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ただいままでの帰り道 ~魔王と異世界に放り出されたので家路を目指します~  作者: ふじきど
~第1章~ 本当の異世界・空飛ぶ島の冒険
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探偵事務所で朝食を



  探偵事務所の2階で就寝させてもらい、しっかり体を休める。


 翌日、ミザリーは窓から差し込む光に目を覚ます。

 すっかり体中の疲れも取れて、気持ちのいい朝を迎えた。



  「んー、ふあぁ……気持ちのいい朝だ……」

  「うはーッ……、おはよう姉ちゃん……」



 流石のロインも朝は眠気が勝るらしく、普段の騒がしさは

 鳴りを潜めている。いつもこうならどれだけ助かるか、

 ミザリーはそう思ったが、今更大人しくなったロインを見たら

 逆に不安すら感じそうな自分にすっかり染まってしまったなと自嘲した。



  「ああ、おはようロイン。いい朝だな」

  「うん、姉ちゃんが隣にいてくれるいい朝だ!」

  「ふふっ、お前も朝は眠気が勝つんだな。

   今までは別の部屋だったからな、気付かなかった」

  「そんなに不思議かな?俺はいつも姉ちゃんと一緒に寝てたから!!」

  「お前、余が知らないからって都合のいい記憶を刷り込んでないか?」



 ロインと連れ立って階下に降りてくると、

 香ばしい良い香りが部屋の中を占めている。

 そして、その香りは記憶に覚えのある香りだった。



  「これは、〝こーひー〟の香りか?」

  「うーん……いつ嗅いでも良い香りだよね姉ちゃん!

   ……けど気のせいかな、前に嗅いだ香りとはちョッと違うような?」



 ロインが首を傾げるのと、リュウジが厨房からひょっこりと

 顔を出したのはほぼ同時だった。



  「おっ、わかるか兄ちゃん!うちの珈琲コーヒーはオリジナルブレンドの

   特別製だぜ!美味いのは絶対に保証するぞぉー!」



 どこかで見たことのあるやり取りにどことなく不安を覚えながら、

 ミザリーは厨房へと足を向ける。


 じゅうじゅうと音を立てながら焼けているのは腸詰肉だろうか。

 焜炉の横、調理台には目玉焼きが乗った皿が4つ置かれている、

 


  「Guten Morgen!Die Vorbereitung des Frühstücks ist bald abgeschlossen!」



 何を言っているかは未だにわからないが、カロッテの様子からして

 朝食の準備がもうすぐできると言っているのだろう。


 せめて感謝を伝えようと笑顔で頷いた。



  「ふむ、美味しそうな朝食が出来そうだが……

   気のせいか野菜が見当たらないが、漬物でも用意するのか?」

  「おう、この辺りじゃキャベツの酢漬けが一般的でな!

   一緒に用意するから待っててくれよ!こいつも自家製だ!」

  「ほう、甘藍きゃべつをか?これはまた珍しいものを食べるな……

   余が知っているのは千切りにして添えるくらいだったが」



 ミザリーが興味深そうに尋ねると、リュウジは不思議そうな顔をした。



  「キャベツが珍しいって……お姉ちゃんたち、ホント一体どこから来たんだ?

   キャベツは紀元前600年も前から食べられてたんだぞ!?異世界だって

   似たようなものはあっただろー!?」

  「そう言われてもな……伝わってきたのはつい最近のことだ、

   料理法も生で食べるのがいい、程度しか余は知らなくてな……」

  「そんなもんなのかぁ、もっといい食べ方色々あるのになぁ……

   ヨシ!石の謎解く過程でも飯は食うだろうし、教えてやるぜ!!」

  「うむ、それはありがたい!よろしく頼むぞ」

  「Fruhstuck ist fertig!」

  「おっ、朝飯も準備出来たってよ!!」

  「では、話はここまでにして朝食にしよう。

   温かい食事は冷めないうちに食べるのが礼儀だからな」



 カロッテから料理が乗った皿を受け取って配膳する、

 ロインはミザリーが皿を持ってきたことでミザリーに皿を持たせたことに

 二重の意味で憤慨していた、当然ミザリーの一言で納得したが。


 4人で食事に手を合わせて食べ始めると、

 なるほど絶妙に半熟に焼かれた目玉焼きは塩コショウの味付けにも関わらず、

 白身と黄身の美味しさが引き立てられている。

 腸詰肉はこんがりと焼かれて外はぱりぱりでありながら、

 噛み千切ると零れんばかりに肉汁が溢れてくる。

 

 そしてリュウジが言っていたキャベツの酢漬けとやらを口に含むと──



  「んむっ!酢漬けでくたっとしているにも拘らず噛み応えがあるな……!

   甘藍きゃべつの甘みが酸味に負けていないのが不思議だ、

   はむっ……加えて瑞々しくて、いくらでも食べられそうだ!」



 ロインは声にするのも惜しいのか、ガツガツとひたすら食べ続けている。

 その食べっぷりを見ていると見た目相応の青年に見えて、

 これで自分に対する重い感情が無ければ好青年なんだがな、などと考えた。



  「んぐっ……!こいつは美味いな!!姉ちゃんの料理には負けるけどよ!!」

  「へー、魔王なのに料理得意なのかお姉ちゃん!!」

  「む、まぁ手慰みにな。余はパンも焼くが、自分で炊いた米が一番好きではあるぞ。

   米特有の炊き立ての香りは得も言われぬものでな……異世界に来てから

   一度も口にしていないゆえ、そろそろ食べたくはある」



 炊き立てのご飯を思い浮かべながらうっとりしていると、

 食器の触れ合う音が少なくなった。

 

 一体どうした、そう思って音が消えた方向──リュウジの方へ目を向けると

 食べる手が完全に止まっていた。



  「……なよ」

  「む?どうしたのだリュウジ殿──」

  「俺の前で米の話しないでくれよぉーーーーっ!!!!

   ここに来てから一粒たりとも食ってねぇんだよ!!

   あの味を思い出させるなよぉーーーーっ!!」



 突然涙を振りまきながら喚き始めたリュウジに

 得体の知れない気迫を感じたミザリーは、ロインが庇う様に

 覆い被さったことで護られる形になった。


 ──同時に圧し掛かられて息も満足に出来なくなったが。



  「んむーっ、むぐーっ……!!」

  「突然なんだお前!!いきなり騒ぎ始めやがッてよォー、

   姉ちゃんに何かあッたらどうするつもりだてめェ―!!」

  「Ah, ähm...…Es sieht so aus, als hätte deine Schwester Schmerzen...…」

  「仕方ねぇだろー!?俺は今まで日本でのんべんだらりと食っちゃ寝してたら、

   ある日突然オート三輪に轢かれてよぉー、気が付いたらこの世界に居たんだぜ!?

   異能はあっても米は食えねぇんだよぉーーーーっ!!うおおぉぉぉん!!!」



 むごむごとロインを退けようと藻掻いていると、

 ロインの服の一端に指が掛かり、力の限り引っ張った。



  「むごーっ……!!」

  「ああッ、ごめんなさい姉ちゃん!!俺必死で……!!」



 ようやく楽になり大きく息を吸い込むと、生を実感して思わず涙が滲んだ。



  「はぁ、はぁー……!死ぬかと思った……!!」

  「ごめん姉ちゃぁぁぁん!!俺は死んで詫びるから──!!」

  「だから……思いつめるのが早い、お前は……!!」

  「うおおおーーーっ、米ぇぇ……卵掛けて食いてぇなぁー……!」



 優雅な朝食から一変、地獄絵図と化した〝りびんぐ〟に、

 悲観するようなカロッテのため息が響いた。






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