魔力を感じました。


 

  「魔力の残滓ざんし、確かにあります!

   なにかしらの魔術か、

   魔法が使われたのは間違まちがいないです!」

  「追えるか!?」

  「ここまで少ないと、残念ながら……」



 そこまで話していた時、ジョミノはこの部屋へや

 もう1つの異変に気付きました。



  「おい、勇者殿はどこだ!?」

  「なにっ!?」

  「なにがどうなってるんですか!?」



 混乱する一同はどうするべきかとあわてますが、

 ふとロスは床に血だまりから続く1人分ひとりぶん

 足跡あしあとを見つけました。


 しゃがみこんでみると、くつの大きさと形からして

 ロインのものに違いないと直感しました。



  「くつの後が続いてる、みんなこっちだ!」



 足跡はまっすぐ部屋の出入り口に続き、

 右奥の豪華ごうかな扉まで続いているようでした。



  「あのバカ野郎っ……!」

  「まさか勇者様一人で!?」

  「しまった、あの場で

   一番冷静さを欠いてしまったのは勇者殿だったか!」



 少女の行方も気になるものの、

 どんな行動に出るかわからないロインを放っておくこともできず

 3人は渡り廊下を進みます。


 ──やがて豪華ごうかな扉の形が見えるようになってくると、

 その前で扉をたたくロインの姿が目に入ってきました。




ロス「くそっ、寒い!」


ジョミノ「この時期にしてはずいぶんと冷えますな……」


シャト「今はそれよりも勇者様を!!」

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