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魔王城内部にて



  『魔王城の正門せいもんをくぐり、大広間を進む

 ロインたち一行は奇妙な状況に

 困惑こんわくしていました。



  「変だな……誰も、何もいないぞ」



 先を歩くロインのつぶやきに、

 3人の仲間は各々おのおのの考えを口にしました。



  「おれ達が来たことに気づいて逃げたとか、か?」

  「勇者様の存在を感じて、

   というのはそうかもしれませんね、

   かすかに魔力の残滓ざんしを感じます。

   飛翔魔術ひしょうまじゅつでも使ったんでしょうか?」

  「だとしたらまずい、

   みんなもここにはいない可能性だってある。 

   なんてこった……

   ここまで来たってのに……ミニョ……ッ!」



 ロスのくやな声に、ロインが返事をします。



  「…まだあきらめるのは早いぞ、ロス。

   シャト、魔術の残滓ざんし、ほかにもないか探してくれ。

   それが逃げるためのものとは、まだ決まってないからな」



 ロインが落ち着いた声で話すと、

 ロスは「ああ」と返しました。



  「…それもそうだな。

   すまん、早合点はやがてんだったな」



 大広間を抜けて渡り廊下と思しきところを歩いても、

 あの怪物はおろか魔物一匹にも出会いません。


 ジョミノが拍子抜けだとばかりにぼやきました。



  「魔王城ってのはこんなにも誰もいないところなのか」

  「そんなわけありません。

   きっとこれは魔王の巧妙こうみょうわなです、

   気を付けてください」



 シャトの一言に、確かにそうかもしれないと

 一行は気を引き締めなおし、なおも探索たんさくを続けます。

 

 やがて十字路じゅうじろに差し掛かると、

 左手には木製の大きな扉、

 正面には頑丈がんじょうそうな金属の扉、

 そして右手には長いわた廊下ろうかがまた続き、

 その果てにぼんやりと、豪華ごうかに飾られた扉が見て取れました。



  「さて、どこから行く?」



 ロスの問いにジョミノは左手の扉を、

 ロインとシャトは正面を調べてみようと意見が分かれました。



  「二手に分かれよう。ロインとシャトは正面の扉、

   オレとジョミノが左の扉だ。

   あの趣味しゅみが悪い扉は

   こっち2つを調べてから行こう」

  「よし。なにかあったら大声でもなんでも上げろよ、

   すぐに行く」



 ロスの提案に乗り、2人組ふたりぐみに分かれて

 それぞれの扉へと向かいました。



  「分かれて行動するのは、

   少し早計そうけいだったのではありませんか?

   勇者様」



 訂正ていせいするのも面倒になってきたロインは

 〝勇者〟の名前を流しつつ、

 慎重しんちょうに扉をけました。



  「確かに敵の本拠地ほんきょちだし、

   その可能性も考えてはみた。

   でもここまで何にも出会わないのはいくら何でもおかしい、

   理由りゆうを見つけるのが先な気がしてな」

  「理由りゆう、ですか?」

  「みんなで背後にわざとすきを作っても、

   奇襲きしゅうすらされなかったろ? さすがに変だ」 



 扉をあえて大きく開けて中に入ったロインたちを

 出迎でむかえたものは─



  「ここは……宝物庫ほうもつこかな」



 色とりどりの宝石や金貨、財宝が納められた

 宝物庫ほうもつこらしき場所でした。


 近くの宝箱からは金銀がはみ出しており、

 この箱一つあるだけでも一生遊んで暮らせるだろうほどの量でした。

 

 しかし、ロインたちの目を引いたのは財宝の輝きではなく、

 似つかわしくない妙な異物いぶつでした。



  「……これ、槍、だよな?」

  「槍……だと思います。

   三又みつまたに分かれてますが……」



 それは武骨ぶこつな槍でした。飾り気も何もない、

 おそらく実戦向けに作られた槍。

 それがなぜか宝物庫の中に何本か転がっているのです。


 もしや魔力などを秘めている魔法の武器では、と

 ロインは勘繰かんぐりますが

 シャトが探知しても何も引っかからない、

 正真正銘しょうしんしょうめいただの槍だとわかりました。



  「わかんねェ……なんでこんなもんが宝物庫ほうもつこに?」

  「実はただの忘れ物だったりしません?」



 いっそそれなら面白いとシャトがくすくす笑う隣で、

 ロインはふと、槍の近くに落ちていた宝石に

 目を取られました。


 青く輝く、おそらくサファイア。

 何気なくそれをつまみ上げ──



  「ロイン! シャト! 来てくれ!!」



 外からのロスの大声に顔を見合わせました。



  「何かあったようです!」

  「行くぞ!」



 ロインはさりげなく宝石をポケットに放り込み

 宝物庫ほうもつこを飛び出しました。


 ロスとジョミノが入っただろう木製の大扉が目に入り、

 人1人分ひとりぶん隙間すきまから

 シャトが体をすべり込ませました。



  「何があったんで──」



 その瞬間、シャトの体がこわばりました。

 まさかわなか、と思うロインの視界にロスの姿が入ります。

 それに気づいたロスはこちらに顔を向けて言いました。



  「ロイン……

   呼んどいてなんだが、

   入るなら、少し覚悟しておけ」



 もしや、と頭に血が上ったロインは扉に体をねじ込ませ──


 自分の想像とは違う光景だったことに気づきました。



  「これ…村に来た、化け物たちだよな……?」

  「…ああ」



 そこにあったのは、灰色の皮膚に2本の角、そして──


 もう光を映してはいない赤い瞳の、怪物たちの

 亡骸なきがらの山でした。


 部屋の天井に届かんばかりにうずたかく積まれた

 亡骸なきがらからは赤い液体がしたたり落ちており、

 まるで惨劇さんげきが今しがた行われたのだと

 見るものにうったえかけるようでした。


 シャトが口元を抑えてしゃがみこんでおり、

 ジョミノがその背中を優しくなでています。



  「何か、見つかッたか?」



 ロインの問いにロスは一瞬ほうけていましたが、



  「い、いや。オレたちも今入ったばかりで、何も」



 と答え、部屋の中を見回しました。



  「…ん?」

  「どうした」



 ロスの異変にロインが声をかけると、ロスは部屋のすみを指さしました。



  「あそこ…誰かいないか?」




シャト「うぅ……うぇっ……」


ジョミノ「無理もないですな、あまり見ないほうがいいですぞ」


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