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ただいままでの帰り道 ~魔王と異世界に放り出されたので家路を目指します~  作者: ふじきど
~第1章~ 本当の異世界・空飛ぶ島の冒険
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”忌神”



  「〝いみがみ〟ぃ~?

   聞いたことないんだけど何なわけよそれぇ~?」

  「おいてめェハイジとか言ッたなァ……やたら馴れ馴れしいんだよ、

   姉ちゃんの話は五体投地して聞きやが──」

  「ロイン。この話が終わるまででいいから、

   口を閉じていてくれないか?」



 姿勢正しく正座をしながら口を真一文字に結んだロインを見て、

 満足して頷いたミザリーは周囲を見回した。



  「と、あたかも知りえているというような言い方をしたが……

   実のところ〝人に凶運をもたらすモノ〟という以上のことは

   知らなんだ……」

  「あっ、あっ!それならアタシが少しばかり話せるっすよ!」



 溌溂とした笑顔で手を挙げた少女、アベースに一斉に視線が集まると、

 アベースはこほん、と咳払いをして話し始めた。



  「忌神っていうのは四柱推命しちゅうすいめいっていうものに出てくる用語っす。

   陰陽五行って聞いたことないっすか?

   陰陽五行いんようごぎょうは世界に存在する物体の

   〝属性〟を表すモノっす。

   光である〝陽〟、闇である〝陰〟。

   それと木、火、水、土、金属の5つで、

   世界は合わせて7つの属性から成り立ってると

   考えられたものなんすよ」

  「陰陽太極図って聞いた事ねぇか……?

   白と黒の勾玉みたいな形が2つ合わさって、

   円になっている奴だ……

   白が光を、黒が闇を表してんだよ……

   五行は一筆書きの星形に属性が配置されてんだ……」



 少女の説明をアバティが補足するように

 空に線を描く──その形はミザリーにも覚えがあった。

 五芒星と呼ばれる五つの頂点を配した形だ。


 それにしてもあの勾玉2つの円をそう呼ぶのか、と

 ミザリーが得心し頷くと、ハイジが横から口をはさんだ。



  「属性なんていったら、

   RPGに代表するゲームの基本じゃあないのよさ~?

   水は火に強くて~、火は木に強いってやつじゃな~い!!」



 アベースは「そういうもんなんすか?」と

 怪訝な顔で他の面子に尋ねるが、ミザリーには

 そもそも〝ああるぴぃじぃ〟とやらが何なのか

 皆目見当もつかない。


 ──しかし、知識というものは意外な人物が

 持っていることもある物で

 その言葉に反応したのは警備隊隊長、コールだった。



  「〝げーむ〟っていう単語には聞き覚えがあるなぁ、

   なんだっけ……物語の主人公になりきって遊ぶっていう

   ものらしいんだけど」

  「そうそうそれっすよ……

   俺っちもよく遊んでたなぁ、

   ガキの頃に主人公に自分の名前つけてさ……

   ──ん、でもゲームで知ったのは大体四属性……?

   火・風・水・土のさ……なんで金属……?」

  「四属性は〝とある神様の宗教〟が広まったせいっすかね?

   〝4〟っていう数字は世界を表す数字とも言われているっす。

   多分そこから〝エンペドクレス〟って概念も

   わかりやすく浸透したんじゃないかと思うんすけど──

   そこはこんがらがるから、頭の中からえいっしちゃっていいと思うっす」

  「ん、え?エイがどうしたって?」

  「リュウジ殿、そなた少し寝ていたのか?」



 やや呆れた様子でリュージを見つめたミザリー、

 そこにハイジがどんよりとした雰囲気を纏わせながら

 話しかける。


  

  「はいそこ注目ー……今はあのお嬢ちゃんが喋ってるんだから

   話は聞きましょうねー……」

  「……なんかコイツに注意されんの腹立つな……」

  「しかし待て、実際のところ話の腰を折ってしまっているのは

   余らが理由のようだ……」



 気が付けば静かにこちらを見つめている一同の目線に、

 リュウジともども口をつぐんで話を聞く体制になった。



  「じゃあ話の続きっすけど、世界は7つの属性で成り立ってる──

   ここに関わってくるのが、用神ようしん喜神きしん忌神いみがみ仇神あだがみ閑神かんじんっていう

   要素っす。

   神って名前についてるんすけど、どちらかと言うと

   そこに起こる〝現象〟みたいな感じっすね。

   アタシたち悪魔でも簡単には介入できないような、

   世界の現象──そのうちの1つが〝忌神〟と呼ばれる存在なんっす。

   もっと詳しく説明すると凄い時間がかかるっすから、

   〝忌神は人に害をなす現象そのもの〟

   これだけ覚えていればいいと思うっすよ」

  「いやそれ言っちゃったらぁよー!!

   嬢ちゃんの説明3行半くらいで済む話だったんじゃねぇーのって

   俺ちゃん思う訳よ!!」

  「……はっ!?言われてみたらそうっすね!?」



 頭の後ろを掻きながらぺこりと頭を下げるアベースに

 周りが笑う中、コールだけは渋い顔を浮かべていた。



  「Oh meine Güte……世界の現象そのものかぁ……

   人が太刀打ちできるようなものじゃ

   なさそうなのが怖いところだけど、それでも僕らは

   これからも増えるだろう異世界からの流入者は

   取り締まるしかないな……」

  「マジデジマ!?俺ちゃんも取り締まられちゃう感じ!?」

  「いや、アンタは即刻取り締まられるべきだろうがよ……

   寄りにもよって悪魔の俺に憑りつくなんざ荒業披露しやがって……」

  「HEY!YOUー!!それを言っちゃあお終めぇだYO!!」

  「ホント、アンタの頭ン中どうなってんだ……?

   悪魔を翻弄すんじゃねぇよ……」



 ハイジを横目でにらむアバティは、溜息を吐きながら

 コールに目を向けた。



  「俺はただ単に召喚されてここに来ただけだ……

   おまけに誰に召喚されたのかわかりもしやしねぇ……

   この場合の召還は〝この世界に一番最初に呼びだした奴〟のことだ、

   そこの中年太りやろうじゃない事だけは確かだがな……」

  「中年太り!?お前失敬だな!これは飯が美味くてなっただけで

   望んでなったんじゃ──」

  「太っちょはみんなそう言うもんだろ……

   わかんなくはねぇけどな……」



 流石は悪魔という所か、傲岸不遜な態度のアバティに

 周りは苦笑しつつもミザリーはふと気になった。

 

 アバティを召喚した人物は、何が目的で彼を呼んだのだろう。

 加えて、今回はアベースという少女まで帯同している、

 アバティのみでは駄目だった理由があるのだろうか。


 ──そしてアバティのことを考えて、もう一つ思い出したことがある。

   アーヴ・ラーゲィでの最後の出来事、

   亭主殿に半ば無理やり渡されたあの板切れのことである。



  〈すぐに使いこなせる奴は嬢ちゃんたちの味方だ〉



 今だ胸元で温められている板切れこれを、

 いつ出したものかと考えて、今は止めることにした。


 今、この場に居る者達のことを信頼しきれない自分がいる。

 それは恥ずべき猜疑心さいぎしんか、信頼すべき警戒心なのか、

 せめてロインと2人だけで話す機会が欲しかった。






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