異能力者 アワタグチ・ハイジ
とりあえず、何か深刻な誤解が生まれていると
ハイジを説得し、コールは全員に武器を下げるよう指示を出した。
「──もし話し合えるのならば、話し合おうじゃないか。
話を聞いた限り、君は悪魔に乗り移って散々暴れ回った挙句
船から逃げ出したらしいんだが……そこまでは合っているかな?」
「そうっすね~、その通りでございますです!
あ~ん、そこまで知られちゃってるなんて俺ちゃん
有名人すぎじゃ~ン?」
アバティに憑りついていた時と変わらない、妙に掴みづらい人格に
ミザリーはあまり関わりたくないなと思ってしまった。
「それで、拷問をされて色々と吐いたと言っていたが、
その時の情報を聞けていなかったと聞いたぞ。
拷問を担当したのは誰なんだ?」
「俺と、コイツ」
ロインがリュウジを指さしながら不貞腐れた顔で言うと、
コールは鎧の中に居る故顔こそ見えないものの、
明らかに不思議そうな声で尋ねた。
「──その、何で2人はそんなに不貞腐れてるんだ?」
「こいつが〝教会〟に関わッてなかッたッてことで、
手に入れた情報が只の個人情報に成り下がッたからだよ……」
「俺はこいつの八つ当たりに巻きこまれて抓られたからです」
「その程度のことで拗ねないでください!!」
「そうですよ~……俺っちみたいに常に前向きに行きましょうぜ~……」
「全っ然前向きには見えねぇな……」
「むしろ根暗に見えるっす!」
思い思いに話している割に、意外と打ち解けているように見える
その様子にミザリーはハイジは思っているよりも
分かり合える相手なのかもしれないと感じた。
そして、同時に思い出した疑問があった。
あの時アバティに憑りついていたハイジは、
〝自分を呼び出した相手を探していた〟と言っていたはずだ。
「少し良いだろうか?
初めに出会ったときに、ハイジ殿は〝自分を召喚した相手を探している〟と
言っていたが……あれは何故だ、悪魔として擬態する為か?」
「い~い質問じゃんよ!そうね、答えてあげようじゃあ~ないの!
最近大通りに空から落ちてきた調理台キットがあったじゃん?
あれを最近〝教会〟の連中が使っているのを見かけてよぉ、
そんなものを落っことす間抜けがいるもんだと思ったわけなんだけど。
その時一緒に思ったわけよ、あれ、誰かへの〝合図〟なんじゃないかってな」
「合図?」
言わんとしているところがまだわからず、
ミザリーが怪訝な顔をしているとハイジはさらに続けた。
「いつも持ち歩いているものをわざわざ壊す理由、
〝Broken〟を意味する暗号じゃないかって思っちゃったわけよぉ~」
「ブロークン……〝不完全〟っていう意味か?」
リュウジが横から補正すると、ハイジは酷く嬉しそうに両手で指さした。
「ザッツライト!!何かが不完全な状態でこの世界に存在してるって
意味じゃねぇのって思う訳よ!!
そしてその瞬間に出会っちまった主なしの召還悪魔。
こいつは無関係じゃあねぇぜ……ってなわけで、
この悪魔ちゃんが再び召喚される時を待っていたわけよぉ~!!」
「随分と迂遠な理由で余らは邂逅することになったのだな……」
あの時調理台をロインが放り投げて捨ててしまった事が、
巡り巡ってハイジと出会うきっかけを作ったことになった。
世の中何が起こるかわからないとは言うが、
まさかここまで紆余曲折を経た出会いに繋がるとは。
「そんで?俺ちゃんを呼んだはずのあのお姉ちゃんはどこに行ったわけ?
確かに悪魔のお兄さんの能力は凄かったですよ……
でも流石に命を落とすことになるような傷は負ってなかった筈ですけど……」
元気のあり余った声から一転して沈んだ声になるせいで、
ハイジの精神状態がよくわからないが……
ともかくズィーリエのことを心配はしているらしい。
……その割には『凍て殺す』などと物騒なことを言っていた気がするが……
「ズィーリエさんでしたら貴方との戦いと
その後に起きた〝教会〟とやらの強襲揚陸艇の襲撃で体力を消耗し
入院するために搬送中です!!」
「マジっすかぁ!!場合によっちゃあ始末するべきかと思ってたけど、
真実を知っちまった俺ちゃんは姐さんを送り届けることになる感じですわぁ~!!」
ズィーリエへの誤解が解けたことでホッと一安心したが、
それはつまり今後、ハイジが行動を共にすることになることを意味する。
タダでさえ側に居るだけで疲れるロインがいるというのに、
ここに来て更なる心労の原因が増えることになるとは……
国境執行隊に任せてしまうという考えも頭を過ぎったが、
一度でも関わってしまった相手に何もしないというのも
上に立つ者として放っておくことは出来なかった。
「──しょうがないな、それじゃあズィーデン島までの
同行を許可しようじゃないか!!」
「有り難き幸せッス!!恩に着ますッス!!
んで、ちょっと気になってんだけどよぉ~……」
ハイジは大風が吹き込んでくる船の壁を指さした。
「さっきから寒いんですわ、あれ何とかしてくださらない?」
「──しょうがないな、塞ぐ板も何もないし。
マウルタッシェンの機体を置けば少しは風除けになるだろう」
マウルタッシェンを足を投げ出すような座らせ方をしたことで、
背中が壁を塞ぐ形になり風の流れが止まった。
流石にそのままではコールは身動きが取れないので、
マウルタッシェンから下りることになったのだが、
ポムスがやけにコールを重点的に守る体制に入る。
「ポムス殿、何をしているのだ?」
「そこのハイジという者、まだ完全に信用しきったわけではありません!
ともすれば、この国の第三皇子であるコール隊長を狙う可能性すらあります!!」
「悪魔だっていう俺を狙ったようにな……
どんなことするか想像がつかねぇぜ……」
「兄ちゃんに憑りつくだなんて、とんでもない奴がいた者っすよね!」
「ふふっ、そうか。確かに国の第三皇子だなんて存在が居れば警戒もしよう」
「えぇ~!?俺ちゃん今のこの体が随分と馴染むからさ、
他にはもう移りたくはないんだけどねぇ~」
「それなら安心じゃないか!!問題なし問題なし!!」
全員で大笑いし合った後、気持ちいい気分に浸りながらとある事実に気が付いた。
『この国の第三皇子ぃ~~~~っ!!?』




