事情聴取開始
「ふああ~……何だってんだよ……
悪魔が気持ちよく寝てたってのに……」
「ふにゃあ……何すか?ご飯の時間っすか……?」
眠りこけていたため不満たらたらのアバティたちを何とか宥めつつ、
コールが仕切り話を切り出した。
「申し訳ないんだが、ここで全員の身辺調査をさせてもらう。
傷の治癒を待ってから行う予定だったんだけど、
事情が変わってな」
「事情~……?碌でもない理由だったらオレはまた寝るぞ……」
「そうっすよ~、こんなふかふかな椅子で寝たのなんて初めてなんすから、
もっと寝かせて欲しいっす~」
悪魔らしく自己主張が激しいなと思いながら、
その内容はただ単に〝もっと寝たい〟という若者特有の愚痴で
少し微笑ましくもあった。
「あ~、わかったから!身辺調査というか事情聴いたら
また寝てていいから!」
「やったぜ。んで、何を聞かせて欲しいってんだ……?
魔法の使い方とかだったら長くてだるいからパスだ……」
「教えようと思うと、みっちり2時間は教え込まないと
いけないっすからね~。
本人が呪文を知ってて危険性をわかってるなら、
アタシたちが居ればすぐに出来るっすけど」
〝悪魔召喚学〟に載っていた通り、悪魔が側に居れば
魔法が使えるようになるという話は本当の様だった。
そのことを正直に話そうか迷ったが、
この調子ならミザリーが何もしなくとも
アバティたちが喋ってくれそうだ。
「なんだか面白い話が聞けそうだけど、
あくまで今回は事情聴取に付随したもの!
そこまで突っ込んだ話は出来る時間がなさそうなのでしなくてもいいぞ!」
「やったぜ」
そうして、コールとポムス主導の事情聴取が始まった。
「まずは名前から聞こうか。
フルネームでどうぞ?」
「アバティ。フルネームがアバティだ、
家名とかそんなもんは悪魔にはないぜ……」
「アベース、同じくフルネームっす」
「ふむふむ、君たちの出身は?」
「魔界、こことは違う結構賑わってる場所だ……
最近だと観光名所なんかも出来たな……」
「それと、美味しい料理屋とかも出来てるっすよ!
ディアボロ風パスタとか、悪魔的刺激の麻婆豆腐とか!」
「申し訳ありませんがその話はまた今度お願いします!
ここで我々と出会うまでは、何をされておられましたか!!」
「悪魔なんで召喚されてここには来たよ……
そん時に妙な連中だなと思って相手の心を覗いたら、
なんか肉の固まりみたいなのが飛んできて──
そこからは顔中ボコボコにされた時まで記憶がねぇ……」
「アタシは今回連鎖召喚されたみたいっす。
兄ちゃんがおかしくなっちゃってからは
ひたすら元に戻そうと思って色々試してたんっすよ!
それで、何故か兄ちゃんが『あそこに泊ってる船を頂戴しよう』って
言い出して、何か秘訣があるのかなって船を借りてったんす」
「ちょっと待ちたまえ……
心を読むとかという話は別にしてだ、
君たちは船を勝手に乗り回してたのかい?」
「そうなる、のかね……俺は記憶が無いからわかんねぇ……」
「アタシは正気だったから……確かに勝手に乗り回したっす」
「素直でよろしい、でも犯罪だ」
アベースがしゅんとなる様子を見ながら、
ミザリーはいよいよ自分たちの番が回ってくることに
心臓が張り裂けそうだった。
どうやって説明したらいい?
空から降ってきて、不思議な石で助かったと言って
通じるだろうか。
それとも嘘をついていると断じられて追及されてしまうのだろうか。
だが真実である以上、それ以上のことは言えない……
「うう……胃が痛くなってきてしまった……
真実を伝えて受け入れてもらえるか……?
もしも証拠を見せて見ろなどと言われたらどうする……?」
「もう粉になッちャッてるけど、これを見せれば大丈夫だよ!!」
ロインが包みを広げて〝願いを叶える石〟の残骸を見せるが、
はてさてこんな粉末の石で納得してもらえるかどうか。
──いや、そも異世界から来たということを知られてもいいものなのだろうか。
滞在許可証なるものを持っていないことは既にバレている、
所持していなければこの世界、というよりもこの国では
捕縛されてしまうようだが、
ズィーリエの話では理由如何では逮捕や捕縛は免除してくれるという。
しかし、今しがた考えていた理由でその対象となれるかどうか……
「──よし、あらかた分かった。
君たちは今回の一件では巻き込まれた被害者のようだな、
捕縛等は免除しよう!
代わりに簡易的なものでいいから滞在許可証を発行してもらって、
その期間中に元の世界に帰る方法などを模索するように!」
「アンタらが所持してる〝悪魔召喚学〟の本があれば、
多分すぐに帰る方法は見つかるはずだからな……
俺たちを最初に呼んだ連中との契約はなんでか切れてるし……」
「それじゃあこれでお話はお終いっすよね?
またあのふかふかの椅子で寝てていいっすか?」
欠伸交じりにアベースが椅子を指さすと、コールは笑顔で頷いた。
「おお、構わないぞ!協力してくれて感謝する!」
「はぁー、やれやれ……目的地に着くまで起こすんじゃねぇぞ……」
「それじゃ、おやすみなさいっす~」
「はい、お疲れさまでした!おやすみなさいませ!!」
アバティ達がふかふかの椅子に戻っていくと、
コールがミザリーたちへと目線を向ける。
その目線が鋭く突き刺してくるような気がして、
ミザリーは思わず身震いした。
「それじゃあ、今度は君たちだ。
ミザリー君、ロイン君、こちらへどうぞ」
「う、うむーっ!」
「姉ちゃんに君付けとか馴れ馴れしくねェかァ……?」
いつものロインに戻ったことにほんの少し安堵しつつ
横っ腹に肘鉄をかますと、2人でコールたちの前に向かい、
用意されている簡素な椅子に座る。
「では、君たちの話を聞くことにしようか。
では改めて、2人のフルネームを聞かせてもらおうか」
「余の名か……余はミザリー、ミザリー・ウリューという名だ」
「俺の名前はロイン・ウリューだ」
「あびゃっ!?」
ロインの苗字を聞いて、ミザリーは驚きを隠せなかった。
なぜロインと自分の苗字が同じなのだ?
たまたま同姓という奴なのだろうか……
「ふむふむ、ミザリー・ウリュー君にロイン・ウリュー君ね。
それでは君たちは、ここに来る前に……そうさな、この国に来るまでに
何をしていたのか教えてもらおうかな」
「それは、だな……」
驚いている間に本題を切り出されてしまったが、
ここでうじうじしても始まらないと決断して
全て話してしまうことに決めた。
「……うむ、ここに来るまでには色々とあったのだ。
始まりは……いや、そこは省略しよう。
余らは共に、アーヴ・ラーゲィと呼ばれる島に
やって来た所から何もかも始まったのだ──」