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ただいままでの帰り道 ~魔王と異世界に放り出されたので家路を目指します~  作者: ふじきど
~第1章~ 本当の異世界・空飛ぶ島の冒険
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ミザリーのちょっとした決心



  島が、消える。

 

 耳を疑った、アーヴ・ラーゲィはかなり大きな島だったはずだ。

 それが忽然と姿を消すとは、一体どういうことなのか。


 いや、実際にはミザリーたちの世界へとやって来ていた、

 だがあれほどの島をどうやって別世界へと運んだというのか。


 ──そこまで考えてから、ひとつの可能性にたどり着いてしまった。

   島1つを簡単に別世界へと移動させてしまうことが出来る力……

   それを、自分たちは知っているかもしれないのだ。



  「それきり事件は捜査出来なくなったんだ……

   周囲の島でも似たような出来事が起きていなかったかと

   調べてみたが、出てくるのは出所不詳の噂ばかり。

   裏取りをしようとしても何も出てこなかった……

   ただ、変わったことと言えば人の姿に酷似した人形が

   出回るようになったって話だけだった」

  「……その人形、人と同じように話したり動いたりしなかッたか?」



 ロインが尋ねたことにミザリーも頷いた、

 その人形ならば自分たちも見たことがある、

 それどころか会話すらしたことがある。


 それがここにもあるとするならば、アーヴ・ラーゲィで起きたという

 悲劇がここでも起きてしまう恐れがあった。



  「人形が動く……?さすがにそれはなかったが……

   その言い方からして何か、あったんだな?」

  「……うむ、余らが体験したのは〝おおとまた〟と呼ばれる

   人形に魂が宿ったかのような存在に出会ったことだ。

   触れることもしたし、話もした。

   どこからどう見ても人にしか見えない存在だった」

  「俺が見たのはその人形たちが、町の連中を襲ッている場面だッた。

   人形を手に入れた連中は自分が理想とした人だッたり、

   かつて愛していた人に似せた姿の人形だッたッて聞いたぜ。

   そんな存在が襲ッてきたとすれば、そいつらの絶望は

   計り知れなかッたろうな」 

  「うっそだろ……そんな怖ぇことが……」



 カタカタと小刻みに震えながらリュウジがカロッテに抱き着いている。

 実際ロインが目にしたという光景をミザリーが目にしていたら、

 同じように恐怖に震えていたかもしれない。

 愛する者が自分を殺しに来るなどと、たとえ逃げ切れたとしても

 死ぬまで夢に見るだろう。



  「そんで、その人形どもを操ッてたらしいのが

   俺たちにアーヴ・ラーゲィで一番最初に接触してきた奴でな。

   正直アンタらも同類じャないかッて疑ッてたわけだ」

  「な、なるほど。兄ちゃんがいきなりカロッテを襲った理由は

   そういう事だったわけか。納得したぜ」



 リュウジが隣のカロッテに伝えると、カロッテは何度か頷いた後

 こちらに親指を立てて笑った。



  「Ich verstehe, ich verstehe. Es ist mir egal!」

  「理由もわかったし、

   納得したから許してくれるってよ」

  「そいつは本当に感謝しとくぜ。

   姉ちゃんを助けてくれた人になんてことをしちまッたんだと

   ずッと悔いてたけどよ……ありがとな」

  「ふふっ、良かったなロイン」



 これで話しを続けられそうだと思いながら、

 〝願いを叶えるチンターマニ石〟のことを話すべきかどうか悩む。

 ここまでの話を信じてくれた事、親身になってくれる事は本当にありがたいが


 ──果たして全面的に信じてもいいのだろうか?


 どうしてもピントの一件が引っ掛かり、躊躇してしまう。

 偶然か、ロインがカマ掛けするようにピントとの出会いを話したが

 リュウジにもカロッテにも反応は見られなかったように思える。


 ──ミザリーは決心した。



  「それにしても、人間と見分けがつかない人形だなんてな……

   そういやさっき話した人形も人には良く似てたな、

   最初に発見した奴なんか死体と見間違えたらしいし……」

  「俺たちが見たのも動かない奴は死体と思ッたぐらいだ。

   確実に何か関係があるな……」

  「うむ、そうだな……ところで──」

  「そうと決まったら早速自警団クリポに行かねぇと!!

   人形が見つかったのは3年も前のことなんだ、

   万が一にも処分されてたら不味いぜ!!」

  「そうと決まッたら早速行くか!?」



 勢い込んで椅子から立ち上がったリュウジとロインは

 今にも飛び出していきそうだが、外は真っ暗だ。

 それに石のことも話したいので出て行かれるのは困る……!



  「そ、それも確かに大切だがもう真っ暗だ。

   今は話を──」

  「た、確かに今外を出歩くのは不味いな……!!

   この辺は最近治安がめっきり悪くなってよ、

   兄ちゃんたちが出会っちまったような連中とかち合う可能性が

   かなり高ぇんだよ!!」

  「くッそ……!姉ちゃんは流石だね、そんなことまで気が付くなんて!!

   そんじャあ出向くのは明日早朝ッてことでどうだ!?」

  「イカす考えだ、気が合うねぇ!!

   そんじゃパンで済ませちまったけどカツレツでも揚げて

   夜食食ってから寝ちまうとするか!!」

  「おおーい!?話を聞けぇー!?」



 ミザリーの縋りつくような叫びが届き、興奮から落ち着いた2人は

 椅子に座り直した。



  「ごめんなさい姉ちゃん!!ついこの男につられちャッて……!」

  「うむ、仲良くなった人物が増えるのは良いことだから、

   謝る必要はないからな……ただ話を聞いてもらいたかっただけなのだ」

  「それを遮っちまったのは申し訳ねぇ……!では、腰を据えて聞こうか」

  


 夜遅くなってしまっているのに付き合ってくれていることに

 感謝の言葉を述べてから、ミザリーは話し始めた。



  「こう聞くのは眉唾物になってしまうかもしれないが……

   〝願いを叶える石〟というものを聞いた事はあるか?」

  「願いを叶える石?幸せを呼ぶ壺みたいなもんか?」



 確かにそう聞こえてしまうのも仕方がないだろう、

 ミザリーは始めて目にした時には比喩表現だろうと気にもしなかった。



  「そんなちゃちな物とは一線を画す本物だ。

   文字通り屋敷が欲しいと願えば屋敷が湧いて出てくるし、

   別世界に繋がる穴を塞いでくれと願えば、光となって

   封じてしまう摩訶不思議な力を持つ、〝チンターマニ石〟と呼ばれる

   秘宝と呼べる物体だ」

  「オイオイ、変な宗教に捕まっちまったんじゃないよな?

   そんなものが存在するわけないだろ」

  「お前、姉ちゃんの言葉を疑うのか……?」



 ドスを利かせた声でロインが凄むとリュウジは震えあがって 

 「ごめんなさい……」と呟いた。



  「信じがたいだろうが、そうだな……

   ロイン、あの日記持ってきたと言っていたな。

   あれと、例の砕けた石を用意してくれないか」

  「あれだね、わかッた!!」



 ロインが鞄をごそごそとまさぐって、一冊の日記帳と

 包まれた〝願いを叶える石〟を取り出し、目の前の机に置いた。






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