ミザリーとロイン、その能力
「こいつらの異能を知りたい、と……
確かにそれなら、俺の異能は確実に暴きますからね。
任せておいてくださいよ!!」
胸を叩いて自信ありげに言ってはいるが、
今までの言動がリュウジの信用を地の底まで落としている。
なぜ彼が仕事を無くすようになっていったのか、
理由が垣間見えるような気がした。
「ですが隊長!この男があえて嘘を言う可能性もあります!!」
「ふぅむ……その可能性は十分にあるな。
となると、ポムス。君の出番というわけだな!」
「承知いたしました!!」
そう言ってポムスがリュウジの顔を見つめると、
リュウジの目が蕩ける様な表情になった。
「告げる!〝貴様はこの先私が許す時まで、真実のみを告げること〟!!」
「はい……俺はこの先、真実だけを告げます……」
ポムスが手の平をパンッと叩くと、リュウジはハッとした表情になり
辺りを見回した。
「あれ、俺、今何か変だった!?
なんかぼーっとしてたような気がするんだけど……!」
「気のせいではありませんか!?それでは、こちらのミザリーさんと
ロインさんの〝異能〟があればそれを教えていただきます!!」
「あ、おお……了解しました!!」
ミザリーは思わず身を乗り出した。
今のは、もしや〝魅了〟の魔術ではないか?
アーヴ・ラーゲィでは魔法とは身近なものではなかったと思うのだが、
この世界ではごく普通に普及しているのだろうか?
「ポムスは異能力者を意のままに操る能力、〝服従の証〟
を習得してるからな。君たちも嘘をつこうとしたら、
彼女に嘘を暴かれてお終いだぞ?」
「ほう……何というか、ズィーリエ殿もだったが
この世界では魔法は普通に存在しているのだな」
ミザリーは魔法が存在していることに思わず驚いたのだが、
返ってきた答えにミザリーは混乱することになった。
「魔法?あれは異能を研究して扱えるようにした〝能力〟で、
魔法なんて作り話の中にしか出てこないぞ?
まぁ君たちの話を聞いて、少しその認識を
改めることになりそうだけどなぁ」
「魔法ではない?
しかし、あれはどう見ても〝魅了〟の魔法にしか見えなかったが……」
「へぇ~、面白いもんだな!
君たちの目にはあれが魔法に見えるのか!?
ボクたちからしたら、機械と技術で編み出された能力なんだけどな」
ところ変われば品変わるとは聞いた事はあるが、
まさかここまで認識に違いがあるとは。
世の中とは面白いものだと思いながら、
リュウジの異能が発動するのを見届ける。
「ええっと……ミザリー・ウリュー、19歳。
〝異能〟に関しては……これ異能なのか?
えっと、変な能力が身についてるのは間違いないです。
能力名は〝JACK・POT〟っていうもので、
一度攻撃した部位に〝急所〟を付与して、ジャックポットと叫びながら
殴ることで〝何かしら致命的な〟一撃を与えるっていうものです」
「何かしら致命的な!なんでそこだけフワフワしてるんですか!!」
「いや、そう言われても本当にそうとしか
わからないんですって……!!
俺の異能ってほぼ全部のことがわかるはずなんですけど、
なんでかあのお姉ちゃんのことは碌にわかんないんですよ……!
昔の情報だって虫食いみたいにあちこち文字が抜けて読めないし!
俺も驚いてるんですよ!!」
血走った目でこちらを見るリュウジに思わずビクリとするが、
「君に悪い点は一切ないだろう?」とコールから宥められ
ミザリーは何とか落ち着いた。
「それは君の異能の問題なんじゃないかな?
見られる側の彼女に非は一切ないだろう!」
「そ、れはそうですかね……
いや、そうとも言い切れませんよ!
そのお姉ちゃんが俺みたいな情報を暴く異能相手に
隠し事を出来る能力持ちなのかもしれないし──」
「しかし、君の異能にはそんなものさえ
見破る能力があるんじゃないのかな?
滞在許可証の申請欄にも異能の内容として
そう記してあるけれど?」
「そ、れは確かにそうですね……
申し訳ありません!俺の異能に問題があるんだと思います!!」
真実を言うようにという暗示が掛かっているせいか、
今までのように言い訳をすることも無く素直に謝っている。
……あの能力を使えばロインも素直に出来るのでは?
ミザリーはそう考えたが、そこまでするとロインの
人格を全て否定するような気がして考えを改めることにした。
「しかし、ともかくわかったのは〝相手に急所を付与する〟という
能力だけか……ちなみに、それとドレスの左腕が綺麗さっぱり
無くなっていることは関係はあるのかな?」
「うむ……それが、この力を教えてもらった後で
実際に使ってみたのだが、その時に腕から光が迸ったと同時に
ドレスが破けてしまったのだ。
理由に関しては余もわからないが……」
「ふーむ、光が迸って、ねぇ……でも君の言葉には
疑う理由もないし、目も嘘を言っているようには見えない!
信じようじゃないか」
「ちょっとぉ!?俺との扱いが全く違いませんかぁ!?」
ミザリーに笑いかけるコールに対して、
リュウジの叫びが届いたのだが、コールは全く意に介さず
今度はロインを指さした。
「まぁとにかくだ!
今度はロイン君、彼の能力を調べてくれないかな?」
「俺の扱いが底辺になってる……なんでそうなってんの……?」
「貴方のやって来たことを考えれば
すべて辻褄が合うと思うのですが!!」
「まさか本当に理由がわかってなかったのかぁ……?」
「いやまさか、そんなことは無かろう……無いよな?」
リュウジの考え方に一同が引いているところで、
ロインがリュウジに対して威圧し始めた。
「んで?いつになッたら俺の情報を調べるわけよ?
姉ちゃんが調べられている時しッかり待ッていたから俺も倣ッて
待ッてやッてるッてのによォ?
これじャあ姉ちゃんの品格まで下がッちまうだろうが!!」
「お前が勝手にお前のお姉ちゃんの品格下げてるだけだろがっ!!」
「んだゴラァッ!!?」
「やろうってのかお前よぉあぁ!?」
今にも喧嘩が始まりそうな2人にミザリーが割って入り、
その頭に向かって軽く拳を振り下ろした。
「いい加減にしないかっ!
お前たちの勝手でなぜ時間を取られなければならないんだ!
執行隊の方々に悪いと思わないのか!?」
『すいませんでしたッ!!』
ロインとリュウジが同時に頭を下げたので
「良し!」と言ってミザリーが椅子に戻ってくると、
コールがその顔を軽く歪めていた。
「む……何か、不味かっただろうか?」
「不味いというか、甘すぎって言われないかい君?」
「むぅ、そう言われたことは無かった筈なのだが……」
第三者に指摘されたのは初めてだったために、
ミザリーは自分は甘いのだろうか、と考えて、
いつの間にかすっかり毒されていたことに今気が付いた。
「い、言われてみれば……以前はもっと厳しかった筈!?
余は……余はいつの間にこんなにも甘くなってしまったのだ!?」
「気づいてなかったのか、ふーむ。
もしかしたら、それは彼の能力に関係したりしてねぇ」
「む?」
ロインの姿を見ながらコールは何か意味深長な顔をしていたが、
「とにかくやって!」とリュウジに宣言した。
「わ、わかりましたよ……とにかくやっちまいますね」
指で枠を作り、リュウジの口が発動の呪文を結ぶ。
「〝思考性〟──」
しかし、その言葉が結ばれるよりも先に。
船の壁が凄まじい炎と煙、そして轟音と共に吹き飛んだかと思うと、
そこから1人の少女が船内に入り込んできた。
「貴方、異世界から来た方ね。
良かったら、私と一緒に来ないかしら……」
風が吹き荒れる船内で、その少女の周りだけが
神にでも守られているように、平穏を保っている。
その様を見て、しかしミザリーはあまりにもその少女が纏う雰囲気が
異形じみており、寒気を覚えた。