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ロインの決意



  「お前ら……!!

   なんでここに!?」

  「なんだ、誰だいったい!?」



 ロインはこの場に現れたロス、シャト、ジョミノの

 3人に目を丸くしていた。

 彼らとは魔王城で別れて以来であり、

 ここが異世界であるならば出会えるはずもない。


 ではやはり亭主あいつの言っていた通り、

 ここは自分たちの居た世界だというのか。

 先ほど飲んだ媚薬の効果も表れてきて胸が早鐘を打つ、

 思考が上手くまとまらない……

 そう考えた瞬間、



  「くっ!!待て貴様!!」



 ミザリーの叫ぶ声が聞こえそちらに顔を向けると、

 駆けだす亭主の姿とその後を追う

 ミザリーの姿が目に入った。



  「姉ちゃ──!」



 ロインはそのあとに続いて駆けだそうとし──



  「おい、ちょっと待ってくれ!!

   いったい何がどうなってんのか教えてくれ!」



 しかしその腕をロスに掴まれてしまい、

 その場に引き止められてしまった。



  「悪ィけど離してくれ!!

   あの野郎姉ちゃんに掴まれてたのに

   逃げ出したッてことは、

   事ここに及んでまだ悪あがきするつもりだッ!!」

  「姉ちゃんって──

   お前の姉ちゃん見つかったのか!?」

  「なんと、忽然と姿を消した勇者殿が

   まさか姉上殿と再会できていたとは!

   何たる僥倖でしょうな!!」

  「ああ、まさに女神さまのお導きでしょう!

   ここまでやってこれた勇者様の行動が

   報われたのですね!」



 3人はそれぞれにミザリーに会えたことを

 祝福しロインの労をねぎらうが、

 ロイン自身はそんなことよりも早く

 ミザリーの後を追いかけたいと

 もどかしい思いでいっぱいになっていた。

 

 

  「ああ、ありがとよ……

   今は姉ちゃんに害をなす野郎共の1人が

   逃げ出してんだよ!!

   すぐに姉ちゃんを助けに──」

  「それは確かにそうしたいだろうけどな、

   状況がさっぱりわからねぇんだよ!

   なんでこの建物崩れ始めてんだ!?

   それにあの床に空いた大穴はなんだよ!?」



 ロスが質問をこちらに投げたと同時に

 蒸気供給所に激震が走る。

 ロインは心臓が縮み上がる思いがして

 ミザリーの方を振り返ると、

 とっさに飛び退くミザリーの姿が目に入り

 寸前まで立っていた床が崩れ大穴の中へと

 飲み込まれていくところだった。

 

 もはや一刻の猶予もない、

 頭に血が上りミザリーの元へ駆け付けたいと

 ロインはロスの手を振りほどこうとするが、

 その手はすさまじい剛力でも発揮されたかのように

 がっちりとロインの手をつかんで離そうとしない。



  「その話は姉ちゃんを追いかけながらでもいいか!?

   立ち止まッて話さなきャならねェことでも

   ねェだろう!!」

  「いや、どうだろうな!

   話を聞いてから動いた方が確実な行動が

   取れるような気がするんだけどよ!」

  「ロス殿の言葉にも一理ありますな。

   落ち着いて話せば何かきっかけが

   掴めるかもしれませんぞ!!」

  「勇者様、お願いできませんか?

   ヨセフさんからはほぼ何も

   聞き出せなかったので……」



 なるほどと頷きかけたロインは

 高鳴る胸を抑えながらシャトへと目線を向けた。

 


  「そうか、ヨセフッて言ッたか?

   そいつはなんて言ッてたんだ」

  「はい!

   じけいだん?とかいう組織の方で、

   勇者様がこの建物へ向かったと

   教えてくれたんで──」


 

 ロインはシャトが言葉を言い切る前に、

 自由になっている側の手で腰に提げたナイフを引き抜き、

 その喉元へ突き出した。

 

 鮮血が走り、

 喉から柄を生やしたシャトは

 目を見開いたままロインを見つめ、

 やがてその目は光を失った。


 

  「──なに、やってんだよ……」



 ロスは虚ろな声とは裏腹に

 掴んでいるロインの腕をへし折らんばかりに力を込めてきた。

 ロインはロスと目を合わせると、

 はっきりとした言葉で尋ねた。



  「……ヨセフッて奴から

   俺がここにいるッて聞いたんだよな?

   それでここまで来たわけだ」

  「ああ!それでここまでやってきたんだ!!

   そんでお前は姉ちゃんを見つけたって言った!!

   それを聞いただけでなんでシャトが

   殺されなきゃならねぇんだ!?」



 ロインは肉塊に刺さったナイフを引き抜き、

 身体を捻るとロスの腹めがけて突き出した。


 掴んでいたロインの手を離し、

 間合いを取って間一髪で避けたロスは

 反撃の構えを取ろうとしたが、

 腰の袋の中から素早くコショウの袋を取り出して

 辺り一帯にぶちまけたロインが叫ぶ。



  「わっぷ……!」

  「ヨセフそいつはここに来る途中で

   俺がぶッコロしてきた!!

   お前らがそいつから話を聞けるわけねェんだよッ!!」



 咳き込むロスの頭を手で押さえつけ、

 首を下げたところにナイフを振り上げる。


 ──確かな手ごたえと共に溺れるようなロスの声を聞いて、

   ロインはナイフを引き抜いた。


 最後に残るジョミノと相対したロインは、

 血に濡れたナイフの切れ味にはもう期待できないだろうと

 思いながらも顔の前で逆手に握る。



  「どうしてしまったんですか勇者殿!!?

   なぜ……なぜ2人を殺したのです!?

   あの魔王を斃しておしまいですぞ、

   姉君を連れて帰るだけではありませんか!?」

  「……あの魔王ッてのは、

   どの魔王だ?」



 ロインが詰問すると、

 ジョミノは周りを見回してミザリーの

 姿を見つけると指さした。



  「あそこにいるではありませんか勇者殿!!

   あのなびく赤髪こそ魔王の姿そのもの、

   血の色に染まった悪辣な姿こそ

   魔王であることの証ですぞ!!」 



 その言葉を聞いたロインは

 鼻でジョミノを嗤う。



  「語るに落ちるッてのはこのことか」



 ロインはナイフを腰だめに構えながら

 その巨体へと体当たりし、 

 刃を突き立てようとする。


 ──しかしジョミノの屈強な肉体を前に、

   血を吸いすぎたナイフの刃では

   その身体に満足な傷跡すら残せない。 

   再びナイフを引いて突き刺そうとするが、

   その前にナイフを持つ手をジョミノは

   捻り上げていた。



  「っ、一体何が起きたのです勇者殿!?

   誰かに操られでもしているのですか……!?

   もしやあの魔王に──」

  


 ロインは捻り上げられた手からナイフを落とすと、

 自由になっているもう一方の手で受け取り

 そのままジョミノの目元めがけて投げつけた。

 


  「──っ!!ぐぁ……っぁ!!!」


 

 刺さったのか、怯んだだけか。

 そこまではわからないが

 捕まれた手が自由になると、

 ロインは即座にしゃがみ込み

 ジョミノの足元に回し蹴りを叩きこむ。

 

 体勢バランスを崩したジョミノは背中から

 床へと倒れこみ、

 ロインはその上に即座に馬乗りになると

 腰の袋からポーションの瓶を取り出して

 栓を引き抜きジョミノの口の中に突っ込む。



  「あばぼっ、ごぼぼ……!!」

  「魔王城であのローブの下を見てないてめェがッ!!

   なんで髪の色を言い当てられるッ!?」



 そしてロインは、

 そのままジョミノの顎を横から思い切り殴りつけた。


 その衝撃でジョミノは白目をむく。

 ポーションはその間も絶え間なく

 口の中へ、喉へと満ちていき──


 やがて小さく痙攣をした後、

 ジョミノは動かなくなった。






 肩で息をしながらロインが

 ミザリーの居る方へと目を向けると、

 穴の向こう岸で胸元に手を突っ込まれる

 ミザリーの姿が見えた。


 ロインは立ち上がりながら、

 ふるふると拳をわななかせる。



  「あの変態野郎……

   一発ぶん殴ッてやる……」



 そのまま駆けだそうとしたロインは、

 しかしその足を止める。


 建物が崩れる轟音に交じって、

 液体の滴る音が背後から響く。

 

 ただそれだけなのだが

 その音は嫌な予想を掻き立てる。



  「ロ゛イ゛ン゛」

  


 ごぽり、と湿った声がロインを呼ぶ。


 その声に振り返ると、

 口と喉から鮮血を滴らせながら

 黒い手に纏わりつかれたロスが、

 剣を手にしていた。


  

  「な゛ん゛で殺゛じだん゛だよ゛ぉ゛、

   俺゛が何゛がじだの゛がぁ゛?

   な゛ら゛謝゛る゛がら゛よ゛ぉ゛……」



 ふらり、ふらりとこちらに歩み寄ってくるロスの姿に、

 ロインは目を細めながらミザリーの方へと顔を戻す。



  「……何かしたか、か。

   それで言うならお前は確かに何もしちャいない。

   ……でも変わッちまッた。

   俺も、お前も。

   根本から何かが変わッちまッたんだ」

  「ぞう゛が」



 そうだ、と答えようとしたロインの目の前で

 ミザリーが空間から引っ張り出され穴の中央へと

 放り込まれていくのが見える。


 ロインは駆けだした。

 媚薬で早鐘のように打つ今の心臓ならば、

 もしかしたら普段よりも遠く飛べる力を

 もたらしてくれるかもしれない。

 

 いや、そうでなければならない。

 そうでもなければ、姉ちゃんを助けられない。 



  「だけど姉ちゃんを連れて帰る、

   それだけは絶対変わらねェ!!

   たとえ俺が変わッちまッたとしても、

   それだけは絶対に変えさせねェッ!!」



 叫びながらロインは穴の中心に向かって

 大きく跳躍する。


 驚愕する顔をこちらに向けるミザリーに、

 ロインは手を伸ばす。


 そして、ただひたすらに祈った。


 もしも姉が再び手の届かない場所へ行ってしまうなら。

 そんな運命を紡いだ存在を、

 必ず殺せますように、と。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




ロイン「俺は必ず、やり遂げるッ!!」

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