宿を出た行く先に
「……むぅ……」
「ごめんなさい姉ちゃん!!ごめんなさいッ!!」
宿を出た3人は連れ立って歩いていくが、出たときからミザリーは
むっすりとし、ロインはひたすら謝り倒している。
なにせ先ほどやってきたピントに「お前を殴る」と言い放った上に
即座に実行に移そうとロインが腕を振り上げたからである。
幸いミザリーが慌てて間に飛び込んだために未遂に終わったが、
「恩人に何をするのか」と
しっかり怒られたロインはただただ謝るだけだった。
「まァまァ、お2人とも喧嘩はよろしくな──」
「てめェは黙ッてろ」
「あひえェェェ……」
凄まれたピントはしおしおと顔を前に向け二人の先を歩いていく。
「また貴様は……」
「ああッ!? ごめんなさい姉ちゃん!!」
「……むぅ」
ミザリーは顔をしかめるもそれ以上強くは言わない、いや言えなかった。
今回の原因としては『事前に話す場所を聞いておかなかったミザリー』と
『シュザイ場所を伝え損ねていたピント』に非がある。
ロインがそのことに腹を立てているのだろうことは想像がつき、あまり強く
いうことはそれこそ“どの口が言うのか”になってしまうのだ。それでも
暴力に訴えることは止めるべきなので、ミザリーはその点に関してだけ
怒っているのだった。
「……余が言えた義理ではないが、もう少し考えてからな?」
「わかッた、よく考えてみるよ!! そのうえでこいつは殴るかも
しれないけど!!」
「だからそれをやめろとなぁ……」
もはや何度繰り返したかわからないやり取りをしながらミザリーとロインは
先導するピントへとついていく。
何度言っても「殴る」結果は変わらない
ロインの発言にミザリーは頭を抱えていた。ならばいっそここは話題を
変えるのが正解だろう。
「うむ、あれだ。だったら話は変わるが、余の姿と貴様の姉の姿は
そんなにも似ているのか?前々から気になってはいたのだが」
「何言ッてるのさ姉ちゃん。似ているどころか髪の色以外姉ちゃんだよ?
もし似てるだけの他人だッたら俺はこの腹掻ッ捌いてもいいね!!」
「なぜ行動のあちこちに物騒な考えが出てくるのだ……まぁとにかく
そんなにもか。貴様は家に帰ろうと言っていたが、余は貴様と住んでいた
記憶はない……はずだ。だから貴様の家族にでも会えばその記憶が
正しいかどうかわかるだろう、今度会いに行こうではないか」
「よし!! 姉ちゃんが帰ってきてくれるならこれで何もかも丸ゥく
収まるね!! 俺たちの長かッた旅も報われるッてもんさ!!」
相変わらず曲解して受け取るやつだなと思いながら、
とりあえず話は逸らせたとミザリーは安堵した。
あとは何とかしてロインを説得してピントへの
敵対心をそがなければならない、
ミザリーがそう決意した瞬間──
「おお、楽しそうな話ですね! 朝みたいに忘れないようメモッと!!
でもまさかミザリーさんがあそこまで“泣きみそさん”だったとは思わず─」
「てッめェいい度胸してんじャあねえか。自分からその話蒸しかえす
とはよ……おまけに言うに事欠いて姉ちゃんを“泣きみそ”ッて呼んだか……?」
「あひえェェェ……」
まさかピント本人がその話を言い出すとは思わず、ミザリーは片手で
目を覆って天を仰いだ。
「神よ……!」
「ほら見ろ! 姉ちゃんがまいッちャッてるじゃねえかッ!!」
「えェ……神への反逆者じャなかッたんですか……?
あ、何でもないです! 殴らないで!!」
「おおい貴様ちょっと待てっ!! 今のはあれだろうピント! な!?」
再びこぶしを振りかぶったロインの体に慌てて組み付いたミザリーは、
とにかくなにかないかと頭を絞り、そしてひらめいた。
「そ、それで余らはどこに向かっているのだ!?そろそろ話してくれても
いいのではっ……!?」
対症療法でしかないが、
再び“意識を別に向けさせる”ことが最善手と
考えてロインも関心がありそうな話を振る。
ピントもただやみくもに町を
歩いているわけではないだろうから、この話題はうってつけだ。
「あ、はい……えーとですね。ここ、なんです」
ピントはそう言って、こちらを向きながらなぜか遠慮がちに左手で
ある建物を示した。
『ここ?』
なんとかおとなしくなったロインとともにその手の示すほうへと顔を
向けると、にわかには信じがたい光景が目に飛び込んできた。
「おい……なんだここ……」
「ぴ、ピント……本当にここが目的地、なのか……?」
「はい、そうです。取材をする前にどうしても会わせたい方がいまして」
はにかみながらこちらを見るピントに、ミザリーはどう答えたものか
迷った。今自分たちが来ている建物は周りを見回しても造形は普通の
建物である。
──なにもかも青一色なことを除けば。
「な、なぜこんなにも青いのだ……?」
扉も、窓も、窓から見える内装やランプもすべてが青一色であり、
見るものに妙な威圧感を与える。ともすればランプに灯っている
炎の色まで青いのではないだろうか……?
「やべ……俺見てるだけで鳥肌立ッてきた……」
「余もなんだか気分がすぐれない気がする……」
「だ~いじョうぶですよ!! 中に入れば意外と快適かもですよ?」
ピントは笑いながら二人の背中を押して青い建物の中へと
押し込もうとしてくる。
……これはまずいのでは?
「ちょっとまてっ、ピント、さすがにここは少し遠慮したいとっ!!」
「おいてめェ! 待てッて姉ちゃんが言ッてるじャ……!!」
「ま~ま~大丈夫ですから!! 変な所じャないですし!!」
ピントのどこにこんな力があるのかというすさまじい勢いで背中を
押され──そのまま扉に押し付けられる。
「頼む、待ってくれ!せめて扉を─」
開けさせてくれ、と口にする前に押した扉が内側に向かって開き、
中へと押し込まれてしまった。
「っと、おお……これまた珍しい扉だ……」
「それよりも姉ちゃん、中に入ッちャッたよ、強行策で出る?」
「……いや。ここまでピントが会ってほしい人物がいると言っているならひとまず
会ってみてから考えてもいいかもしれないが……」
それに頷いたロインにミザリーも
強引に押し込まれた理由を知りたいとピントを見た。
「ありがとうございます!!それじャ、改めまして─」
ピントは姿勢を正すと、こちらへ深くお辞儀をした。
「〝ブルーマン・ショップ〟へようこそ! 当店の店長さんにお会いして
いただきたいのでご案内しますね!」
ミザリー「ひとまず落ち着いてはくれたようだな……」
ロイン「あ、やべ……寒気してきた……」