謎の少女の襲撃
「んがぁっ!?何だってんだ!!
悪魔が気持ちよく寝てるって言ってるだろうがっ……!!」
「むにゃあん!?んあっ、何っすか!?
なんで船の中なのに風が吹き荒れてんすか!?」
暴風が吹き荒れる船は、あまりにも簡単に姿勢を崩してしまうほどに
容易く揺れる。
眠りこけていたアバティ達も椅子から振り落とされて、
「誰がやった!」と目尻を吊り上げている。
「あの子たちは……人間じゃない?
でも今はそんなこと、どうでもいい」
少女はロインとリュウジに目を向けて、手を差し出した。
「わたしは〝教会〟からやって来た。
教会は貴方達のような異能を持つ方々が集まっている場所……
教会に居なかったところを見るに、貴方達ははぐれ者……
教会に来れば貴方たちが求めることが、物がすべて手に入る」
「ま、マジっすか!?お金も好きなほど手に入る!?」
リュウジの目の色が変わり、少女に詰め寄る。
その反応に少女は柔らかな笑みを返して、「はい」と頷いた。
「貴方が求めれば、どれほどの大金だろうと手に入る……
教会にはそれだけの力も、資金力もある。
どうか一緒に来てくれない……?」
ミザリーは何故だか嫌な予感がした。
彼女の言葉に耳を貸してはいけない、その言葉には
甘い誘惑が漂っているが、その奥底に感じるのは得体の知れない気配。
ともすれば、あの肉塊にも通じる様な異様な雰囲気を感じる……
「そっちの貴方はどう?
一緒に来て貰えると、わたしはとても嬉しい……」
笑いかけた少女に、ロインはミザリーを手で示して言った。
「それはもちろん、姉ちゃんも連れてッてくれるんだよな?」
少女はミザリーを一瞥すると、溜息を吐いてロインに笑いかけた。
「あの人は駄目よ、わたしに敵意を抱いている。
〝教会〟という呼び名にもなんだか嫌悪感を示しているわ……
そんな人は連れて行けない、だから──」
「〝教会〟ッて名前を聞いていい顔するわけねェだろうがッ!!
他人をゴミみてェにあッさり始末するような連中相手に
着いてく奴の顔を見てみてェよッ!!」
そういうや否や、ロインは少女の顔めがけて拳を振るっていた。
その拳は少女の顔にめり込むと思われた、が……
「がァッ!!?」
奇妙な叫び声と共に、ロインの手が明らかに曲がってはいけない方向に
曲がろうとしていた。
「ひぇっ──」
リュウジが情けない悲鳴を上げる間に、ミザリーは
その少女に駆け寄り、左拳を振るっていた。
「喰らえっ!!」
「喰らうとでも思っているの?」
少女が手を振るうと、ミザリーの手もロインと同じように
捻じれるように曲がっていく。
ひどく痛みが走る、届くわけがなかった。
──だが、これで見えているのは今、ロインとミザリーだけの筈。
「っ……!!今だっ、ポムス殿!!」
ミザリーが腕が捻るのも構わずに身を逸らすと、
その背後で〝じゅう〟を構えていたポムスが、号砲を轟かせた。
「っ?!」
少女の目に明らかに動揺が走る、届くか──!!
しかし少女はかすり傷ひとつ負うことなく、〝じゅう〟による
攻撃は外れることになってしまった──
背後から再び凄まじい轟音が響く。
なんだ、とそちらに目を向けると、ポムスが
〝じゅう〟を構えたまま再び攻撃をしたのだと分かった。
耳の側を空を切るような音が掠めていき、
すぐ側で小さな悲鳴が上がる。
顔を再び少女に向けると、その腕から鮮血が流れていた。
「っ……なんでっ、弾除けの呪文は唱えたのに──」
「貴女は私の目を見ましたね!その際に私は告げました!
〝弾を決して避けるな〟と!!貴女に聞こえずとも、私の能力は
しっかりと届くんですよ!!」
「何すかそのチート!?とんでもないですね!?まぁ──」
少女の背後から声が聞こえてくると、その背に淡い光が浮かんだ。
「俺の異能も、全く負けてないですけどねっ!!
〝思考性推理〟っ!!」
「リュウジ殿!?」
先程の反応からして少女に着くと思っていたのだが、
まさかの援軍がここにやって来た。
「はッ!!てめェはこの女にあッさり靡くと思ッてたんだけどな!!」
「あんだけビビらされること言われたら、
絶対にこいつにはついて行かねーってなるに決まってんだろ!!」
やや情けない理由だったが、それでもリュウジが味方に付いてくれたのは
間違いなく心強い一面だった。
相手の弱点を必ず見抜ける能力が敵に回ってしまっていたら、
この先常に劣勢に立たされていただろう。
「なんで、〝教会〟に付けば必ず成功が待っているのに……!
なんで、それをドブに捨てるような真似をするの……!」
「悪いんだけど、俺は俺以上に簡単に人を見捨てるような連中が嫌いでね!!
そういう連中相手にするのは時間の無駄でしかないから、
全部突っぱねてるんだわ!!」
「理屈になってない……!」
少女はロインの手を捻じ曲げるために向けていた手を、
リュウジへと向けた。
「おい!!こいつの能力が分かったぜ!!
異能の名前は〝魔術師の極致〟!!
……おいおい、殺した相手の魔力を取り込んで魔法を使用するとか、
外道の極みみてぇな能力してやがるな!?
そしてさっきの強襲揚陸艇を爆弾でブッ飛ばして、魔力は十分ってか!!
仲間になってたら俺絶対どこかで餌にされてたじゃん!!」
「魔法ッてのはそんなおッかねェモンじャねェだろう!?
明らかにやばい奴じャねェか!!」
「ちょ、ちょっと待てそなたら!そこまで言ったらその少女が……」
言いたい放題のロインとリュウジにミザリーが制止の声を上げるが、
時すでに遅しだった。
「そこまで言うんですね……
だったら、貴方達はもう要りません。ここで
わたしの魔力の一部分にして差し上げます」
「……ひょっとして、マジギレさせちゃったか?」
「当然だろう!?」
少女の掌に、明らかに常軌を逸した光が集まっていく。
それがどんな魔法かはわからないが、この船を木っ端微塵にしてしまうくらいは
確実に出来そうな力を感じた。
「このまま全員、消し炭にして差し上げます──」
「うるっせぇんだよぉてめぇぇぇ――――ッ!!」
「アタシら眠くて堪んないのに、邪魔しないで欲しいっす――――――!!」
魔法を掲げた少女の頭が、アバティに掴まれて真っ白に染まる。
そして、その頭をアベースが木っ端みじんに砕いてしまった。
『あっ……』
誰もが息を飲んだが、こうしなければ少女は
間違いなくこの船を沈めていただろう。
そうしていたら、どれほどの被害が出ていたかわからない。
「……アバティ殿、アベース殿。助かった、ありがとう」
「ふぁ……眠気が覚めちまったぜ……」
「まだまだ寝ていたかったっす……」
最大の功労者にして犯人を仕留めることになった2人は、
欠伸をしながら何のことだとばかりに周りを見回していた。