攫われてランデブー
「こ、これは一体何なのだ!?どうすればいいのだ!?」
網に絡めとられて身動きが取れないミザリーは、
只困惑するしかなかった。
このような事態はこの世界では普通の出来事なのだろうかと思ったが、
病院の壁に開いた穴からコールやポムスが騒ぎ立てていることを見ても
普通起きることではないようだ。
「どうしたらいいのかは私にもわかりません~……
ただ、あまり暴れるのは止めた方が良いですよ~」
「それは何故だ!?このままでは謎の存在に連れ去られてしまうのに……!」
そうこうしているうちにも地面は遠ざかっていき、既に病院の3階程度まで
浮かび上がってしまっている。
「この高さまで浮かび上がってしまっては~、
飛び降りたとしても大怪我は免れませんよ~。
それに加えてこの網なんですが~、
どうやら鋼鉄の綱を編み上げて作られているようです~。
下手に絡んでしまったら指程度千切れてしまいますよ~」
間延びしたズィーリエの声が、今は逆に恐怖を煽り
ミザリーは下手に体を動かすのを止めた。
その代わりとして、とにかく考えることに努めることにする。
今自分たちの置かれている状況を整理すると、
・病院に運び込まれたロインは、謎の脱力をしてしまい反応がない。
・リュウジはミザリーたちに付いてきたが、その理由は〝悪魔召喚学〟の本が
目当てであった可能性がある。
・その目的として最近仕事が思うようにいっていないらしく、その上
自分たちに関わったことで国境執行隊に目を付けられてしまった。
それらから逃れるために、悪魔に何かを願おうとしていたらしい。
……リュウジが悪行に走ってしまった理由は、
自分たちと出会ってしまった事が原因だと気が付いたミザリーは
彼を責める資格は自分たちにはないな、と思い至った。
このことをズィーリエに話すべきかとも思ったが、
ただでさえおかしな状況に陥っている現在である。
混乱をさらに増やすようなことは今は控えた方が良いだろう──
……果たして、唐辛子を突っ込まれて以来忘れっぽくなっている自分に
伝えることが出来るだろうか?
「チクショウっ!!この状況、執行隊の隊員が居なかったら
なんかわかんないけど綺麗に脱出できたっていうのによ……!」
「そこの貴方~?もしもあなただけがこの網に連れ去られていたとしても~、
我々国境執行隊は草の根を分けてでも貴方を探し出してましたよ~?」
「あいえええ……」
今もなお逃げ出すことを考えているリュウジに
どういった感情を向ければいいのかわからなくなったミザリーは、
ロインはどうなってしまったかと目を向ける。
しかしロインの表情はこの状況にあってもなお
感情を無くしてしまったかのように凍り付いており、
ミザリーの不安を悪化させる。
そんなことを考えているうちに、ミザリーたちを連れ去った何かは
見る見るうちに空高く浮き上がっていき、ついには町全域を見渡せるような
高さにまで達していた。
──その街並みは初めてアーヴ・ラーゲィの町並みを空から見た時と
比べても、遥かに発展した町並みだということがわかる。
豆粒のように小さく見える大勢の人が、血脈のように
町を流れていくのが見えた。
「なんと……、壮観なんだ……!」
「あら~、貴女はこの町の光景を知らないようですね~。
この町はおろかこの国にやって来るためには~、
ここよりも上の島~、ズィーデン島に入らなければ入国できませんよ~?
そしてズィーデンからこの町ダンプフは必ず見えるはずなのですが~」
「えっ……そうだったのか……」
思わず素直な反応を返してしまったが、ズィーリエはその様に
目を瞬かせたかと思うと、想像だにしなかった柔らかな笑みを浮かべた。
「ふふふ~、その様子ですと隊長の読みは当たっているようですね~、
貴女方はこの国に害をなそうとして来たわけではないようです~。
もしもよろしければ~、ここにいらっしゃった本当の目的を仰って
いただけませんでしょうか~。
内容如何では逮捕は見送ると隊長も仰っておりますよ~」
「あっ!!ずるいぞお姉ちゃんたちだけ!!俺も情状酌量汲んで下さ──」
「貴方は罪状が色々とありますので無理ですよ~」
リュウジはがっくりと項垂れて、観念したように涙を流した。
ミザリーは再び悩む羽目になった、彼女に事の次第を話しても
良いものだろうか?
肝心な時にロインは腑抜けになってしまって
話をすることも満足に出来そうもない、
必然、決断はミザリー自身が下すしかないようだった。
「その……少し待ってもらうということは不可能か……?」
「申し訳ありませんが~、この場で回答していただくことになりますね~。
お話しやすいようにこちらも情報を公開いたしますと~、
私の話は隊長にも聞こえるようになっておりますので~」
「……ん?なぜ、コール殿にも聞こえるのだ?
この場に居ない者にどうやって話を……?」
明らかに町は全景を望めるほどに遠ざかっている、
どうやって伝えるというのだろうか。まさか狼煙を上げるわけにも
行かないだろうに……。
「ふふふ~、この国にやって来る方々の中には~、
不思議な能力や道具を保有しておられる方もいらっしゃるのです~。
その方々の品を解析して開発したものになるとだけ~、
お伝えしておきますね~」
「う、うーむぅ……」
どう話したものか、この場所には空から降ってきたと伝えていいものだろうか?
それともリュウジの轍を踏まない様に濁して話すべきか──
「フゥ――――――――――!!!
そんなこと悩むまでもねぇことじゃんかYO!!」
『ふぁっ!?』
突然聞こえてきた妙に騒がしい声に顔を上げると、
ミザリーたちを攫った物体から何者かの姿が覗いている……!
「何者ですか~?公共の場を飛行艇で破壊したに飽き足らず~、
誘拐まで行うとは~。逮捕は免れませんよ~?」
「我の言葉に傾聴せよ!!我が覇道のために貴様らの身を使わせてもらう!!」
「……なんだ、何か話が通じていないようだが……?」
しかも、その話し方は何か聞いた事があるような気がする。
「リュウジさん~?もしも少量ですが刑を減刑できるとしたら~、
ご協力いただけますか~?」
「……はぇ?えっ!?減刑っ!?本当ですか、
本当なら何でもやりますよ!?」
網をかき分けながらリュウジがズィーリエの方へと近寄っていき、
何事か話し込んでいる。
「……わっかりましたぁ!!喜んでお手伝いしましょう!!」
リュウジが何かに納得したらしく喜んで頷いて見せると、
謎の人物に向かって両手を窓枠を当てはめる様に構えた。
「〝思考性推理〟っ!!」
どうやら謎の人物に対しても、相手の情報を読み解くという異能を
使用したらしい。
──そして、リュウジの口から情報が紡がれる。
「あいつの名前は〝アバティ〟、……種族が、悪魔、らしいです……
本当に来た、来てくれたんだな……!!」
アバティ、その名前には聞き覚えがある。
フリカッセ家で襲い掛かってきて、その後死亡が確認された悪魔……
その存在が、今ここに舞い戻ってきたのだ。




