見つけたものは
「さて、お嬢サン方にはどの服が似合いやすか……」
「ホントどれがいいでしョうかね? このお店普通の
洋服からドレスまで幅広く取り揃えてますから!!」
服を選ぶことになりさっそくと張り切る店長とピント、
それに対しロインとミザリーは少々苦い顔をしていた。
結局断り切れずに選ぶことになったが、見回せば確かに
見慣れた形のシャツからワンピース、そうかと思えば
初めて目にする形容の服までさまざまである。
その中には確かに華やかに織りあげられたドレスまであり
本当に色々と取り揃えている様だ。一介の店で
ありながらここまで品数を扱っていることには
驚きを隠せないが、問題は2つある。
「どれをとッても青色しかねえのがな……」
「そうなのだよな……」
1つ目は色の問題。店の名前〝ブルーマン・ショップ〟
──ピントに教えてもらったが〝青い襟の人〟からとった
名前らしい──の例にもれず、何もかもが青い。
店の内装やランプ、棚に至るまで青ければ
商品もすべて青一色に染まっているのである。
そのせいでつい先ほどひどい目に
あった訳だがそれを抜きにしても青しか選ぶものがない
というのは、あまりにも選択肢が少ないのではと
ミザリーは思う。
そして2つ目の理由、これはミザリーの
個人的な意見なので無視してもいいのだが、思わず口にした
のがロインの耳にも聞こえてしまったのだ。
「姉ちゃんにとッての最大の問題がねェ、デカすぎるんだよね……」
「どれもすごく値が張る……」
棚や壁に掛けられた服、ドレスのそばには値札がついて
いるのだが、そこに書かれた値段がどれもとんでもない
数字になっている。
「こ、このシャツ一着で7000Gする……」
「これ一着の値段で宿に2人一泊できて金があまるとかさ……」
「あびゃあああ……」
「おい、お前らさァ」
ミザリーはうつろな目をしていたが、ロインがピントたちに
尋ねる内容が耳に届きそちらに神経を集中させる。
「なァ、これってよ…もしかしてすッげェ頑丈だッたり
しないか?」
「いえ、ただの布製ですんで柔らかいですね」
「もしかして着たら魔法みてェなものが使えたりとか」
「ありやせんぜ」
「水に濡れずに済んだり燃えなかったりィ、なんか特別な
能力があッたりとかよォー!!」
「ひとッつもありませんねェーッ!!」
届いた言葉に希望は何もなく、ミザリーは目の前にあるものが
正真正銘ただの服であると理解させられてしまった。
「あびゃあああ……」
ミザリーはふらふらと歩きだし、棚のない中央の通路をどこへと
知れずに進んでいく。
「あ、姉ちゃん!どこ行くの!?」
目的もなくただ歩き続けるミザリーに心配そうにロインは
ついていく。ミザリーは棚へと目を移していくがどれも
先ほどのシャツを下回る値段ではなく、むしろ奥に行くたび
値上がっている気がする。
「あびゃぁ……」
「姉ちゃん……」
ミザリーのあまりの姿にロインはそっと目頭をぬぐった。
やがて店長ダニエルが出てきたあたりまで歩いてくると
ミザリーは何気なく右側へと顔を向ける。
視線の先には勘定を済ませるためと思える
机と同じく青い棚、
──そして、〝それ〟がミザリーの目に飛び込んできた。
「……なあ、貴様」
「なに? 姉ちゃん」
「あれは、余にしか見えていないものか……?」
「え? どれのこと─」
ロインが同じ方向をのぞき込むと、同じ光景が目に入ったの
だろう。
「──あれのことかな、姉ちゃん」
「うむ、多分それだ」
そういうと2人は連れ立ってそちらへと歩いていき、〝それ〟
を確認した。
「う~ん、あれもいいですしコレも捨てがたいですねェ」
「そうでやすね……おや、お嬢サン方の姿が見えやせんが」
「え? あれッ!?」
夢中で服を選んでいたのだろうピントとダニエルが2人が
いないことに気付いたようで慌てて声を上げている。
「ミザリーさ~ん!! ロインさ~ん!! どこですかー!?」
「奥のほうはドレスもありやすが年配者向けのものが多いんで
こちらのほうがお嬢サン方には似合うと思いやすが」
その声のするほうへとミザリーは駆けていき、店の入り口
付近でピントたちの姿を見つけた。
「あ、ミザリーさんいました!どこに行って──」
「すまないがダニエル殿!! 奥にあった服について
聞きたいのだが!!」
「奥の服、でやすかい」
「うむ!!」
ミザリーはダニエルとピントを連れて今しがた出てきた棚の角
曲がると、勘定机へと向かっていく。
「え? ミザリーさん、こっちお会計済ませるレジですよ?」
「──もしや」
ダニエルが何かに気付いたらしいがミザリーは気にせずに
進んでいき、やがて勘定机に着くと、ロインがそこで体を
ふるわせて待っていた。
「ああ、姉ちゃん帰ってきた!!
姿見えなくなって心臓が
バクバクといってたよ……」
「すまない、待たせた!」
ピントが首をかしげていると、ダニエルが前に出て話し始めた。
「お嬢サン、もしやと思いやすがそこにある服に興味を
もたれたんですかい」
「そうだ。着色されておらず値札もついていない、
しかし余の心を惹きつける〝これ〟は何なのだ?」
ミザリーは手を上げて、勘定机の横の壁に
無造作にかかっている
2着の無地色の服を指し示した。
ミザリーが見つけたのはまさに
偶然だった。
ただ何となく顔を向けたところにちらりとこの服が
見えたのだ。そのまま吸い寄せられるように近づいて行った
ミザリーは、一瞬でその服の虜になった。
「あれなんです? 見た目はデニムの上下そろいの服ッぽい
ですけど、あんなのこの店で扱ッてましたッけ……?」
ピントの疑問にダニエルがため息を吐きながら答えた。
「見たことなくて当然でさぁ、こいつはわたしが趣味で
拵えたデニムジャケットの上下の揃いになりやす」
「へ? 趣味?」
素っ頓狂な声を上げながら聞き返すピントにダニエルは
頷いた。
「はい、お客の相手も最近はなかったもんですから手慰みにと。
しかしお嬢サンたちに見つかっちまうとは……店に
置かずに奥へ放り込んでおくべきでやしたね」
「何を言う!」
ダニエルの否定的な声にミザリーは声を上げた。
これを、この服を悪しざまに扱うなどとは。
「この服は素晴らしいものではないか、単純な形にして
一切の無駄を排した造形美を感じる。
華やかさとは無縁だが機能に即した美というものがある!
なぜそれを悪いもののように言うのだ、そなたの作というなら
胸を張れ!これは本当にいいものだ!!」
「横からいうようであれだけどよ、俺もこの服は凄ェと
思うぜ。触らしてもらったけどめちゃくちゃ頑丈そうで
安心感がある。これが俺たちの世界にあったなら間違いなく
誰もが欲しがる逸品だと思うね」
後ろからロインの援護も聞こえてきてミザリーはしきりに
首を縦に振る。ダニエルはその様子をしばらく黙って
見ていたが、やがて力みが抜けたように笑った。
「参りやした、そこまでわたしの服を褒めていただけるとは。
承知いたしやした、その服でよろしければお譲りいたしやす」
「えェ~ッ!? ほかにもいッぱい素敵な服があるのに
いいんですか!!?」
ピントの抗議にミザリーは眉を顰める。
「今言ったとおりだ、この服は素晴らしい、余はもらえると
いうのならこの服がいい」
「というわけだぜピント。姉ちゃんの言うことに頷け」
「うゥ~ん……」
しばらくの間ピントはうなっていたが、やがて諦めたように
笑った。
「わかりました。ミザリーさんがそこまで言うなら、
納得します!」
「うむ。感謝するぞダニエル殿、ピント!!」
ミザリーはこの世界にきて初めて、心の底から笑ったのだった。
ミザリー「うむ、この服は素晴らしい……」
ロイン「へェ、ちと触ってみよ…うわ分厚い!凄ェ!!」




