いざ最果ての地へ
『「そんな……姉ちゃん……」
大事な姉を守れなかった、
その失意からロインは膝を折り─
「……ッぐああッッ!!」
─はせず、代わりに落ちていたとがった木片を、自身の足に突き刺しました。
「……今ッ!! 泣き言いッてる場合じャねえだろうが……!!」
ロインは自らを奮い立たせ、立ち上がりました。
木片を抜き、服を裂いて傷口をきつく結ぶと、
倒れている父カルを肩に担ぎ、生存者を探します。
「親父、起きろよ。そうはくたばらねェんだろ…?」
するとカルが身じろぎし、力なくも笑いました。
「へっ……当然だろ……ちと、眠かっただけだ……」
「ロインっ!」
ひとまず広場に向かっていると、
迎は向こうからやってきました。
「ロインお前無事だったん──
お、親父さんやられちまったのか!?」
「生きてるよ。
まずは広場に行きてェ、
みんな集まるとしたらあそこだからな」
「あ、ああ……」
会話もそこそこに広場を目指して歩みを進める
ロインたちの目にやがて広場が見え、
十数人の生き残った村人たちが集まっていました。
「おお、カルんとこの倅!」
「やられちまったんか!?」
こちらに気づき駆け寄ってきた人々に
ロインが答えようとすると
「別に……どうってことねぇ……屁みてぇなもん、だ……」
と、カルが口を開きました。
「さっすがカルだ、殺しても死なねぇ男だよ!」
村人が笑うと、しかしカルが苦々(にがにが)しく口を開きました。
「でも……俺が、不甲斐無ぇせいで、ミザリーが……
娘が、攫われちまった……」
すると村人たちも口々に
うちも、俺んところもだ、と
弱弱しくつぶやきました。
その瞬間です、
広場の中央に光が差し、
やがて不思議な人型の光の塊となりました。
「こ、今度はなんだってんだ……!?」
村人たちが怯えながら遠巻きに見ていると、
光から声が響いてきました。
“奇跡の皆様方。お伝えいたします。
西の地の果て。魔王城より来る悪鬼どもが。
あなた方の愛する者たちをうばいました”
「なんだそりゃ……?」
「まおう、ってのはなんだ?」
ざわめきながら疑問を口にする人々に
ロインは唇に指をあて「静かに!」と言いました。
そして光は続けます。
“奴らの目的はつがいを得ること。
生まれる赤子は。世界を闇へと誘うでしょう。
力を込めた剣を二振り授けます。
どうか奴らの野望を打ち砕いてくださいませ”
そういうと、光の塊から二本の剣が
現れて地面に突き刺さり、
やがて光は消えてしまいました。
誰もが黙り込む中、ロインはそばの村人に
親父を頼むと言って預けると剣に歩み寄り、
そのまま地面から引き抜きました。
「俺は行く!! ほかにいるか!!」
一瞬の静寂ののち、
広場へ向かう途中に出会った生存者、
ロインの友であるロスが歩み出ます。
「オレも行く。妹を……
ミニョを助けに行く!!」
ロインが差し出した剣をロスは受け取り、
2人はうなずきあいました。
「さっさと行って連れて帰る! みんな待っててくれ!!」
そして、村人たちが制止するよりも
早く、疾く、村を飛び出していきました。
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その旅は過酷なものになりました。
様々な街を巡り、
現れた魔物と呼ばれるものらと戦い、
時に新たな仲間と出会い、
果てはドラゴンとも死闘を繰り広げ、
ひと月を数えたころに
西の地の果てにある魔王城へとたどり着きました。
「来たぜ魔王城、見つけるのに手間取ッちまッた」
ロインは村にいたころと比べ精悍な顔つきになり、
体もがっしりとしていました。
すると隣に立つ魔導士の格好をした女性が
いいえと首を振ります。
「勇者様、魔王城の情報を手に入れてから
5日足らずでここまで来たのです、
並大抵の者ではたどり着くはおろか、
探し出すことすらできなかったでしょう!」
彼女の名前はシャトと言い、
駆け出しの身でありながら
すでにほぼすべての魔術と簡単な魔法ならば
操ることができるという、
とてつもない才女でした。
「さすがは光の御子様がお告げになられた方です!」
「確かにここまで来るには相当の実力がいる。
それをひと月でやって見せたのだ、
まさしく勇者殿の力あってこそといえるだろうな!」
ガハハと大男が豪快に笑います。
彼の名はジョミノ、かつては盗賊団の頭領であり、
怪力と悪知恵にかけては右に出るものはいません。
その会話にロインは渋い顔をしました。
「勇者とか呼ぶのやめろよ、それ。
俺はそんなタマじゃないし、呼ばれる筋合いもない」
「かもな。でも結果的にそうなる可能性は
なくはないかも、だろ?」
友人のロスが茶化すように言いました。
ロスはたゆまぬ努力の結果
いくつかの魔術を操れるようになり、
総じてロインたち一行は並外れた力を持つ、
この地でも指折りの実力者パーティとなっていました。
ロインはロスの言葉に「どうだかな」と答え、ほほを両手でたたきました。
「ここが正念場だ、
ここを攻略すれば全部片が付く。
姉ちゃんを助け出せるんだ」
気合を入れなおしたロインは
「行くぞ!! これで終わらせるッ!!」
と叫び、3人も『おうっ!』と答えると
最後の地、魔王城へと踏み込みました。
──その姿を、遠くから人型の光の塊が、
静かに見つめていました。
ロイン「結構寒いな……姉ちゃんたち凍えてないかな」
ロス「急ごうぜ」