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ただいままでの帰り道 ~魔王と異世界に放り出されたので家路を目指します~  作者: ふじきど
~第1章~ 本当の異世界・空飛ぶ島の冒険
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船上の決闘



  異世界の住人であることを抜きにしたとしても、

 明らかに自分たちよりも格上であるはずのズィーリエが

 あっという間にその腕を氷漬けにされて塞がれてしまった。

 

 

  「まさかのまさかだけどぉ~、

   これ見てまだ僕ちゃんに抵抗しようとか思ってるぅ~?」

  「お、俺は服従いたしますぅ!!何なりとお申し付けくださいぃ!!」

 


 飛び込み前転からの土下座を決めたリュウジを止められなかったことを悔やみつつ、

 ミザリーはどう答えたものか躊躇した。


 確かにリュウジのようにさっさと降参してしまうのは、

 人相手だったなら有りな選択肢だったろう。


 しかし相手は悪魔である、服従してしまうのは

 何かまずいことになる気がしてならない、

 古来より悪魔なり物の怪なりに従ってしまう者には

 その身の破滅が待っている可能性が高いのだ。



  「……残念ですが~、この程度で抵抗する気が失せるほど~、

   国境執行隊は温い組織ではありませんので~!」

  「っ止すんだズィーリエ殿!!そのまま相対しては今度は

   手だけでは済まないぞっ!!」



 3メートルほど距離が離れているが、

 それでも制止するのが間に合わない距離ではないとミザリーは駆け出していた。 

 ズィーリエはまだ動かせる足を鎌のように振り上げてアバティの胴元を狙うが、

 その蹴りは無念にも胴に届く寸前の所で止められてしまい

 腕と同じように白く染まっていった。



  「うぅ~……っ!」

  「もういい!!そのものの相手は余がするっ!!

   そなたは下がるのだっ!!」



 甲板に仰臥したままのリュウジを追い越し、

 倒れ込みそうになったズィーリエを支えると、ミザリーは

 アバティから距離を取った。

 

 あの悪魔、フリカッセ亭ではあっという間にやられてしまっていたので

 そこまで脅威ではないと考えていたのだが、

 直接相手をすればここまで恐ろしい相手だったとは……


 相手を見くびって窮地に陥るなど、今時三文噺でも

 そうは見かけない間抜けさだ、と自分を罵った。


 しかし実際どうするべきか、ズィーリエの手足は冷やされきって

 真っ白になっている手足の周囲が青く変色し始めている、

 このままでは凍傷になって切断するしかなくなってしまうだろう。

 その前に何とかしなければ──



  「そ、そこの女の人ーっ!!大丈夫っすかー!?」

  「大丈夫とは言い難いが……む?」



 何か、先ほど聞いた声が聞こえてきたので顔を上げると、

 総舵輪を握っていた少女がこちらに向かって駆けてくるのが見える──


 ミザリーは顔から血の気が引いていくのが分かった。



  「その女の人、早くしないと助かんないっすよ!早くこっちに──」

  「おい貴様!こっちに来るんじゃない!!」


 

 思わず語気を荒げてしまい、少女がびくりと立ち竦むのを見たミザリーは

 立て続けに言葉を発した。



  「貴様、何を考えている!?舵を取る役目の者が操舵輪から離れてしまっては

   この船はどこに行くかも、何かにぶつかるかもわからないんだぞ!?」

  「えっ、あっ、本当っすね!!ちょ、ちょっと待っててほしいっすー!!」



 少女は慌てて船の中へと戻っていったが、ほんの暫くもしないうちに

 戻ってきた。



  「操舵輪を紐で括り付けてきたっすー!!これなら少しの間なら

   船は変な方向にはいかないはずっすよ!!」

  「そんないい加減な方法で大丈夫なのか!?」



 アバティを「兄ちゃん」と呼んでいたことや見た目を考えると

 この少女も悪魔なのだろうが、どこかぽやっとした雰囲気が抜けておらず

 リュウジとは別の意味で信用していいのかわからない。



  「とにかく!この女の人はなんかすごく暑い部屋があったから、

   そこに連れて行くっす!!そうすれば兄ちゃんの冷気も取れるはずっすよ!」

  「そんな凍った物を溶かすだけのような方法で良いのか!?」

  「少なくとも、それでアタシのペットは助かったっす!

   それじゃ行ってくるっすよー!」

  「むぅぅ……!仕方あるまい、そなたに任せるぞ!」



 ズィーリエを少女に任せてその背中を見送ると、ミザリーは

 アバティに相対した。



  「んまぁ~、アベースちゃんに肉体労働させるだなんて悪い娘ねぇ!!

   お仕置きしてやるからケツ向けろゴラァ!!」

  「淑女相手にそのような物言いとは、躾がなっていないようだな……

   余が自ら教育してやろうではないか……!」



 恐怖で膝が笑いだしそうになるのを必死に堪え、

 戦闘態勢になったミザリーは戦闘用籠手ナックルダスターを手に備える。

 正直な話気休めにすらならないだろうが、少しでもあの恐ろしい相手に

 立ち向かえるのなら、と心を鼓舞するために籠手に口づけをする。



  「さぁ……始めるとしようじゃないか……!」

  「いや~ん、もう!お嬢ちゃんまで相手して欲しいのぉ?

   そうっすねー……俺っちの顔にパンチ当てられたら、

   なぁんでも言うこと聞いてやるっすよー……」



 余裕綽々といった態度にミザリーは怖れを抱きそうになるが、

 相手への威圧も込めて、折れそうな心を支えるために名乗りを上げた。



  「余は魔王ミザリー!!その名にふさわしく魔を統べる者である!

   悪魔風情に怖れなど抱かぬ、一発と言わず……その顔が腫れあがるまで

   拳を見舞ってやろうではないか!!」

  「言うねぇ~ん!!やぁってやろうじゃあ~りませんかぁ!!」



 アバティが拳を顔の横で構えると、右足を一歩こちらに出して

 戦闘態勢らしき姿に入る。

 奇しくもミザリーと構えは似ているが、アバティの方が

 どこかしら構えはしっかりしているように見える、その点でも

 相手の方が格上なのだろう。

 

 今まで敵対してきた相手がことごとく自分よりも強い相手であることに

 ミザリーは辟易しつつ、しかし今回ばかりは逃げることも回避することも

 許されないことに覚悟を決めた。


 最初に仕掛けてきたのはアバティだった。

 その一歩はズィーリエと比べれば目で追うことも可能なほどに普通の動きだが、

 威圧感は負けないほどに放たれている。


 ──気を取られているうちに眼前まで迫っていたアバティは

   右の拳をミザリーの顔面目掛けて一直線に殴り掛かってきた。

   その上ミザリーの力任せの一撃とは違い、

   何かしらの型を基本としている1点を狙い澄まされた一撃だ。


 ギリギリのところで躱すことが出来たミザリーだったが、

 その拳が頬を掠るとその場所の感覚が無くなった。


 慌てて飛び退いて頬に手をやると、その場所が酷く冷たくなっている。

 

 ──掠るだけでもこうならば、直撃は是が非でも避けなければならない、

   ミザリーは額に伝う汗を拭いながら、アバティを睨み据えた。






   

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