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ただいままでの帰り道 ~魔王と異世界に放り出されたので家路を目指します~  作者: ふじきど
~第1章~ 本当の異世界・空飛ぶ島の冒険
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飛行艇の行く先



  「うむ……リュウジ殿、残念だが連行されるのは確定事項のようだ。

   申し訳ないが諦めてくれ」

  「諦めるの早くないかオイ!?

   もうちょっと粘ってくれたって良いじゃねぇかよぉ……」



 甲板にのの字を書きながらいじけているリュウジの肩に、

 ズィーリエがポン、と手を置いた。



  「さあ~、観念してくださいね~。

   この飛行艇をダンプフに戻していただいて~──」



 しかし、その言葉が最後まで続くよりも早く、

 ズィーリエはその場に崩れ落ちてしまった。


 何が起きた、と考えるがすぐに理由にたどり着く。

 両手と足が凍傷にかかっている状態で、さらに無理を重ねたのだ。

 体力を使いすぎたのだろうことは明白だった。



  「お姉さん!大丈夫っすか!?」

  「はぁ……ふぅ……大丈夫、ですよ~……」

  「顔色が明らかに悪いっすよ!!無理してるのが丸分かりっす!!」

  「手足に水疱が出来ているな……余はこの症例に詳しくないが、

   放っておくことは改善には繋がらない事だけは確実にわかる。

   理由はどうあれ、下の町──だんぷふ、だったか?

   そこには病院もあったことだし、戻るべきなのは確実だな」



 そうなるとこの船の操縦を誰かにしてもらう必要があるが、

 現状それを成し遂げていたのは1人しかいない。


 だがことは急を要する、病院に突っ込むような危険な運転をする

 少女だが、何も出来ないよりかはマシだと断じて

 少女に向かって頭を下げる。



  「そこの少女よ!突然ですまないがこの船を下に見える町の病院まで

   操縦してはもらえないだろうか!?」

  「アタシがっすか!?わ、わかったっす!!

   何やら大任仰せつかったみたいっすから精いっぱいやらせてもらうっす!」



 そう言って操舵輪室へと走っていった少女は、自分で絞めた縄を

 なんとかして解こうと躍起になっている姿を見せてくる。

 ……果たして任せてしまって大丈夫だっただろうか?



  「おい、そこの嬢ちゃんよォ……

   なんでアベースに船の操縦なんか任せたんだ……?

   あいつはまだ13歳だぞ……護られる立場の女の子に

   何させてんだよ……!」

  「13歳……元服は済ませている年齢か、随分と小柄だな。

   だが歳を聞いて安心した、ある程度までなら任せられそうだ」

  「元服って……アンタどっから来たんだよ……!

   13歳なんてまだ子供だろうが……護ってやらないと

   いけない女の子だろうがよォ……!」

   


 憤慨しながらも体へ蓄積した傷が重いらしく

 ぎこちない動きしか出来ないアバティに、

 ミザリーは肩に手を置き告げた。



  「申し訳ないが余に船の操船技術など無く、

   おそらく他の面子も操船技術など持っていない。

   持っていたならばあの少女が操船している時に

   すぐさま手助けに向かっていただろうからな……」

  「〝自分たちじゃできません〟をここまで迂遠な言い回しする奴

   初めて見たぜ……」



 こちらを心底不気味なものを見たと言わんばかりの顔で

 見つめてくるアバティに、そんな変なことを言っただろうか、と

 ミザリーは首を傾げるが、今はそんなことで悩んでいる場合ではない。



  「ともかくだ、ズィーリエ殿が凍傷の状態にも拘らず無理に動いたせいで、

   明らかに体力を消耗しすぎている。

   早く病院に運んで処置をして貰わなければ命にも関わるかもしれない。

   ……脅すようですまないが、その傷を負ったのは、

   他でもない。そなたを捕らえようとした際だ」



 悪魔相手に脅迫じみた言葉がどれだけ効果を発揮するかはわからないし、

 何より本当は脅すなどという行為にはあまり頼りたくはない。

 それでも、事態は一刻を争うのだ。

 

 そして間違いなく効果はあったらしく、アバティは渋い顔をした。



  「っ……なんか操られてたらしいが、その時の記憶はまるで無ぇんだ……

   でもこうして顔が腫れあがってるところやあのお姉ちゃんの

   凍傷の傷を見る限り、おそらく俺が暴れてたってのは事実なんだよな……

   俺も船の操縦技術なんて持ってねぇ、アベースが操船できることだって

   今知ったぐらいだけどな……今出来る奴が出せる力を尽くすのは

   確かにそうだって思える……」

  「うむ、余も同感だ」

  「……顔の腫れも少し引いてきた、俺が何かできるかわかんねぇけど……

   手伝ってくるぜ……」



 ふらつきながらも立ち上がったアバティを支えてやると、

 その身体は人と同じように温かく、悪魔と教えられなければ

 只の人間と同じようにしか思えなかった。


 先程まで人を殺せるほどの冷気を発していたとは思えない体に

 思わず驚いていると、アバティが怪訝な顔を向けてきた。



  「なぁ……もう立ち上がれたから、放してくれねぇかな……?

   もしも逃げようとしてるって思ってるんなら、

   悪魔の名に懸けて必ず嬢ちゃんの元に戻ってくる。

   何なら契約書だって書いたって良い……」

  「いや、そこまでは思っていない……!

   ただ、悪魔と言っても普通の人間と変わらない体なのだなと

   思ってな……」



 ミザリーの発言にアバティは『何を言っているんだ?』という顔をしていたが、

 その顔に汗が浮かんでくると、ミザリーが握っていた手を振り払って

 まるで初めて自分の体を見たかのようにまじまじと腕を見つめた。



  「っ……嘘だろ……っ?

   なんでこんなことになってんだよ……!!」

  「ど、どうした?何が起こったというのだ……?」



 明らかに先程までとは違い狼狽している姿に

 ミザリーがおずおずと尋ねてみると、アバティは顔を歪めて

 独り言のように声を絞り出した。



  「〝受肉〟してやがる……っ!!

   人間の体を借りたりしてる〝憑依〟なんかじゃねぇ……

   この状態で死んだら、魂が傷ついて本当に死にかねねぇ……っ!!」



 そう呟いていたかと思えば、

 次の瞬間アバティは弾かれた様に駆けだしていた。



  「お、おいっ!一体どうしたというんだ!?

   受肉というのは、何となく察しが付くが……

   それが一体どうしたというのだ!?」

  「オレが受肉しているということは、

   アベースも受肉させられている可能性が高い……ッ!!

   そのことを伝えておかねぇと……アベースが、妹が無茶な行動をして

   魂が傷つきでもしたら……ッ!!」



 そこまで聞いてなぜ死んだはずのアバティがここに立っているのか、

 ある程度察することが出来た。

 

 憶測だが、悪魔はたとえ死んだように見えたとしても

 実際には命を落とすような事態には陥っていないのだろう。


 だが、聞く限り〝受肉〟をしてしまうと、人と同じように

 死ぬ身体になってしまうと想像できる。


 そして、それはあの少女、アベースにも

 同じことが起きている可能性があるということだ。


 操舵室にたどり着いた2人が中へ飛び込むと、そこには

 操舵輪に結び付けられた縄を解こうと四苦八苦している

 アベースの姿があった。



  「あっ、兄ちゃん!ちょっと手伝ってもらえると助かるんすけど……」

  「その前に聞け!今お前は〝受肉〟している可能性がある……ッ!!

   この先、絶対に命に関わるような事には近づくんじゃ──」



 ──その瞬間、船に強烈な衝撃が走る。


 船の中も、甲板上も、何もかもひっくり返したように

 様々なものが散らばっていく。



  「に、兄ちゃん……っ!!」

  「アベースッ!!」



 アバティは少女の手を掴んで引き寄せると、

 体に抱き込んで護る姿勢になった。

 

 ミザリーも手近な物に捕まろうと手を伸ばし、

 操舵室の中に据え付けられていた手すりを何とか掴み、

 振り落とされそうになるのを辛うじて堪える。


 待て、今自分がこうなっているのならば、甲板に居た者達は

 どうなってしまっている。


 慌てて目を向けると、全員が転げまわりながらも何かに掴まって

 必死に耐えている。


 ──そして、ミザリーは見た。

   何本もの剣で縫い付けられていた肉塊が

   剣を引き抜いて自由の身となり、

   船の外へと逃れていく姿を。






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