強襲揚陸艇
「ま、不味いっ……!!
あの肉塊を逃がしてしまったぞっ!!」
「えっ!?かなり不味くないっすかそれ!?
でもこの船の状況もかなり不味いっす!?」
「そもそも何が起きてんだこれは……ッ!?
船が何かにぶつかったのか!?」
一番の衝撃が去ったことでようやく動けるようになったミザリーは、
アバティらと共に操舵室から身を乗り出すが、船に積まれた荷物が
壁となってよく見えない。
加えて何が起きているのか船が傾いており、
迂闊に移動しようとすればそのまま空へと放り出されかねない。
「姉ちゃんッ!!ごめんなさい、あの肉野郎に逃げられた!!」
「それは知っているっ、それよりも船に何が起きているのか、
それを知りたいのだ!!場合によってはこの船が沈みかねないぞ!!」
「浮いてるのに沈むのッ!?でも姉ちゃんが言うならそうなんだろうね!!」
「お前ら悠長にそんなこと言ってる場合かよ!?
船の後ろに別の船の船首がぶっ刺さってるんだぞ!?」
リュウジが荷物の陰に隠れながら船の後方を指さしている。
別の船が突き刺さっている?
衝突してしまったということだろうか、それならば
あれだけの衝撃も納得できる。
……いや、それどころではない。そんなことになれば
海に浮いている船ならば大事故である、下手をしなくとも
船は沈むことになるだろう。
「ど、どれだけ深く突き刺さっているのだ!?
ここからは見ることが出来ないうえ、船が傾いて
移動も満足にできない!」
「えっとぉ……見る限りかなり深く突き刺さってやがるっ!!
なんだか見たことのない船の形してるけど──」
何やら不穏な言葉が聞こえるが、その不安は的中することになる。
リュウジの側でかなり辛そうな声をしているズィーリエが、
信じがたい光景を見ているという様に声を震わせた。
「あれは~……強襲揚陸艇ですね~……戦争などの大規模戦闘以外では
使用されませんから~……見覚えがないのは当然です~……
所有しているのは軍部の筈ですが~……
乗っている人たちは明らかに~、軍人ではありませんね~……」
「なんか旗掲げてんな……バッテンマーク?
とにかく明らかに関わったらヤバそうだってわかる連中が
乗り込んでる様に見えるんだけどよ……」
「なんだそいつらは──いや、もしや……!?」
明らかにやばい連中、その説明に何か既視感を感じたミザリーは、
まさかと思いつつ声を張り上げた。
「そこに居る者らよ、聞こえるかぁ!!
訳あって姿は見せられないが、せめて声は届いていると信じたい!!
そなたらの船がこちらに衝突してしまったとのことだが、
こちらが進路を妨害してしまったのだろうか!?
そうであれば大変申し訳なかった!!
……だが万が一、そちらに衝突してくる理由があったのならば、
その理由を伺いたい!!」
そう言い終えると、返事を待たずにアバティたちを振り返り指示を出す。
「何とか余が時間を稼いでみる、その間に舵に巻き付いている縄を外して
船を動かせるようにしておいてくれ。
そして、出来ればこの場からすぐに離脱できるように
操船の準備もしておいて欲しい」
「あ?なんで逃げる用意なんか──」
「もしも余の予想が当たってしまっている場合、
今この船にぶつかってきた連中は碌でもない者の
筆頭格だ……!」
すると、リュウジが手でこちらを煽るように手招きをする、
どうやらこちらのやり取りの間に相手が返事を返してきたらしいが、
声が遠いのかミザリーたちの元までは聞こえてこない。
「おい、返事してきたぞ!!なんか返事しなくていいのか!?」
「なに、こちらには何も聞こえてこなかったのだが……
何と言っていた?」
「聞こえてない?あんなに通った声だったのにか!?」
不思議そうな顔をしていたリュウジは、口を開く。
──そこで聞こえてきたのは、
ミザリーが二度と聞きたくはなかった存在の名だった。
「なんか、どっかの宗教団体みたいだぜ……
〝教会〟って名前の団体らしいけど──」
「うんしょっ……!っと、解けたっす!!」
「全速前進っ!!至急この場から離脱してくれっ!!」
「ぅお、と、とにかく全速前進……!!」
禁が解かれた船を走らせるために、すぐさまアバティたちに指示を飛ばす。
操舵輪を握ったアベースと何本か飛び出している棒をアバティが操作すると、
船はまるで雄叫びのような音を響かせて前進を始める。
ぎりぎりと金属同士が擦れ合う耳障りな音が響くが、
やがてその音も消えて船はますます速度を上げていった。
「あいつら、まさか例の〝教会〟の連中……ッ!?
ピントのクソッタレが所属してたイカれ野郎共か!!」
「なんだ、アンタらあいつらと知り合いなのか!?
じゃあなんで逃げるような真似するんだよ!?
軍の秘密組織みたいな連中かも知れない──
いや、この世界の連中をアンタらが知ってるわけないんだった……
じゃあなんなんだアイツらは!?」
「相手は強襲揚陸艇です~……普通の船では間違いなく
追いつかれてしまいますよ~……?」
相手の船がどれだけ早いのかは知らないが、
ズィーリエの方が詳しいのは間違いないだろう。
その彼女が追いついてくると言っているのだから、
このままでは不味いことになるのは間違いない。
とにかく逃げ出せれば何か手を打つ時間くらいは出来るかと思ったのだが、
どうやら現実はそう甘くなかったらしい。
何か、何か手を打たなければ……
「ヤベェぞ、あいつら人を殺すことなんて俺並みに躊躇しねェからな!!
こッちも殺す気でいかねェと不味い!!」
「マジかオイ!?なんで今日は次から次へとそんな連中に……ちょっと待て、
なんか今すごく物騒なこと言ってなかった!?」
リュウジはロインに怯えながら距離を取ろうとするが、
船はまだ傾いているため、上手く移動できずにその場で震えていた。
「確かこの船、なんか変なもの積んでたはずだぜ……
攻撃にも使えるかもしれねぇ……それを使えば、
追ってくる連中からも逃げ切れるんじゃねぇか……!?」
アバティの曖昧な説明に不安しか感じないが、今はそこに頼るしかない。
「ロインっ、今からそちらに行く!!
それと、積み荷に何か相手を攻撃できそうな物があるらしいっ!!
先に調べておいてくれ!!」
「わかッたよ姉ちゃん!!」
ロインが船の後方に向かって行くと、ミザリーもそれに続いて
船の出っ張りや手すりを伝いながらなんとか同じ方向へと向かう。
すると、しばらくもしない間にロインの声が聞こえてきた。
「姉ちゃん、確かに攻撃できそうな物あッたんだけど……
なんで普通の船ッぽいのにこんなもんが積んであるんだ?」
「なんだ、何があった──」
ミザリーが縁を曲がってロインの姿を目に捕らえた時、
その近くにある物も目に入った。
それは、確かに普通の積み荷ではなかった。
黒光りする長い全体の姿、丸みを帯びているにも拘らず
すさまじい重量感を感じさせる意匠。
ミザリーたちの世界でも、それは特級の威力を持つ兵器。
「なぜ、この船に大砲が大量に積まれているのだ……?」




